研究推進・研究倫理ゼミ

てんかん診療における心理と倫理

2014.06.05 平成26年度第1回研究推進・研究倫理ゼミ

東北大学大学院医学系研究科 てんかん学分野 教授 中里 信和 先生

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全国で初めててんかん科を創設された中里信和先生。今回のゼミでは、てんかん診療が抱える様々な問題点を中心にご講演いただきました。

てんかんとは、繰り返し起きる脳の異常活動によるてんかん発作と、それに随伴する精神神経症状を指します。そして、強直間代発作、欠神発作、若年性ミオクロニーてんかん、複雑部分発作、側頭葉てんかんなど様々な種類があります。先生は、各発作の特徴を、模擬患者の発作演技のビデオを用いて説明してくださいました。動画で実際の発作というものを目にし、教科書では学べ得なかったことを深く理解することができました。

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てんかんは子供から高齢者まですべての年代で起こり、有病率は1%と言われています。発作の症状は大脳のどの部位に発火点があるかにより変化します。運動野で刺激が起これば四肢や顔面のけいれんなどが起こりますが、言語野であれば発声障害、感覚野であれば悪心や視覚異常というようにありとあらゆる症状が出現します。特にこのような感覚異常は発作が短いことが多く、専門とする医師以外は診断が難しいこともあるそうです。てんかんといえば身体的な運動発作をイメージしてしまいますが、感覚的な発作もあるということを念頭に診療にあたらなければならないことが分かりました。
また、てんかん患者には様々な悩みがあります。自分は遺伝病なのだろうか、プールに入れない、仕事や結婚はどうなる、妊娠してはいけない、車の運転ができない、やる気が出ないなど。このような多種多様の悩みについても、てんかん患者を診療する上でケアしていくことが課題となります。

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てんかんの診断は外来診察のみでは困難なことが多く、入院してビデオと脳波をとらなければ確実な診断はできない、と先生は考えておられます。身体的な治療としては、内服薬で6割の患者さんは発作を起こさずに生活できるようになり、手術療法も含めると7割の方に有効とのことです。ただし、治療の目標としては発作を抑えることだけでは不十分であり、「no seizure(発作なし)」、「no side effect(副作用なし)」、「no worry(悩みなし)」を3つの目標に設定する必要があります。患者さんによってはこれらのうち最初の1つや2つで満足してしまう人もおり、そういった患者さんには心理面でのケアが必要となる場面が多いといいます。

リハビリテーション心理学という概念があります。外傷や脳卒中などの障害に対してリハビリテーションが必要であるのと同様に、てんかんに対してもリハビリは必要であり、特に心理的側面からのアプローチも大切です。東北大学病院ではてんかん症例検討会が定期的に行われており、精神科、脳外科、小児科、神経内科、放射線科などの医師のみならず、脳波技師、看護師、薬剤師、臨床心理士などが一同に集い、てんかん患者に対する全人的医療を実践しています。てんかん患者のQOL(生活の質)は不安や抑うつが強くなればなるほど低下すると言われており、各職種が協力して精神的なケアも含めた管理を行うことが大切であると考えられます。

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最後に、てんかん患者の倫理についてです。ここ最近、てんかん患者による自動車事故のニュースが度々報じられます。そのような報道を目にすると、てんかん患者は自動車事故を起こしやすいのではないかと考えられがちです。しかし、実際には、最も危険なのは16~18歳の健康な若年男性の運転であり、40代の運転に慣れた年代と比べ、事故率は7倍であるとの報告があります。また、他の疾患と比較しても、アルコール依存症や糖尿病患者に比しててんかん患者が事故を起こす危険性は低いとの研究結果もあります。てんかん患者に対するこのような偏見は「無知」から起こるものであり、偏見をなくすためにはまず正しい教育が必要であるとお話されました。
また、日本のてんかん患者に対する法律、例えば2年間無発作でなければ運転免許が取得できないというものは、欧米に比べてとても厳格です。2年経過する直前に発作を起こしてしまった患者さんが発作のことを医師に隠してしまうなど、厳格すぎる法律は、発作の隠蔽、さらにはてんかんに対する治療不能状態にもなりかねません。
このように、てんかん患者には倫理的な問題点も多く残されており、今後の社会全体で取り組んでいくべき課題と考えられます。

てんかんに対する治療や考え方は、発見された当初から比べると徐々に正しい方向へ進んでいると考えられますが、まだまだ発展途上です。今後てんかん学がさらなる進化を遂げ、てんかん患者がより質の高い生活を送ることができる世の中に変わることを切に望んでいます。

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文責:血液・免疫病学分野 大学院生 長谷川 慎
撮影:耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 大学院生 角田 梨紗子

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