William Harvey Lecture Awardを受賞して(3/3)

聞き手:広報室
話し手:下川 宏明 教授

学生や医師に望むこと・アドバイス

先生が研究室に参加される学生・医師に期待されることは何でしょうか。

下川教授:まず、目的意識を強く持ってもらいたいことです。受動的ではなく、自ら疑問を見つけ出してそれに挑んでいくという、そういった前向きの姿勢を期待します。卒前講義の中で卒業生に向けてのアドバイスとしては、とにかく「自分の夢をもって研究に取り組むこと」が大切だと伝えています。また、自分の目標になる恩師(メンター)を持つことも大切です。私自身、3人のメンターがいます。1人は亡くなられましたけれども、教育というのはその恩師が亡くなられてからも続くということを実感していまして、ほとんど毎日その恩師とは心の中でやり取りをしています。

臨床に関していつも学生・研修医・教室員に言っているのは、「受け持ち患者を自分の親と思いなさい」ということです。そうすると無駄な診断や治療は行わないですよね。そういうことを常に心がけて治療にあたる姿勢が医師としては大切だと思います。

研究について言うと、「とにかくオリジナルの研究をする」ということが重要だと考えています。研究というのは、誰かの後を追いかける2番手ではだめなのです。私たちが何気なく日々使っている医学・医療の知識や技術というのは、過去の研究者の努力とそれに協力して頂いた患者さんの貢献の上に成り立っています。従って、私たちの世代がそれに満足して研究への努力を止めてしまいますと、医学・医療の進歩が止まり、将来の世代に対する責任問題になります。

私自身の研究で言いますと、冠攣縮の研究はRho-kinase阻害薬が今後次々に登場することで治療の可能性が広がり、創薬という面で次世代以降に引き継がれていく研究だといえます。二つ目の活性酸素による血管機能の研究は、冠攣縮の研究のようにすぐに薬になるという応用はなかなか難しいのですが、血管機能の恒常性のメカニズムを明らかにし、NOや過酸化水素の新たな役割を明らかにしたという点で、この分野の研究を大きく進める研究成果になったと思います。

私自身の経験から、研究生活を送っていく中で、「逆境になっても焦るな」というアドバイスを常に周囲の若い人に言っています。問題解決を焦らず、時間経過に任せることで問題が解決することがあることも事実です。焦らず、自分を信じて研究を続けていれば、手を差し伸べてくれる人も出てくるでしょうし、思わぬ展開も開けてくることもあります。良い医師になるということを考えた時にも、多くの挫折を経験しているということは非常に重要なことだと思います。闘病中の患者さんは、全員、その方の人生の中では挫折中なのです。良医になるには自分自身の挫折の経験が大きくプラスになります。

良医になるには、良い臨床医になるということと良い研究者になるという二つのゴールがあると思いますが、実際にはこの両者が必要です。この2つを結びつけるのが、いわゆるフィジシャン・サイエンティストという存在ですが、そうした存在になるにはアイデアと持続力が不可欠です。

私の例で言いますと、冠攣縮の動物モデルの作成を研究テーマとして与えられた時に、まずヒトでの病態を深く観察し、動脈硬化病変にスパズムが発生しているという臨床的事実に着目したことがオリジナルのアイデアとなりました。また、過去の研究論文に多く触れる中で、思い切って実験動物の種類を変えてみた点もその後の研究を上手く進めて行くことができた大きな要因だと思います。

そうした経験がありますので、まず臨床的事実をじっくり観察し、次に過去の研究論文を自分なりに精査し、焦らずに時間をかけて考え、得られたアイデアをもとに必要ならば思い切った判断をするという研究方針を今も続けてきています。本日はお話できませんでしたが、私が、別途、15年以上取り組んできています音波(衝撃波・超音波)を使った非侵襲性の血管新生治療の開発もその良い例だと思います。研究を始める学生や大学院生の皆さんにも同じような思いで研究に取り組んでほしいと願っています。

本日は貴重なお話を聞かせて頂き、ありがとうございました。

下川宏明

下川宏明(しもかわひろあき)
東北大学大学院医学系研究科・循環器内科学 教授
東北大学病院循環器内科 科長

学歴・職歴
1979年(昭和54) 3月27日 九州大学医学部医学科卒業
1985年(昭和60) 9月19日 米国Mayo Clinic, Research Fellow
1988年(昭和63) 7月1日 米国Iowa University, Research Scientist
1995年(平成7) 8月16日 九州大学医学部助教授
2005年(平成17) 7月1日 東北大学大学院医学系研究科教授 現在に至る
2012年(平成24) 3月1日 東北大学先進医療開発コアセンター長(兼任)
2012年(平成24) 7月1日 東北大学病院循環器センター長(兼任)
2013年(平成25) 6月1日 東北大学病院臨床研究推進センター長(兼任)

専門は循環器内科全般、虚血性心臓病、心不全、動脈硬化、肺高血圧症、血管生物学

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