学際領域ゼミ

スマート・エイジング
 ~脳科学を応用して健康長寿の実現を目指す~

2014.07.16 平成26年度第3回学際領域ゼミ

東北大学加齢医学研究所 所長 川島 隆太 先生

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東北大学加齢医学研究所長である川島隆太先生より、脳科学を応用して健康長寿の実現を目指した“スマート・エイジング”に関する講義を行って頂きました。数々のメディアへの出演や、“脳トレ”として有名になった記憶力向上に関するゲームソフトの開発などから、川島先生が脳科学を研究されていることをご存知の方はたくさんいらっしゃると思います。これらの他にも、様々な企業との産学連携を行うことで、多角的な視点から最先端の認知脳科学研究に関する測定技術を共同開発しており、今回の講義ではワクワクするような現在進行中の研究成果についてご紹介して頂きました。

脳の機能を可視化するためには、いくつかの装置を組み合わせて総合的に測定する必要があります。主にマウス実験など基礎研究で用いられているのは、Functional Magnetic Resonance Imaging  (fMRI) と Magnetoencephalography  (MEG) と呼ばれる装置です。
fMRIとは、核磁気共鳴を利用して外部からの刺激や課題を行うことによって活動した脳の様子(血流動態反応)を画像化する方法で、脳のどの部分が働いているかが分かります。また、どのようなタイミングで脳に情報が流れているのか知るためには、MEGを用いて脳波を計測します。これらの実験から得られた結果を基に、近赤外分光法を用いて磁場を計測するNear Infra- Red Spectoroscopy (NIRS) を応用し、ヒトを対象とした臨床試験を行うそうです。

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川島先生らのグループは、装着場所を選ばずに研究室外でも計測を可能にするため、産学連携を行うことでウェラブルタイプのNIRS開発に成功したそうです。更にこの技術を応用し、眼鏡会社のJINS! と共に眼球運動のモニタリングが出来る眼電計を開発しているそうです。この眼電計は、眼球の電圧変化や動きを計測することで、例えば眠気や疲労感がある際に低下する眼球運動などを検知し、自動車やスマートフォンなどにデータを送ることができるそうです。眼電計はリストバンドやスマホのアプリとは異なり、必ず身につける頻度の高い眼鏡にこの機能を搭載することでより普及しやすいことが利点の一つとなっています。更に身につけられる場所が体軸の中心点に位置するため計測値の正確性がより高いことから、スポーツ科学の成績向上や運動機能に異常があるような病気の改善にも応用できるのではないかと期待されています。

次に、コミュニケ―ションの定量化について教えて頂きました。加齢研では、日立と産学連携することで脳血流成分のみを抽出できる超小型NIRSを開発し、複雑な環境下や知的作業を行っている集団の脳活動の「ゆらぎ」について相関係数を計測することでコミュニケーションの数値化を可能にしたそうです。では、どのようにしてこの相関係数を高めることができるのでしょうか。集団でサークル状に歩行する実験で、ある一定のリズムを聴くことにより早く円滑に歩行できるようになるそうですが、その際の人々の脳信号はリズムが無い場合と比べて実際に同調し合っていることが証明されたそうです。川島先生はコミュニケーションをとっている際の脳活動をリアルタイムで可視化するのみならず、“音”に変換して表現することも可能だとおっしゃっていたことが特に面白いと感じました。このようにコミュニケーションを可視化、または可聴化することで、発達障害を持つ子供たちの感情変化の理解にも応用できると考えられています。

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最後に、本講義のタイトルにもなっている “スマート・エイジング” に関して、いくつかの例を挙げて説明して頂きました。脳活動の情報処理容量は、作動記憶トレーニングを継続的に行うことにより維持できることが証明されているのですが、その他の思考力なども 向上する可能性を秘めています。
実際に脳トレゲームソフトにも含まれている “Nバック課題(計算負荷)”を毎日行ってもらったところ、スポーツ選手の成績が向上したそうです。
トレーニングによる作動記憶力向上の効果については個人差があり、その要因の一つとして遺伝子多型が挙げられますが、このトレーニングの最大のメリットは年齢や身体症状に関わらず気軽に行えることではないでしょうか。

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また、認知障害を持つ高齢者の方に実際に “学習療法” を行ったところ、症状の改善が認められたそうです。特に印象的だったのは、脳血管性認知症を患い無口だった高齢の女性が、老人介護施設で音読や簡単な計算ドリルを継続的に続けたことで、一年弱で表情が豊かになり積極的に会話をする姿でした。日本の介護施設での学習療法の効果を受け、今では米国の十数か所の施設でも取り入れられているそうです。驚くことに欧米人への効果があまりにも高かったため、認知機能が改善される様子が “My name is John” というタイトルで映画化までされました。医学研究は、生命科学分野の中でも特に社会との繋がりが強く、研究成果が身近に感じやすいことが魅力の一つであると改めて思いました。

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文責:病理診断学分野 大学院生 櫻井 美奈子
撮影:高次機能障害学分野 大学院生 川崎 伊織/肢体不自由学分野 大学院生 王 尹容

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