学際領域ゼミ

「生活習慣病の解明―遺伝子からエピゲノムへ」

2017.7.20 平成29年度第5回学際領域ゼミ

分子生理学分野教授
酒井 寿郎 先生

中林 孝和先生

酒井 寿郎先生

本ゼミの講師は、今年度より分子生理学分野の教授として本学に御着任されました酒井寿郎先生です。先生は1994年に本学大学院医学系研究科を卒業されました。その後、LDL受容体の発見者であるGoldstein & Brown博士の研究室への留学、日本科学技術振興事業団(JST)創造科学技術推進事業(ERATO)オーファン受容体プロジェクトのグループリーダーとしての活動、東京大学先端科学技術研究センター代謝遺伝学分野教授などを経て、今日に至ります。その間、様々な観点から生活習慣病の病態解明につながる研究に取り組んでこられました。

留学先での経験 (SREBP活性化機構の解明)、帰国後のエネルギー消費と生活習慣病の関連を探る研究、そして、エピゲノム制御の研究へ

ゼミはこれまでの先生の研究内容をエピソードやその当時の疑問を交えながら、時系列で紹介する形で進められました。最初のSREBP (sterol regulatory element binding protein) 活性化機構に関しては、「小胞体膜に存在するSREBPが2種のプロテアーゼによって2段階に切断されることで核内移行する」という巧妙な仕組みを解明した経験を詳しく説明していただきました。その巧妙なメカニズムに感動するとともに、筋道を立てて一つずつ疑問を解決していくという先生の研究に対する誠実さを感じる内容でした。実際にこのときの先生の研究は、Cell誌40周年のメモリアル論文の一つに選ばれているということです。また、留学先のGoldstein & Brown laboratory での一つの命題を徹底的に究明していくという、研究室のあり方の話も、新鮮な印象を受けました。

その後、帰国され、絶食・飢餓時の細胞応答から生活習慣病を解明する研究に趣向を変えた話、オーファン受容体プロジェクトのリーダーとして行った「絶食時に酢酸が脱アセチル化を経て、エネルギー源として消費される」ことを解明した研究の話、そして、環境応答を追求する中でエピゲノム制御に注目し、「エペゲノム制御と生活習慣病」の研究に入っていった話へと流れるようにゼミが展開されていきました。

講義の様子

講義の様子

ヒストンH39番目のリシンのメチル化 (H3K9me3) による転写ブロックと脱メチル化酵素 JMJD1Aによる熱産生応答メカニズムの解明、そして、白色脂肪細胞のベージュ化の発見へ

ここからゼミはクライマックスを迎え、更なる深みのある話に入りました。先生は近年、脂肪細胞が寒冷刺激を受けて熱産生応答する現象とエピゲノム制御との関連に注目し、その研究に精力的に取り組んでいるようです。面白かったのは、ヒストン修飾による転写ブロックとその解除機構を解明した話です。熱産生にかかわるUCP1遺伝子の発現制御領域において、幹細胞では、転写活性化に働くヒストン修飾であるH3K4me3と転写抑制に働くH3K27me3が共存することで、2方向性 (Bivalent) なクロマチン構造が保たれているようです。ところが、脂肪前駆細胞になると転写抑制に働くH3K27me3はなくなるのですが、不思議なことにそれでも、まだ転写が進まないという疑問がありました。先生はここの研究に取り組み、「H3K9me3という別のヒストン修飾が転写をブロックしており、JMJD1Aという脱メチル化酵素が寒冷刺激を感知して、同酵素の265番目のセリンがリン酸化されることで活性化し、H3K9me3によるブロックを解除することでUCP1の転写が活性化される」というエピゲノム制御による応答メカニズムを見事に解明したのです。ここのエピソードは聞いていて興奮を覚えました。更に、先生は研究を続け、白色脂肪細胞が熱産生可能なベージュ細胞に変わるベージュ化がこのJMJD1Aに依存していることも突き止めたようです。現在、先生は、このメカニズムを利用してエネルギー代謝を制御することで生活習慣病の治療に役立てられないか研究を続けているということです。本日のゼミでは、常に疑問を考え、地道に実験を繰り返すことで新たな地図を描いていくという先生の研究姿勢とエピソードを拝聴して、皆が今後の研究生活への大きなエネルギーを得ることができたのではないでしょうか。


文責:生物化学分野 西澤 弘成
撮影:微生物学分野 大谷 可菜子

※所属や職名などは、記事発表当時のものとなっております。

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