平成29年度医学部奨学賞受賞者について

医学部奨学賞授与式及び受賞講演会は、平成30年1月18日、医学部1号館大会議室で行いました。

医学部奨学賞受賞者写真

金賞

東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム解析部門 准教授 宇留野 晃

Nrf2による代謝恒常性維持機構の解明

Nrf2(NF-E2-related factor 2)は解毒代謝・抗酸化酵素発現を誘導し、生体防御機構の中心となる転写因子です。しかし、Nrf2の代謝恒常性維持における役割は知られて来なかったことから、その解明に取り組んできました。

全身性のNrf2活性化は、糖尿病モデルdb/dbマウスでは糖尿病の発症を、高カロリー負荷モデルマウスでは肥満と糖尿病の発症を抑制しました。誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)過剰発現による膵β細胞障害モデルマウスの解析により、Nrf2は膵β細胞の酸化ストレス障害を軽減することが明らかとなりました。また、脳視床下部セレノシステイン転移RNA欠失マウスの解析では、視床下部酸化ストレスはレプチン作用に重要なプロピオメラノコルチン陽性神経数を低下させ、レプチン抵抗性とインスリン抵抗性による肥満と糖尿病の発症を促進させましたが、Nrf2活性化はそれらの病態を抑制しました。さらに、Nrf2は抗酸化作用と独立して、骨格筋ではグリコーゲン代謝酵素遺伝子であるグリコーゲン分枝鎖酵素Gbe1およびホスホリラーゼキナーゼPhka1発現を誘導し、グリコーゲン代謝回転を促進させ、さらに肝臓では糖新生酵素グルコース-6ホスファターゼG6pc発現を低下させ糖新生を抑制しました。Nrf2は肝臓で線維芽細胞増殖因子(FGF)21遺伝子発現および分泌を増加させ、分泌されたFGF21は脂肪細胞に作用して解糖系に関連した遺伝子発現を誘導しました。

以上からNrf2は、膵β細胞および視床下部では抗酸化酵素遺伝子発現制御による細胞保護作用を、骨格筋、肝臓、脂肪では代謝系遺伝子発現制御によるグリコーゲンや糖新生などの代謝調節作用を発揮し、これらの作用が協調することにより代謝恒常性維持に貢献していることが明らかとなりました。

金賞

東北大学大学院医学系研究科 眼科学分野 准教授 國方 彦志

低侵襲硝子体手術の開発と視機能バイオマーカーの確立

網膜硝子体手術を最小切開かつ精度の高いレベルで行うことは重要である。我々は、巨大裂孔網膜剥離など難症例でも極小切開手術の有用性を見出し、後嚢切除併用トーリック眼内レンズ固定法、落下眼内レンズに対する小切開縫着法、眼内異物に対するtriple C-through法の開発など、いずれも患者に優しい低侵襲手術法を提唱しその標準化に努めてきた。最近では、世界最小径27ゲージを用いて術中OCT併用硝子体手術や、光毒性を低減した27ゲージ極低照明3D硝子体手術も報告し、手術精度のみならず神経保護にも着目している。失明に至る多くの眼疾患において、網膜細胞死が直接的な視力障害の原因になるため、細胞死を抑制する研究を行い、周術期神経保護治療法や新規抗酸化眼内灌流液の開発に繋げている。
診断と予後予測に使用可能な簡便なバイオマーカーがあれば患者への福音となる。我々は、非侵襲的に眼血流を計測するレーザースペックルフローグラフィに着目し、臨床応用に向け正常基準値の確立、さらに個人間比較を可能とするパラメータを動物実験からも明らかにした。緑内障など様々な眼疾患の血流解析も行い、病態解明と新しい診断法開発に繋げている。また、糖尿病網膜症患者の眼内で抗酸化イオウ分子種が上昇していることや、酸化ストレスが網膜症や緑内障の病態に深く関わっていることも明らかにした。このように、眼血流や酸化ストレスなどの臨床データが眼疾患病態や視機能予後に深く関わることを突き止め、新しいバイオマーカーを多数提唱している。
以上、患者の視機能を最高のものにするため、低侵襲硝子体手術の開発、さらに眼内サンプル・眼血流・酸化ストレスの解析を行うことで病態理解に努め、診断と予後予測に使用可能な視機能バイオマーカーを創出することを考え、研究を続けている。

金賞

東北大学病院 循環器内科 講師  杉村 宏一郎

非手術適応慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する新たな治療法の確立

慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は、慢性血栓による肺動脈の閉塞・狭窄により肺高血圧症に至る予後不良の疾患である。主肺動脈に病変の主座を置く中枢型CTEPHに対しては外科的治療である血栓内膜摘除術が第一選択の治療法として確立されているが、非手術適応の末梢型CTEPHには、これまで薬物治療が主体で、手術適応例に比較し、5年生存率60%と予後が不良であった。そこで、我々は、2009年よりこれまで非手術適応CTEPH患者にバルーン肺動脈形成術(BPA)を行い、その効果を報告してきた。まず、光干渉断層法(OCT)を用いた血管内イメージングにより、肺動脈には網目状の遺残血栓構造が存在し、これが肺血管抵抗の増加の原因となり、BPAによりこの構造を破壊することで肺血流が改善することを明らかにした。2012年に、従来治療と比較し、BPA治療は1年予後(n=12、1年生存率100%)を改善することを報告した。BPAの効果は、CTEPH患者における血行動態だけでなく、腎機能・インスリン抵抗性・栄養状態といった代謝面の改善をもたらし予後改善の一つの機序になっている可能性も示した。また、CTEPHにおけるBPAによる肺内シャントの改善が、酸素化改善の一つの機序になっていることを示した。さらに、BPAは右心室とともに左心室の機能も改善することを心臓MRIにより示し、加えて新たな画像技術である4Dflow画像によりBPA前後の肺動脈内の渦流の改善を報告した。そして、BPA治療を行った77名(424セッション)において、治療成績と合併症を詳細に検討し、長期予後改善効果を示した(5年生存率: BPA群vs従来治療群; 98.4% vs 77.5%,P<0.01)。

銀賞

東北大学病院 糖尿病代謝科 助教  浅井 洋一郎

脂肪肝における胆石形成メカニズムの発見

コレステロール胆石症は、脂肪肝との合併が多い疾患として知られ、高頻度の消化器疾患としてのみならず、近年はメタボリックシンドロームの合併症の一つとしても認知されつつある。しかし、脂肪肝においてコレステロール胆石形成が促進される機序については、これまで明らかでなかった。本研究では、脂肪肝の際に生じる脂肪蓄積がもたらす低酸素状態への応答が端緒となり、コレステロール胆石が発症する分子メカニズムを解明した。
肝組織において、中心静脈周囲は生理的に低酸素となっている。脂肪肝では肝細胞の肥大により類洞が狭小化し、組織内血流が低下する事により低酸素が進行し、低酸素誘導因子1α(HIF-1α;Hypoxia-inducible factor 1α)が活性化する。そこで、Cre/loxPシステムを用いて肝細胞選択的・後天的HIF-1αノックアウトマウスを作成し検討したところ、脂肪肝・胆石を誘導する食餌負荷によるコレステロール胆石形成が、対照マウスと比較して約4分の1程度に抑制される事が観察された。KOマウスでは胆汁流量が多く、胆汁脂質(胆汁酸、コレステロール、リン脂質)の濃度が一様に低値であったことから、肝細胞からの水排出亢進により胆汁が希釈され、胆石形成が抑制されるという機序が明らかとなった。そこで、その分子機序の検討を進めた結果、肝細胞から胆管腔への水排出を担うチャネルであるアクアポリン8(AQP8;aquaporin8)の発現亢進をともなう肝細胞からの胆汁産生の増加が認められ、in vitro実験により、HIF-1αがAQP8の発現を抑制する事が解明された。さらに、ヒト非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:non-alcoholic fatty liver disease)患者からの生検サンプルを用いた解析により、ヒトNAFLD患者の胆石形成にも肝臓HIF-1αが重要である事を明らかとした。
以上の結果により、脂肪肝→肝臓内低酸素→肝細胞HIF-1α活性化→AQP8発現抑制→胆汁の濃縮→胆石形成とつながる、胆石病態の分子機序が解明された。さらに、HIF-1αが、虚血時の細胞内水分保持に貢献しているという新たな低酸素応答の概念の提唱にもつながった。今後、肝低酸素の抑制による胆石症の予防・治療法開発につながることが期待される。

銀賞

東北大学大学院医学系研究科 情報遺伝学分野 助教  岡江 寛明

ヒト胎盤幹細胞の樹立

胎盤は母体と胎児をつなぐ重要な器官であり、胎児の呼吸器・消化器・内分泌器として働くとともに、母体の免疫系から胎児を守る役割を担う。胎盤の主要な構成細胞は栄養膜細胞と呼ばれ、栄養膜幹(TS)細胞より発生する。マウスにおいてTS細胞の培養技術が確立されて20年近く経つが、これまでヒトTS細胞の樹立に成功したという報告はない。本研究では、まず、ヒト胎盤より栄養膜細胞を高純度で分離し、次世代シーケンサーを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行った。遺伝子発現データを用いてパスウェイ解析を行ったところ、WntシグナルおよびEGFシグナルが栄養膜細胞の増殖を促進する可能性をつきとめた。この結果をもとに培養条件の検討を行い、栄養膜細胞を長期培養することに世界で初めて成功した。得られた細胞株は少なくとも5ヵ月間に渡って培養可能であり、長期培養後も多分化能を維持していた。また、生体の栄養膜細胞と非常によく似た遺伝子発現パターンおよびDNAメチル化パターンを持つことも確認した。さらに、同様の性質を持つ細胞株をヒト胚盤胞より樹立することにも成功した。以上の結果より、栄養膜細胞および胚盤胞より樹立した細胞株はヒトTS細胞であると結論した。ヒトTS細胞は胎盤の発生および機能を研究するうえで優れたモデルとなるとともに、流早産や妊娠高血圧症候群など、胎盤の形成不全によって引き起こされる様々な疾患の病態解明や治療法開発に役立つと期待される。最後に、本研究を行うにあたりご指導頂きました有馬隆博教授はじめ情報遺伝学分野の皆様に感謝申し上げます。

 

銀賞

東北大学病院 腎・高血圧・内分泌科 助教  三島 英換

腸腎連関に基づく慢性腎臓病の病態解明と新規治療法の開発

慢性腎臓病(Chronic kidney disease, CKD)は進行すると透析が必要となる末期腎不全に陥るのみならず心血管死も増加するためその進行を抑制する治療法が必要とされています。近年、腸管や腸内細菌叢と腎臓の臓器連関である「腸腎連関」が注目されており我々はこのアプローチからCKDの病態を検討し以下の点を明らかにしました。

① CKDの病態における腸内細菌叢の関与を同定するために、腸内細菌叢をもたない無菌の腎不全マウスを作成し生体内代謝物の比較を行いました。その結果、腸内細菌叢は腎不全時に体内に蓄積し悪影響を及ぼす尿毒素の産生に大きく関与する一方、短鎖脂肪酸産生やアミノ酸利用を介して腎保護的にも作用しており、腸内細菌叢が消失した状態ではむしろ腎障害が悪化することが分かりました。このように腸内細菌叢はCKDに対して正負両側面から関与しておりそのバランスが重要であることを明らかにしました。

②腸内細菌叢はCKD病態に関与するため腸管への介入がCKDの治療法となる可能性があります。腸管をターゲットした薬剤を検討した結果、便秘症治療薬であるルビプロストンがCKDで悪化した腸内環境を是正することで尿毒素の蓄積を軽減し腎障害進行を抑制することを腎不全マウスを用いた研究から明らかにしました。実際のCKD患者におけるルビプロストンの腎障害進行抑制効果の検証のための医師主導治験も現在進行中です。このような他疾患での既承認薬の腎保護効果を見出すことはCKD治療薬へのドラッグリポジショニングが期待されます。

本研究からCKDの病態には腸内細菌叢が関与しており、腸管をターゲットした治療介入がCKDの治療法となりうることを見出しました。今後は腸腎連関の更なる解明を行うことでCKDの新たな治療法が創出されることが期待されます。最後に、今回の受賞に対してご指導頂きました阿部高明教授、伊藤貞嘉教授はじめ共同研究者の皆様に深謝申し上げます。

 

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