学際領域ゼミ

数学による材料科学研究 トポロジカルな視点で

2014.06.27 平成26年度第2回学際領域ゼミ

東北大学原子分子材料科学高等研究機構 機構長/理学研究科 教授 小谷 元子 先生

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東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の機構長である小谷元子先生は、数学的視点により材料科学研究に新展開をもたらすという革新的な融合研究に取り組んでいらっしゃいます。
なぜ数学の専門家が材料科学研究所のリーダーをされているのか。この問いに対する答えが、まさに学際的研究における数学の力と役割を表しています。

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AIMRでは国際色豊かな研究者達が、物理、化学、工学などを統合することで学際的に新たな材料科学構築を目指しています。異分野の壁を越えて知と経験の融合を図るには、歴史的に諸科学の共通言語としての役割を担ってきた数学の視点が必要です。数学的視点により、複雑かつ多様な現象から共通原理を見出すことができ、更に、抽出した原理から予測可能な材料科学を創製することが可能となるわけです。

このように、融合研究を更に促進する触媒として数学を導入し、AIMRでは以下3つのターゲットプロジェクトが動いています。

  • ① 数学的力学系に基づく非平衡材料
  • ② トポロジカル機能性材料
  • ③ 離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料
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さて、ここで出てきたトポロジカル、トポロジー(位相幾何学)とは何でしょうか。小谷先生がご専門とする幾何学の中でも“柔らかい幾何学”といわれるものです。ドーナツとマグカップ、見た目は全く違います。しかし、マグカップがゴムでできていれば、引き伸ばしたり縮めたりすることでドーナツと同じ形にすることができるため、トポロジー的に両者は同一とみなされます。すなわち、トポロジカルな視点によって、見た目が全く異なるものでも本質的には同じ、あるいは見た目は似ているけど、本質的には違うものである、ということが理解できるようになるのです。トポロジーは、大雑把に見るとどんな形をしているのかを俯瞰的に見るため、グローバルな情報を持っていることになります。この概念は、生物系ではDNA構造解析(結び目理論)にも応用されています。

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トポロジーに対して、”硬い幾何学”といわれる微分幾何学は、変形できないかたちに対する概念で、自分の身の回りのローカルな情報を持っています。上記2つの幾何学は、ローカルとグローバルという点で対比的ですが、“ガウス・ボンネの定理”によって、ローカルな情報(硬い幾何学)を集積するとグローバルな情報(柔らかい幾何学:トポロジー)が見えてくるという関係性が構築されます。この関係式は、2つの異なる世界をリンクさせることができるため、幾何学の中でも最も美しい指数定理といわれているそうです。

トポロジーの概念に続いて、トポロジカルな数学的視点の材料科学研究への応用にまつわる具体例をいくつか紹介してくださいました。

結晶のような周期構造を持つ物質の理解は、局所的情報を理解することで全体を把握できるため、数学的視点が貢献している典型例です。では、周期構造をもたない物質(アモルファス)については、局所的情報から大域構造をどのように把握したらよいのか、先生はこの課題にトポロジーを応用して挑戦していらっしゃいます。

つい最近まで、ガラスは捉えどころのない乱雑な構造といわれていましたが、観測技術の発展により、局所的には有限個の決まった形があることがわかりました。その局所構造がどのように乱雑な構造を作り、物性とどう関係しているのかを理解できれば、周期構造を持たないある種のガラス構造の統一的理解に貢献可能となります。そこで、”Persistent homology”という新しいトポロジー概念を利用し、原子同士の関係を記述する局所的データから大域的構造を取り出そうと試みられています。この計算は、タンパク質構造解析にも利用されているそうです。

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また、最近注目されているトピックとして、物質表面に局在する電子状態(Surface State)という材料科学応用においても非常に利用価値の高い現象があるそうです。ある物質を材料として利用する上で、物質を変形しても保たれるSurface Stateがどのくらいあるのか、更に、二つの物質間の界面流や、物質の組み合わせ方による異なる現象などについても、トポロジーで計算、記述することができるとのこと。

他にも、安く作れて、軽くて便利なカーボン材料について、曲率による分類の話は興味深いものでした。カーボンの中でも、ノーベル賞を受賞して有名なグラフェンとフラーレンの曲率は、前者がゼロ、後者は正というネットワークの記述ができるそうです。ただ、数学的には、曲率が負である方が非常に豊かな多くの構造が存在し、更に安定的であるらしく、負の世界を探索する方が圧倒的に面白いというのが、小谷先生ら数学者の意見です。そしてその通りに、実際に面白い構造が見つかってきているところです。将来的に、ノーベル賞級の発見があるかもしれませんね。

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講義では難解なお話もありましたが、様々な材料科学への応用例を紹介していただいたことで、実験をして新たな現象を観測し分析するという従来の流れだけではなく、理論的予測が可能となる数学的視点も導入することで、それが新たなブレークスルーとなり得るのだということがわかり、数学の有用性と魅力ある可能性を再認識することができました。

複雑なものから一番大切な本質を取り出して簡単に記述することを可能にし、グローバルなことを身近なことで理解させてくれる道具、トポロジー。是非この便利なツールを日々の研究の中で複雑さと向き合う際に思い出してほしい、と小谷先生。

生物のような複雑系の全体像を数学的手法で解析することは今後の課題とのことですが、私は、ヒトという複雑系の中でも特に複雑な”脳と心”を研究対象にしているので、その見た目の複雑さに惑わされず、本質を見極められる「トポロジカルな視点」を意識して、日々研究に取り組んでいきたいと思いました。

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文責:災害精神医学分野 大学院生 久保 有美子
撮影:神経細胞制御学分野 大学院生 五十嵐 敬幸

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