東北大学大学院医学系研究科 大学院教育改革支援プログラム

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学際領域ゼミナール 2008年度

本プログラムは、大学院生の質の高い研究の企画力・展開力の涵養と実際の研究遂行スキル向上を目的に実施する公開ゼミナールである。大学院生(ルネッサンスTA)が、異分野の第一線の研究者によるゼミの企画・運営を主体的に行うことにより、バランスの取れた企画・運営能力を身につける一方、聴講する大学院生は、講義・討論を通じて学際的な研究マインドを身につけ、創造性に溢れる研究基盤構築能力を修得することを目的にしている。本ゼミは2、3年次学生の対象科目であり、本ゼミへの参加が申請の条件となるブースター申請(研究企画申請実習)と合わせて履修単位が認定される。

平成20年度 第1回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年7月11日(金) 17:30〜19:30
講師 : 小谷元子教授
(東北大学大学院理学系研究科 数学専攻)
講演タイトル : 「いたるところ六角形-自然のなかの形と対称性-」
担当 TA : 太田一成、古瀬祐気、佐山勇輔

概要

「自然は単純を好む」という概念をもとに、自然界の単純性について数学的な観点から大変興味深い講演を頂いた。加えて小谷先生の研究にも触れられ、最新の数学研究をも勉強することができた。

自然にはエネルギーが最小になるように作用するという原理がある。2次元で考えた場合、周の長さを最小にしてかつ余剰面積を最小にして平面を均等に分割する図形は六角格子である。ハチの巣はおよそ六角格子で構成されており、効率的に巣を作っているというお話には非常に感銘を受けた。

最小作用の原理の中には対称性があり、対称性には美しさがある。数学的な観点から考察することによりさらに自然は魅力的なものとなる。また、この原理は小谷先生の研究分野であるランダムウォーク(単位時間ごとに位置をランダムに変えていくモデル)においても当てはまるということであった。
数学をより身近感じることができ、そして今後ものごとを考察する上で非常に参考になるご講演であった。

平成20年度 第1回 学際領域ゼミ 報告
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平成20年度 第2回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年7月24日(木) 17:30〜19:30
講師 : 渡部 信一先生
(東北大学大学院教育情報学研究部 研究部長
東北大学大学院教育情報学教育部 教育部長(兼任)
教育情報学専攻 IT教育デザイン論分野 教授)
講演タイトル : 「デジタルを使って「アナログ知」を探る」
担当 TA : 伊藤 亜里、古瀬 祐気、胡 春艶

概要

大学卒業後、心理言語療法士になり、福岡教育大学附属障害児治療教育センターへの入局、留学を経て、東北大学大学院教育情報学研究部へ戻られた渡部先生の経歴を通して、それぞれの現場で先生が行ってきた、失語症プロジェクト、鉄腕アトムと晋平君プロジェクト、「ほっとママ」プロジェクトと日本の「わざ」プロジェクトについて大変興味深い講演を頂いた。

「コンピュータ、インターネット、ロボット、モーションキャプチャなどのデジタル・テクノロジーを活用することにより、人間のアナログ的な側面、特に「教える-学ぶ」という行為について探究している」ということは先生のこれまでの研究の一貫したテーマである。渡部先生が実際に治療に携わった失語症患者の事、10年間研究した重度自閉症児晋平君と指書で交流できた事、そして最先端のコンピュータとインターネット回線を使っての不登校や障害児のカウンセリング、さらに最先端の3DCGテクノロジー・モ−シンキャプチャを使って300年の伝統を持つ日本の「わざ」の伝承についてお話いただき、我々の知識面を広げられ、大変価値があるゼミであった。また、講義後の懇親会でも渡部先生の研究経験から我々の興味まで熱く懇談し、いろいろな情報をいただいた。

今回のゼミでは、我々が「デジタルを使って「アナログ知」を探る」というテーマを通し、教育学に深く興味を抱いたことが大変有意義であった。

文責:胡 春艶

平成20年度 第2回 学際領域ゼミ 報告
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平成20年度 第3回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年9月17日(水)17:30〜18:30
講師 : 末永 智一 先生 教授(東北大学大学院環境科学研究科)
講演タイトル : 「医療とバイオセンシング工学」

概要

末永先生はマイクロ・ナノテクノロジーをベースとし、医療、環境、食品などの分野で使用できるバイオセンシングデバイスやシステムの開発を手掛けられてきました。今回は「医療とバイオセンシング工学」というタイトルで、バイオセンサデバイスの基礎から先生が実際に開発中のバイオセンサまで、幅広い内容をわかりやすくご講演いただきました。「生体・生理反応をいかにして短時間、低価格で定量的に評価するか?」という医工学分野における永遠のテーマに対して、末永先生が熱く情熱的に取り組んでおられる姿が印象的でした。

現在バイオ関連市場は年間1.7兆円にも上る勢いで成長を続けており、今後ますます医工学分野には大きな期待が寄せられることでしょう。この中で顧客志向型のデバイス開発を産学連携システムの中で実現するには、地財・特許のマネージメントはもちろんのこと、自分の研究領域にこだわらない姿勢、また積極的に情報をシェアしてお互いのニーズを充分に理解し合うことが求められています。お互いの学部でこれまでに蓄積してきたコツや勘などの「暗黙知」と呼ばれる部分を、いかにして皆が知識を共有できる「形式知」として世界に発信するか?今後の発展はここにかかっているのではないでしょうか?

末永先生曰く、東北大学はこうした医工学分野で、世界をリードできる可能性を充分に秘めているそうです。今後、医学と工学の融合領域研究が、東北大学を中心にして、ますます発展していくことを願う気持ちが一層深まった講演会でした。

文責:住吉

平成20年度 第3回 学際領域ゼミ 報告
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平成20年度 第4回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年10月24日 金曜日 17:00〜19:00
講師 : 袖岡幹子先生(理化学研究所 袖岡有機合成化学研究室 主任研究員)
講演タイトル : 「有機合成化学とケミカルバイオロジー
〜低分子化合物による生命現象へのアプローチ〜」

概要

袖岡先生は、生物活性物質を「つくる」ことにより創薬、生物学への貢献を目指して研究を展開されている。今回は有機合成化学を使って生命現象を明らかにしていくというケミカルバイオロジーについてその歴史的な経緯から先生が行われている最新の研究成果までをご講演いただいた。

まず、ケミカルバイオロジーの提唱者Schreiber博士のFK506をプローブとしたPP2B(カルシニューリン)による免疫抑制システムの発見を例として、低分子化合物による生命現象へのアプローチについてご説明をいただいた。袖岡先生はさらにFK506とは異なる作用機序によるPP2B阻害剤の作製に成功しており、今後はこの化合物を使って、PP2Bの免疫、神経系における新たな機能が明らかになることが期待された。次に、ネクローシスを阻害する低分子化合物についてのお話をいただいた。現在ネクローシスの分子メカニズムは明らかではないが、アポトーシス細胞死を阻害せず、ネクローシスのみを特異的に阻害するというオリジナルの化合物をツールとして現在そのメカニズムの同定を目指されている。

現在、創薬研究の潮流として分子標的薬がクローズアップされがちであるが、現象を抑制(あるいは活性化)するという低分子化合物をプローブとして新たな生命現象を解き明かしていくという手法は今後ますます重要になっていくと思われた。低分子化合物ならではの、「特定の分子の特定の機能のみを抑制する」、あるいは「類似の活性を持った分子を全体的に抑制する」という特性と、遺伝子改変動物などの発生工学的な手法を組み合わせることにより、得られる情報量は格段に増大するものと思われる。さらに、低分子化合物を生体内分子と共有結合させることでその活性化状態をモニターすることができる可能性にも触れられており、低分子化合物を用いた研究の有用性、発展性を認識することができた非常に有意義なご講演であった。

文責:石川

平成20年度 第4回 学際領域ゼミ 報告
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平成20年度 第5回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年11月11日 金曜日 17:00〜19:00
講師 : 北野宏明 先生
(ソニーコンピュータサイエンス研究所取締役所長
ERATO-SORST 北野共生システムプロジェクト総括)
講演タイトル : 「システムバイオロジーからの癌治療戦略」

概要

北野先生は、生命を要素の単なる集合ではなく、システムとして理解する“システムバイオロジー”を世界で初めて提唱された。本講演では、がん治療に対するシステムバイオロジー・アプローチの可能性についてご講演いただいた。

まず制御工学的理論に基づきロバストネスについての定義をされ、それを踏まえたうえで、がんはロバストなシステムであるとのことからその治療戦略を考えるという話の流れであった。ロバストネスとは「システムがいろいろな外乱に対してその機能を維持する能力」と定義される。がんは治療という外乱に対して柔軟に対応することから、ロバストなシステムであると考えられる。がん治療戦略にとっては、がん「細胞」を殺すこと自体は難しいわけではないが、がん「組織」が様々ながん細胞のヘテロな集団であることがその治療を困難にしている。結果として治療効果のある薬剤の最小量と患者さんのQOLを維持できる最大量その許容範囲が極めて狭いところにその問題が存在すると考えられる。

現在、創薬戦略としては分子標的薬を探索するという手法が主流を占めている。しかしながら、これまでに同定されているがん遺伝子の多くは細胞内において他の分子との相互作用が極めて多い「ハブ」タンパク質でることが知られており、それを阻害することは重篤な副作用を示す可能性が高い。実際にがん遺伝子のノックアウトマウスは胎生致死の表現型を呈するものが高率に存在するという。このような背景にあり、北野先生はロングテール創薬という創薬概念を提唱している。ロングテール理論は、Amazonのビジネスモデルを説明するものとして一躍脚光を浴びているが、今回の創薬に適応した場合、「比較的重要ではないタンパク質を複数の組み合わせにて阻害することにより、副作用を軽減し、治療効果を最大化する方法」と言うことができる。実際にアメリカのベンチャーであるCombinato RX社では、ジェネリック薬を複数の組み合わせにて投与することによる相乗的効果をシステマティックにスクリーニングするという創薬手法を取り入れておりそのいくつかはすでにPhaseII trialに進行中とのことである。

このような手法が導入されることにより、創薬に関する産業構造が一変する「Open pharma」の時代が到来するのではないか、と氏は予想する。ジェネリック薬の組み合わせによりこれまでに無い効果が得られる、あるいは先発薬が存在してもそれと同程度の効果を安価な薬品の組み合わせによって得ることができるとなれば、これまで製薬企業が独占的に有していた低分子化合物ライブラリーのスクリーニング系と類似の創薬スクリーニングが比較的小さい研究規模にて可能になるという。合併症の患者に対する複数の治療薬投与による想定外の治療効果というBed to benchの報告も期待されるところである。

創薬を目指した実践的なビジョンのもと、最新の情報科学と生命科学との融合による革新的な研究手法を取り入れている氏の講演は非常に刺激的であり、「世界のフラット化」を引き起こした情報科学の革新的な進歩が医学・生命科学領域にも生じつつあるダイナミックな時代に今まさに自分が置かれているのだと感じた非常に示唆に富む講義であった。

文責:石川

平成20年度 第5回 学際領域ゼミ 報告
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平成20年度 第6回 学際領域ゼミ 報告

日時 : 平成20年12月2日(火) 17:30〜19:30
講師 : 深水 昭吉先生
(先端学際領域研究センター教授)
講演タイトル : 『学際研究における生命科学の重要性』
-妊娠高血圧マウスから始まったチャレンジ-
担当 TA : 佐山勇輔 伊藤亜里

概要

今回ご講演いただいた深水昭吉先生がセンター長を務める、筑波大学先端学際領域研究センターは、平成6年に設置された。学際研究の重要性をいち早く認識し講座や部門の代わりに緩やかな方向性を示すアスペクト性を取り入れており、時代の要請に応じて柔軟に研究組織を変革する。このように学際領域研究の第一線で活躍されている深水先生の講義は、ご自分の研究の紹介にとどまらず、我々のゼミのテーマでもある、「学際領域研究」について様々な側面からのアプローチでご説明いただいた。

まず、研究者に求められることとして、一見関係ないものを結びつけて考え、観察したことを推理する力が、学際研究に重要であるというお話であった。

次に、生体の血圧調節、および、電解質バランスの維持に重要な酵素−ホルモン系である、レニン・アンジオテンシン系のマウスに関する研究から様々な分野が注目する発見が得られた研究についてお話をいただいた。ヒトのレニン(hRN)をもったメスのマウスとヒトのアンジオテンシン・(hAG)をもったオスのマウスを掛け合わせるとその子供が高血圧になる。この交配を逆に、すなわち、ヒトのhAGを持ったメスマウスとhRNを持ったオスマウスを掛け合わせると母マウスが妊娠後期に高血圧、痙攣など妊娠高血圧症候群の兆候を見せることを発見した。また、このマウスから生まれた胎児は発育不全であり、出産後にすべて死んでしまう。このマウスは産婦人科界のみならず、小児科界からも注目を集め、臨床研究者との異分野交流の懸け橋となることが期待されている。

その後、学際研究(Interdisciplinary research)とはなにかという討論となった。Aの研究の流れにBが参加するという、Borrowing research、一定の期間一緒に研究し、プロジェクトの終了後解散するというMultidisciplinary research、そして、AとBが一緒になって新しいCという研究を生み出すのがInterdisciplinary researchであるというお話だった。最初の二つは今もよくやられているが、3つ目のInterdisciplinary researchはとても時間がかかり、2,3世代にわたることもあるが、そこにチャレンジしていく必要があるということだった。

今回の講義では研究者の卵である我々に研究者になるということ、また、学際研究の重要性について分かりやすく説明していただいた。個人的に印象に残ったのは、Scienceから先生の妊娠高血圧マウスの論文の受理を知らせる手紙がとどいたのが、先生の誕生日と同じ日で、その時‘研究者としてやっていけるかもしれないと思った‘とおっしゃられていた事だ。素晴らしい業績を挙げておられる先生でも、はじめから自信があったわけではないのだとわかり、自分も努力すればできるのではないかという希望がわいてきた。最後に我々のゼミのためにお忙しい時間を割いて、ご協力いただいた深水先生に深く感謝いたします。

文責:伊藤亜里

平成20年度 第6回 学際領域ゼミ 報告
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