2018年度医学部奨学賞受賞者について

医学部奨学賞授与式及び受賞講演会は、2019年1月17日、医学部1号館大会議室で行いました。

医学部奨学賞受賞者写真

金賞

学際科学フロンティア研究所 人間・社会研究領域 助教 鹿野 理子

機械学習を用いた“痛み”の脳バイオマーカー研究

“痛み”とは不快な感覚性・情動性の体験である。近年、人工知能領域で使われる機械学習を応用し脳活動から現象を予測することが可能となった。本研究では、このデータ駆動型アプローチにより、“痛み”の客観的指標となる脳バイオマーカーの作成を試みた。
”痛み“、”認知“、”情動“の弁別:内側前頭前野は痛み、認知課題、情動課題でも賦活するが、これらの現象を直接比較分離することは困難であった。本検討では、270 人の参加者からなる18の研究、疼痛課題(温熱刺激、機械刺激、大腸刺激による内臓痛)、認知課題(ワーキングメモリー、反応選択、反応競合)、情動課題(視覚刺激による情動誘発、恋人に振られたときなどの社会的意味での情動誘発、聴覚刺激による情動誘発)を直接比較した。その結果、前帯状回を含む内側前頭前野において、”痛み“は前中帯状回に、”陰性情動“は腹内側前頭前野に、”認知“制御は、背側中帯状回に一般化(客観化)できた。本検討は、主観的な体験現象を脳活動パターンとして直接比較しうる手法を確立した意義が大きい。
体性痛と内臓痛の直接比較:機能性疼痛障害のサンプル、過敏性腸症候群およびクローン病を想定した大腸刺激(日本、フランス)、機能性ディスぺプシアを想定した胃刺激(ベルギー)、機能性胸痛を想定した食道刺激(英国)、外陰部痛を想定した外陰部機械刺激時ベルギー)、線維筋痛症を想定した機械刺激による体性痛(米国コロラド)を比較検討した。その結果、直腸刺激と温熱体性痛は非常に高い正確性を持って脳活動パターンより区別でき、胃刺激、食道刺激、外陰部刺激の脳活動パターンはその中間型として特徴づけられた。
さらに我々は、同手法により疾患群と健常群での脳活動パターンバイオマーカーの作成を試みており、臨床診断や薬物の効果、心理療法等の介入を客観的に評価できる指標として検証する企画を進めている。

銀賞

循環器内科 助教 大山 宗馬

冠攣縮性狭心症患者における冠動脈外膜・周囲脂肪組織の炎症性変化

最近、異所性脂肪の一つである冠動脈周囲脂肪組織(Perivascular adipose tissue; PVAT)が、冠動脈疾患の成因において重要な役割を果たす活動性の高い内分泌組織であることが注目されている。最近、我々は冠攣縮ブタモデルを用いることで、冠攣縮の成因としてのPVATの炎症性変化の役割と、18F-FDG PETを用いることでその炎症性変化を非侵襲的に評価できることを明らかにした。しかしながら、冠攣縮性狭心症(Vasospastic Angina: VSA)患者におけるPVATの役割や、その炎症性変化を検出するための18F-FDG PETの臨床的有用性に関しては未解明である。
本研究では、上記の基礎的知見をもとに、東北大学放射線診断科との共同研究において、VSA患者においてPVATの炎症が重要な役割を果たしており、その活動性の評価において18F-FDG PETが有用であることを明らかにすることを目的とした。2015年3月から2016年9月にVSAが疑われた40人の患者に対して、アセチルコリンを用いた冠攣縮誘発負荷試験を行い、VSA群27名とNon-VSA群13名の2群に分けた。PVATの量的変化を測定するための冠動脈CT、PVATの炎症性変化を測定するための心電図同期18F-FDG PET/CT、冠動脈外膜微小血管の血管内イメージングとして光干渉断層診断法を行い、これらはNon-VSA群と比較してVSA群において有意に増加していた。また、VSA群の追跡調査として、中央値23ヶ月後にフォローアップの18F-FDG PET/CT検査を行ない、内服加療後に症状の改善と一致してPVATの炎症性変化が低下することが明らかになった。本研究の結果から、VSAにおいてPVATの炎症が重要な役割を果たしており、その活動性の評価において非侵襲的検査である18F-FDG PET/CTが有用であることを世界で初めて明らかにした。
本研究の成果により,これまで侵襲的なカテーテル検査によって行われてきたVSAの診断と病勢の判定を非侵襲的検査である18F-FDG PETで行える可能性を示すことに成功した。

銀賞

糖尿病代謝科 助教  山本 淳平

肝臓-膵β細胞間神経ネットワークによる膵β細胞増殖制御の分子機構の解明

肥満時の代償性膵β細胞量増加の機序は未だ不明な点が多いが、当研究室では肝臓におけるERK(extracellular signal-regulated kinase)経路活性化を発端とする神経シグナルが内臓神経求心路‐中枢神経‐迷走神経遠心路を介して膵β細胞増殖を誘導していることを報告してきた。
本研究では、この肝臓‐膵β細胞間神経ネットワークを介した膵β細胞増殖機構の分子機序を検討した。まず肝ERK経路活性化マウスの膵島を用いた網羅的解析からFoxM1(forkhead box M1)とその標的遺伝子群の発現が亢進していることを見出し、迷走神経切断によりこの膵島FoxM1経路活性化/膵β細胞量増加がほぼ完全に抑制された。肥満マウスで認められる膵島FoxM1経路活性化/膵β細胞量増加が、肝ERK経路抑制や迷走神経切断によって遮断されること、肥満時や肝ERK経路活性化時の膵β細胞量増加が誘導性膵β細胞特異的FoxM1欠損マウスで阻害されることから、肥満時の神経を介した膵β細胞増殖は膵β細胞内FoxM1を介していることが示された。さらに単離膵島を用いた検討から、アセチルコリンに加えて下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ペプチド(PACAP)または血管作動性腸管ペプチド(VIP)といった複数の迷走神経因子により膵β細胞内FoxM1を介して細胞増殖が誘導されることが示された。

以上の結果から、肥満の際には肝ERK経路活性化を発端とする神経シグナルにより、迷走神経終末から放出される複数の神経因子が作用し、膵β細胞内FoxM1を介して膵β細胞増殖が制御される、というメカニズムが明らかになった。この結果は生体が有する代謝恒常性維持機構の分子機序を解明したものであり、新規糖尿病治療法の開発につながる可能性がある。さらに複数の神経因子を臓器特異的に同時にかつ高濃度に作用させるという、全身の代謝恒常性維持に神経系が用いられる生理的意義をも示唆しており、今後の代謝研究、臓器再生研究の進歩につながることが期待される。

 

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