東北大と出会って36年

環境保健医学分野
赤池 孝章 教授

熊本大学教育の原点

私は昭和59年に熊本大学医学部を卒業して同第一内科に入局後、研修医、関連病院勤務、大学院を含めて7年間を同医局に所属していました。後半の4年間は臨床の大学院(呼吸器・感染症)に在籍しながら基礎系の微生物学教室に配属されました。大学院修了後は同微生物学講座の助手に採用され、講師、助(准)教授を経て平成17年より教授を拝命し平成25年まで熊本大学に在職しました。

東北大学との出会いは、東北大学出身の前田浩教授の講義を受講した36年前に遡ります。当時、熊本大学には、前田先生の前任者の日沼賴夫教授をはじめ東北大学出身方々が多数ご活躍でしたが、医学部の微生物学講義・実習を日沼先生と前田先生が担当されていました。特に、日沼先生の伝説的(カリスマ的?)な講義はいまでも卒業生に語り継がれています。

日沼先生は、昭和46年から9年間熊本大学に勤務され、その後京都大学にご異動され、前田先生が後任教授となられましたので、私は前田教授から細菌学とウイルス学のご指導を頂きました。前田先生と日沼先生は、本学に黒屋政彦教授、石田名香雄教授が築かれた細菌学教室のご一門でしたので、熊本大学でも、東北大学スタイルの微生物学講義と実習を開講されていました。私は現在も石田先生と日沼先生が執筆された「病原微生物学」という教科書を座右の書にしていますが、(写真)実際、学生時代には、石田名香雄先生、さらには、本間守男先生など、ビッグな先生の非常勤講義を拝聴し薫陶を賜りました。

座右の書「病原微生物学」

また、本学理学部出身の金ヶ崎史朗先生(活性酸素研究のパイオニア:当時東大教授)の講義も拝聴しました。当時まだ20歳代の駆け出しでしたので、先生方の鞄持ちで大学への送迎を担当しながら、時には天下の名城熊本城にもご案内しました(熊本地震で被災して残念です)。この様な東北大学の先達との交流の機会を通じて学問のスピリッツを醸成するという幸運に恵まれました。その邂逅から、もうかれこれ36年程になります。最近の朗報ですが、前田 浩先生が「トムソン・ロイター引用栄誉賞」を受賞されノーベル化学賞の候補者に選ばれました。

東北大学と多彩な交流

奇しくも、かつて所属していた熊本大学医学部第一内科教室からは、本学の第一内科や当時の抗酸菌病研究所(現加齢医学研究所)へ先輩達が内地留学しており、東北大学医学部との活発な医療と医学交流が行われていました。私は、その様な東北大学の気風のなかで、大学人としてだけでなく、医師のキャリアをスタートアップしました。
熊本の第一内科と大学院時代の研究テーマは感染病態と酸化ストレスでした。当初、インフルエンザの増悪因子としてプロテアーゼに着目して研究を開始しましたが、それに並行して、感染防御や炎症における活性酸素と酸化ストレスを大きなテーマとして基礎研究に取り組みました。幸運なことに、また、東北大学の学際的学風の教育効果もあって、大学院の2年次に研究成果をScienceに発表することができました。これを契機に本格的に推進した酸化ストレスは私のライフワークになりました。

その発展系として、2000年頃から推進してきた一酸化窒素(NO)研究では、本学呼吸器内科の一ノ瀬正和教授や循環器内科の下川宏明教授と長年共同研究を行ってきました。特に、一ノ瀬先生とは、恩師の滝島任教授の第一内科時代よりお付き合いが続いています。さらに、米国の留学先の研究者との交流も東北大学のご一門の皆さんとの学術交流が契機となっものです。この数年は、山本雅之教授との共同研究も活発に行っています。また、文科省にて学術調査官として学術行政に携わっていた時期にも東北大学関係者の皆様にご指導・支援を頂いておりました。

環境と応答 仕組み理解

仙台に着任して4年目を迎えました。本研究科・医学部では、衛生学(環境保健医学)、環境・分子毒性学を担当しています。

熊本ではかつて世界の環境医学史上未曾有の大事件が起こりました。水俣病として知られる有機水銀中毒ですが、その原因を究明したのは熊本大学の研究グループでした。

近年、人為的な環境汚染とは無関係に自然に発生している環境中の水銀などの重金属や化学物質による低濃度の長期的な曝露が、ヒトの生活習慣病・がん・発達障害などの発症や健康・寿命を損なう大きな要因となっていることが指摘されています。これをエクスポゾーム(exposome)という新しい概念としてとらえて、ゲノム情報を超えたレベルで、環境と生体応答のメカニズムを包括的に理解して、未病・予防医学に応用しようという試みが世界的に展開されています。

また、最近の研究では、生体の多様な環境応答に、酸化ストレスを制御する新しいレドックスメカニズムが存在することが明らかになりつつあります。今後も本学の先達の気高き学問のスピリッツを継承しながら新興学術領域を創成することで、東北大学と国内外の生命科学と医学の研究教育に貢献する所存です。

(2016.10)

赤池 孝章

1984年
熊本大学医学部卒業
1987年
熊本大学大学院医学研究科入学
1993年
トーマスジェファーソン医科大学客員教授
1994年
熊本大学医学部助教授
2001年
アラバマ大学バーミングハム校客員教授
2003年
熊本大学大学院医学薬学研究部助教授
2005年
同研究部 教授
2011年
熊本大学医学部医学科長
熊本大学大学院生命科学研究部
臨床医学教育研究センター長
2013年
東北大学大学院医学系研究科教授

※公開の記事は、本人と艮陵新聞の許可を得て転載をしております。
また、所属や職名、略歴などは、記事発表当時のものとなっております。

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