基礎講座の百年

1915年の勅令第115号によって、解剖学3講座、病理学・病理解剖学部1講座、薬物学1講座、生理学2講座、医科学1講座及び細菌学1講座が設置されました。現在への伝統を受け継ぐ講座の先生がたに、講座の歴史とこれからの展望をうかがいました。

薬理学教室の100年とこれからの研究

谷内 一彦|機能薬理学分野教授

薬理学教室は本学医学部が設立された100年以上前からその系統が脈々と続いている歴史ある教室です。現在の機能薬理学分野の谷内一彦教授に、教室の歴史と最新の研究についてお話を伺いました。

薬理学教室の100年

100年前っていうと1915年、東北帝国大学になった時ですね。薬理学教室の前身は1901年に設置された仙台医学専門学校薬学科で、1915年7月14日に東北帝国大学医科大学薬物学教室になりました。つまり、100年以上前から続いているので、薬理学教室の諸先輩の先生方にとっては医学部開設というのも、通過点に過ぎなかったのかも知れません。初代教授になったのが八木精一先生(写真1)。私の研究室の前に写真が貼ってあります。戦時中の大変な時に医学部長をされ、その後、福島女子医学専門学校の校長に赴任されました。2代目の教授は寺坂源雄先生。門下生が多く、昭和大学の理事長になられた上條一也先生をはじめ、たくさん優秀な人が出ています。寺坂先生の次が橋本虎六先生。日本の循環薬理学の礎を作った人で、東北大学を循環薬理のメッカにした先生です。多くの薬で血圧を下げられる時代にあたって、多くの製薬会社の人が東北大学まで来て、ここで薬を作っていったんです。橋本先生の次が遠藤實先生。私が学生の時に薬理学を教えてもらったけど、Goodman & Gilmanというぶ厚い教科書を使って、すごく面白い講義だった。この頃に薬理学教室は2つに分かれ、遠藤先生は第一薬理、第二薬理を担当されたのが平則夫先生だね。その後第二薬理学教室は、柳澤輝行先生へと続いていき、分子薬理学教室へと名前が変わります。第一薬理学教室の方は遠藤先生が東大に移られた後に、阪大から渡邊建彦先生が赴任されて、細胞薬理学教室となりました。私は大学院重点化の時にできた臨床薬理を担当する病態薬理学の教授になり、渡邊先生が退職された際に、病態薬理学と細胞薬理学を統合して、今の機能薬理学分野の教授となりました。

初代薬物学教授・八木精一教授(大正15年ごろ)

アイソトープに魅せられ

私の研究は大きく2つに分かれます。一つは通常の薬理学研究で動物とか細胞を用いています。もう一つがサイクロトロンを用いた分子イメージング研究ですね。
前任の渡邊教授がヒスタミンの研究者であったから、今でもその研究を引き継いで私もヒスタミンの研究をしています。大学院の研究テーマの1つもヒスタミンだったけど、私がやったのはPETですね。周囲からはヒスタミンの研究者だと思われているかもしれないけれど、私の研究の起源(オリジン)は、アイソトープ研究なんですよ。私は現在、青葉山キャンパスにある東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターのセンター長でもあります。医学部の人たちから見ると私は「薬理学の教授」ですが、東北大学全体ではサイクロトロンとラジオアイソトープの責任者なんです。

なぜ陽電子放出核種などのアイソトープ研究をやっているかというと、大型加速器を使用することにすごく興味があってね。学生だったときに東北大学に国立大学として初めてサイクロトロンが導入されたんだけど、これを用いたイメージング研究がしたくて始めたんです。そのサイクロトロンを使って短寿命放射性核種を製造して、診断・イメージングプローブを標識して画像化する、という研究にのめり込みました。そこで理学部や工学部など、医学系以外の分野の人たちと一緒に仕事ができたっていうのは非常に良かったですね。
現在では、青葉山キャンパスに大学病院と連携する「分子イメージング研究センター」を作って、医学・生物学・医工学に関わる研究や薬剤の開発を他の研究科と共同で行っています。いろいろな分子プローブを作って、診断、治療に活用できるようにしたいと考えています。東西線の青葉山駅近くなので是非、一度、訪問してみてください。

偶発性が作用する:薬理学の魅力

薬理学はね、面白いですよ。学生の時に平先生と遠藤先生の講義を聴いたけど、一番面白かった。2人の先生の講義ノートはまだ残してあります。メカニズムが分かってなくても、実際に患者さんに効けば薬になる。メカニズムが分かっていたからといっていい薬が作れるわけじゃない。そういう偶然性が関係しているのも魅力かな。ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取るセレンディピティ(serendipity)が薬理学の本質かもしれない。
学生の皆さんに言いたいのは、薬理の試験は大変だけど、しっかり勉強して欲しいっていうこと。落ちることが悪いことじゃない。勉強することが重要なんだよ。薬理の試験に受かったとしても、医師国家試験やCBTで落ちる学生もいるんだよ、しっかり勉強しないと。本当に優秀な人っていうのは勉強もできるし研究もできるし診療もできる。そういう人になってほしいと思いますね。

注:PETはPositron Emission Tomographyの略。微量の陽電子を放出する各種を含む分子を生体内に投与して、そこから出る消滅γ線を計測して分子の位置を把握する手法で、グルコースの類似体の18F-FDGが保険診療で使用されています。

[ Interview,Text : 医学部医学科 阿久津 諒 2016.5]

谷内 一彦

機能薬理学分野教授

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