文部科学大臣表彰受賞
木村芳孝教授、八重樫伸生東北大学病院長記念インタビュー

3つの「怠らない」を心がけて~「病室での計測を可能とした胎児心電図装置の開発」

話し手:木村芳孝教授、八重樫伸生教授(東北大学病院長)
聞き手:広報室

世界で年間1千万人以上がかかっている疾患が何であるかお分かりになるでしょうか?それは、妊娠37週未満で赤ちゃんが生まれてくる早産です。これまで、妊娠24週から30週までの胎児の状態をモニタリングする方法は超音波(エコー)がありましたが、エコーでは胎児の形の判別が主で、胎児が機能的に正常に発達しているかどうかモニタリングすることはできませんでした。医学系研究科障害科学専攻融合医工学分野の木村芳孝教授、東北大学病院長の八重樫伸生教授は、10年以上にもわたって胎児の状態を機能的にモニタリングするための胎児心電図の開発に尽力されてきました。この「病室での計測を可能とした胎児心電図装置の開発」の業績によって、木村教授と八重樫教授は平成28年4月12日に平成28年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(科学技術賞開発部門)を受賞しました。今回のインタビューでは、開発の経緯から今後の展望まで、木村教授・八重樫教授にお話を伺います。

木村芳孝教授、八重樫伸生教授

世界で年間1千万人以上がかかっている疾患

今回受賞された研究の概要をお話いただけないでしょうか。

木村教授:世界で年間1千万人以上がかかっている疾患をごぞんじでしょうか?それは、実は早産です。早産は周産期死亡を起こしやすいので、新生児死亡の一番の原因となっています。また、早産は眼や耳の障害や脳性麻痺につながる病態で、早産児の大半が5歳までに脳高次機能障害(社会的適応障害)に罹患するといわれており、早産の世界的な増加が大きな社会問題となっています。しかし驚くことに、早産を防ぐ方法が確立されていないだけではなく、早産時のモニタリング手段もないのが現状です。早産の管理は、個々人の医師の経験と裁量に任されているのです。私たちは、開発が不可能だといわれていた胎児の心電図計測装置を開発し、妊娠24週から胎児30週までの胎児モニタリングが可能であることを、臨床試験を通して始めて証明しました。現時点で、胎児心電図計測は妊娠24週から胎児30週までの胎児をモニタリングできる世界で唯一の手段です。

どのような点が評価されたのでしょうか?

木村教授:評価された点は2つあると思います。一つ目は、胎児の心電図計測装置を開発し、胎児評価の新たな可能性を切り開いたことです。二つ目は、それが臨床で使える商品となる可能性を十分に示したことです。研究室の中で研究が進んだだけでは、実際に役に立つかどうかはわかりません。開発した装置が役立つかどうかを実際に確認した、医療の現場に出せたというところが、評価の一番大きな点だと思います。

八重樫教授:今回受賞した研究開発は、基礎研究を臨床の現場に持っていく、いわゆる橋渡し研究の良いモデルとなっていると思います。単なる開発とは違って、基礎研究で出たアイデアを臨床の現場に役立つように臨床試験まで持っていく、そこを実証したことです。

受賞した感想をお伺いしたいのですが。

木村教授:「良かったなあ」というのが、まず正直な感想です。新たな医療器械を世に出すのに良いきっかけを与えていただいたと思っています。この研究開発を評価してもらえたことは大変嬉しいのですが、大事なのは臨床現場に持って行ってからです。これから機械が世に出て、この研究で多くの子供たちを救えるかどうか、真に試されることになります。この現場へのアプローチを後押ししていただけたことは、私たちにとって非常に力になるいい賞を受賞できたと感じています。ますます頑張らなければならないと気が引き締まる思いです。

八重樫教授:産婦人科の中では、東北大学だけではなくて日本全国で、このような賞を頂いたのは初めてのことです。このような研究成果が産婦人科の中から出たことは、これまでありませんでした。非常にオリジナリティが高いし、レベルが高いということを認めていただいたと思います。しかも、この成果は東北大学病院発なのです。最初のアイデアから開発から最後の臨床試験まで、ずっと東北大学病院で一貫してやってきた仕事です。素晴らしい研究と認めていただいて、ありがたいなと思っています。

八重樫伸生病院長木村芳孝教授

[左] 八重樫伸生病院長、[右] 木村芳孝教授

逆転の発想~「ノイズ」を正確に測ることで「信号」を得る

開発にあたっての課題は何だったのでしょうか?

木村教授:原理については、学生さんに教えていた時にアイデアが出たんですね。ノイズから信号を取り出そうとするからうまくいかないのであって、信号ではなくてノイズを全部取り出せたら信号が残るはずだと。ノイズの方が大きいので、正確に計測しやすい。逆転の発想ですね。それで、原理や機械の雛形は10年前にできていたのですが、それを改良し臨床で使えるまでの状況にもって行き、また、普段でも機密性が高い産婦人科の臨床の場で試験を行っていくことが大変難しかったのです。思ったように計画が進まず困ったこと、予算が取れず苦労したこと、人手がなく自力で踏ん張ったことなど、たくさんの苦労がありましたが、色んな方々のご協力でここまできました。この苦労を糧とし、これから世界展開をめざしたいと考えています。

普及のための課題は何でしょうか?

木村教授:一番の課題は、企業とどのように共同開発していくかだと思います。日本の企業の体制だと、海外に比べてベンチャーが育っていないし育ちにくい。自分たちでもベンチャーを作ったりしながら、この不足分を補って行かないといけないと思います。今のグローバル社会では、日本で機械を出してもすぐ世界から追い抜かれてしまいます。大学発のベンチャーを作り機械の世界展開を完成させる事が急務です。

八重樫教授:難しい課題ですね。アメリカに行っていろいろと見てくると、簡単にベンチャーができてそこに投資するファンドもどんどん出てくる。それに比べると日本では不利ですね。

これからの展望をお聞かせ下さい。

木村教授:測定装置をもっと簡便に装着できて、簡単に測定できるようなシステムを構築することが今の課題だと思います。クラウドを取り入れて、誰でもどこでもモニタリングできるようなシステムを考えています。

八重樫教授:いままで、赤ちゃんが元気かどうかはお母さんが感じることしかできませんでした。モニタリングシステムができれば、胎児の心電図がとれて、元気だということがリアルタイムでわかります。

エコーと比べてどのような利点がありますか?

木村教授:エコーは病院で高価な機械を使って診断しなければなりません。また、画像取得の瞬間だけを切り取るので、モニタリングではありません。それに対して、このシステムが開発されれば、病院だけでなく家にいても長時間モニタリングできます。産婦人科の中での妊婦さんは特殊で、いつ何が起きるかわからないところがあります。このシステムを使えば、患者さんに安心を提供できる様になります。一方、産婦人科医の方から見ると、データが沢山集まってくるので、ビッグデータ解析ができるようになります。そうすると、産婦人科医の違いによるデータの読み取り方の差や、地域の特徴などがわかるかもしれません。また、類似の波形を検索することで、胎児の健康状態の予測にも役立つでしょう。医療装置と情報解析を一緒にしたような新しいサービスを提供することができるようになると思います。

表彰のプレート 胎児心電図の前で

[左] 表彰のプレート、[右] 胎児心電図の前で

周産期医療のルネッサンスをめざして

日頃から心がけていることは何でしょうか?

木村教授:「学ぶことを怠らない、鍛えることを怠らない、人に親切にすることを怠らない。」の3つです。日頃から言っていることなのですが、その3つくらいしかできないんですよね、自分としてできることは。自分ができることを、誠実にやろうということです。

若手研究者・若手医師へのメッセージをお願いいたします。

木村教授:若手の人に産婦人科の領域にぜひ入ってきて欲しいですね。

八重樫教授:今回の研究は、臨床の現場からの疑問点や必要を拾い上げてきています。産婦人科、特に産科の領域は未開発の領域が残っています。妊娠中の子宮の中はいわばブラックボックスなので、胎児へ直接働きかけることは難しいのが現状です。超音波でやっと形だけがわかるようになったという段階ですね。胎児や胎盤は人と動物では異なるので、動物実験も難しい。学問として、まだまだフロンティアが残っていると言えます。

木村教授:世の中が大きく変わっています。しかし、変わり目の時期ということは、これからは個人が活躍できる機会がますます増えるチャンスの時代でもあります。何を当てにしていいかわからないと考えるのでではなくて、自分で新しい価値観を作り出せるというメリットを与えられたと考えてください。変化の激しい世の中で今求められているのはスマート・クリエイティブといわれる人材だそうです。スマート・クリエイティブは、色々な分野に通じ自分や周りの環境だけでなく、他の分野や知識に広く関心を示し、また実用性の高い専門知識と経験値を持ち、新しい物を連続的に生み出せる人だそうです。

当然、今までの先輩たちの作り上げてきた伝統をしっかり見につけることも大変重要です。しかし、それに安住することができないほど科学も医療も大きく変わっています。時代の変わり目に生まれたことは天からの最高の贈り物です。新たなルネッサンスを作り出せるのは若いあなた方です。自由な発想で新たな世界を生み出してください。多種多様な課題に取り組めるのが産婦人科なので、ぜひ興味を持って欲しいですね。

木村芳孝教授、八重樫伸生教授

インタビュー終了後

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