百周年記念対談

東北大学医学部開設百周年を迎えるにあたり、記念事業の一環として百周年記念式典がとり行われ、また、次世代の女性リーダー育成を目的として女子大学院生奨励賞七星賞(ななせしょう)が設置されました。これまでの東北大学医学部の伝統と今後のビジョンについて、キーパーソンに対談していただきました。

「女子大学院生奨励賞七星賞(ななせしょう)」に込めた思い

東北大学医学部開設百周年を記念して設けられた「女子大学院生奨励賞七星賞(ななせしょう)」。この賞にかける想いと、東北大学の”門戸開放”の理念のもと女性だけでなく多様な価値観を持った学生が活躍していく研究環境を作っていくためのヒントを、賞の設置に尽力された大隅典子教授(発生発達神経科学分野)と朝倉京子教授(看護教育・管理学分野)に伺った。

「女子大学院生奨励賞七星賞(ななせしょう)」設置の経緯

大隅教授(以下大隅):この「女子大学院生奨励賞七星賞(ななせしょう)」を作った1番のきっかけは、東北大学の医学部が開設百周年という節目の年に、女性研究者育成という観点で何かできないかという話を朝倉先生としたことでした。東北大学は”門戸開放”の理念のもと1913年に日本で初めて女子大学生を受け入れたという誇らしい伝統があります。理学系研究科には最初の女子大学院生の中のお一人の名前をとった「黒田チカ賞」という賞があり、医学部でもこれに準じた賞を作ろうと考えました。そこで、まず医学部に一番最初に入った女性の方の名前を調べてみたのですが・・・。

朝倉教授(以下朝倉):はい、昭和の初めごろのデータを調べたのですが、当時の学生の名簿には性別の記録が一切なかったんです。あるのはお名前だけで性別の判断ができず、あまりにも不正確な情報なので実在した個人のお名前を賞の名前に入れるのは諦め、賞の愛称を公募することにしました。北斗七星が医学部のロゴマークのモチーフなので、それにちなんだ「七星賞」に決まりました。印象的な名前になって良かったと思います。

女性がより活躍できる大学へ

大隅:賞への最初の応募者を募集した時、全然集まらなかったらどうしようって思ったんですけど、蓋を開けてみたら18名という想像以上に多くの方に応募いただきました。厳正なる審査を経て3名の方に賞を出しましたが、受賞された方以外にも非常に優秀な方がすごく沢山いるっていうことが分かって、未来は明るいかなと思います。

朝倉:東北大学大学院医学系研究科の大学院生では女子の割合は33%くらいで、助手・助教などの若い先生でもそのくらいの割合の女性がいらっしゃるんですよ。だけど准教授、教授と職位が上がっていくにつれて女性の比率が下がる傾向にありますね。

大隅:リーダーになるためには、色々な業績が必要で、その中の一つには受賞経験といったものがありますから、その最初の賞として七星賞を受賞して、彼女たちがそれを上手くいかしてリーダーになっていってほしい、という思いもあります。

多様性を受け入れる環境とは

大隅:女性の社会進出が進んでいる欧米と日本を比べると、子育ての仕方に違いがあると思うんですよ。日本の育て方では「個」が育たない。

朝倉:自律性が育ちませんからね。日本社会では「出る杭は打たれる」って言われるじゃないですか。要するに周りと同調してあまり目立たないように、という圧力があったりしますよね。

大隅:それが最近強くなっているのが不思議だなと思って。例えば就活生とか新入社員とかを見ると、皆同じような黒のリクルートスーツを着ている。昔はもっと色とかも違っていたのに、今ではグレーもいなくなってきて、ほとんど黒です。

朝倉:そういう均質化の流れは大学にいても感じますね。型からあまり出ないようにするというか・・・。

大隅:「質問ある?」って聞いても手を挙げないですよね。欧米では質問の時に手を挙げなければ存在しないのと同じという感覚があるので、そのまま国際的な環境で研究をやりましょうって言ってもついていけないんです。少なくとも私のような基礎研究者っていうのは、自分が新しい発見をする、他人と違うことを見出す、そういうために日々精進しているのに、今の日本ではそういう人を排除する方向にある。

これからの学生に期待すること

大隅:自分のやりたいと思ったことをやっていいんだよ、と言いたいですね。何をやりたいか言ってくれたら、東北大学の先生や事務方も含めて、一生懸命どうしたらいいか考えてあげられる。それなのに最初から何も要求されないと、どうしてあげたらいいのかも分からない。自分が何か新しいことをしたいと思ったら、「こうするにはどうしたらいいでしょう?」、「誰に聞いたらいいでしょう?」、とどんどん聞いてほしいですね。世の中の全てのことがインターネットに載っていると思ったら大間違いで、そういうところ以外にも知ったら楽しいことが広がっている、そういうことを伝えたいと思うんです。

朝倉:私は学生さんには「たったひとつの解」みたいなものを求めないでほしいっていつも思っているんです。東北大学は”研究第一主義”の大学だから学生さんたちは何がしかリサーチマインドを持つことを求められますし、卒業後は様々な場でリーダー的な立場で課題の解決に関わっていくことになると思います。高校時代までは一つだけの正解を求めて勉強したこともあると思いますが、現実の世の中にはそういうふうに単純に、たった一つの解答しかないものはありません。よりよい、ベターな解答を求めて、自分で多角的な視野を持って、それを解決できる力を大切にして欲しいと思っています。


大隅 典子
発生発達神経科学分野教授。東京医科歯科大学歯学部卒。同大学歯学部助手、国立精神・神経センター神経研究所室長を経て1998年より現職。2006年より東北大学総長特別補佐(男女共同参画担当)、2015年より東北大学大学院付属創生応用医学研究センター長を務める。

朝倉 京子
看護教育・管理学分野教授。日本赤十字看護大学卒。看護師として勤務後、厚生省健康政策局看護課保健師係長、新潟県立看護大学准教授などを経て、2009年より現職。東北大学男女共同参画委員会委員、東北大学大学院医学系研究科男女共同参画推進委員長を務める。


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