艮陵新聞特集 留学体験記⑷

研究成果を治療に結びつけるために

分子薬理学分野
佐藤 岳哉 助教
留学先:University Health Network

TR研究のための留学先を選んだ

私は、2003年9月から2年半、カナダ・オンタリオ州トロント市にあるUniversity Health Network (UHN)という組織に研究留学しました。ここでは、基礎研究はもちろんのこと、Translational Research (TR)、そして臨床研究が盛んに行われています。
留学前には、私は他大学にて基礎細胞生物学研究を行っていましたが、自分の研究の成果が直接、治療に結びつく可能性のあるTR研究を行いたいと思い、留学先を選びました。

遺伝子治療の開発に従事

私は上記UHNの中のオンタリオ癌研究所のMedin教授の研究室に所属しました。この研究室には、カナダ人、アメリカ人、中国人、オーストラリア人、日本人と様々な国籍の人が共に研究活動を行っています。
この研究室では、先天性遺伝疾患のリソソーム病の一つ、ファブリー病に対するレンチウィルスベクターを用いた遺伝子治療法の確立を主なテーマとして取り組んでいます。
また、別のProjectとして、骨髄幹細胞移植時にしばしば誘発される重篤な副作用Graft versus host disease (GvHD)に対する遺伝子治療法開発も行われてきました。
GvHD制御のための遺伝子治療法には、GvHDを誘発する原因となるT細胞に自殺遺伝子(例:ヘルペスウィルスチミジンキナーゼ, HSV-tk)をEx vivo導入後移植を行います。GvHDが起きた際には、この酵素によって活性化されるガンシクロビル (GCV)を投与し、遺伝子導入細胞内で活性化されたGCVが、細胞毒性を示すために遺伝子導入細胞が『自殺』し、GvHDが抑制されます。
この方法を用いた臨床研究が日本を含む世界各地で行われていますが、ウィルス由来酵素を用いるこの方法ではヒトにおいてその免疫原性が問題とされます。
私は、ヒト由来の酵素Thymidylate kinase (tmpk)とアジドチミジン(AZT)とを組み合わせる、新規自殺遺伝子治療法の開発でこの問題点の解決を図りました。この研究に約2年従事して、この方法の有効性を確認、その成果を報告し、現在は臨床試験の準備中です。
また、研究の副産物として作ったホタルルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだレンチウィルスベクターをマウスに投与したin vivo imagingの研究も行いました。
この研究は当医学部においても実施可能であり、再びこの研究についても行ってみたいと考えています。

家族が全面的に支えてくれた

英会話には苦労しましたが、留学生活を通じ、様々な人に自分の仕事をサポートしてもらい何とか無事に留学期間を過ごすことができました。 英語が不自由であるからということで、周りから遠ざかるのではなく、むしろ、自分の意志を周りにつたえ、仕事をスムーズにこなす事ができました。
もちろん、この留学生活を全面的に支えてくれた家族には、大変感謝しています。
2年半の留学生活の間、生活を楽しみ、特に大きな病気もせず、安全に生活をできたことが、一番の収穫だと思っています。

留学に関するQ&A

  • Q1 留学の準備の際に、最も苦労したことは何でしょうか?

    留学先を自分で探したので、留学先を探すことが一番苦労しました、また、留学先のボスとのTelephone interview後に、コミュニケーションをとるための英会話力をつけるように要求されました。留学出発までにあまり時間がありませんでしたが、英会話学校に通い、少しだけ話せるようになりました。

  • Q2 留学先はどのように探しましたか?

    インターネットの「研究留学ネット」その他のWebsiteや雑誌の公募情報を探しました。

  • Q3 留学に際する費用について、奨学金などの支援は受けることができましたか?
    あるいは、留学先での生活費はどのように工面されましたか?

    財団などの公募に応募しましたが不採択で、奨学金等の支援はありません。留学先からの給与と、自分の貯金からの持ち出しです。給与のでないところからの留学受け入れの話はありましたが、日々の生活のためにはこのオファーを受諾することは出来ませんでした。

  • Q4 留学先で困ったことは何でしょうか。

    家族の滞在ビザの更新に手間取り、家族分のビザが切れてしまったこと。さらにビザと連動している家族分の健康保険が失効してしまい、病院にかかっても全て自費になりました。

(艮陵新聞277号、2012年5月1日発行)

※公開の記事は、本人と艮陵新聞の許可を得て転載をしております。
また、所属や職名、略歴などは、記事発表当時のものとなっております。

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