研究推進・研究倫理ゼミ

信頼ある研究の進め方と幹細胞研究の基礎

2014.06.13 平成26年度第2回研究推進・研究倫理ゼミ

東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授 田賀 哲也 先生

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今回の講義は、論文の不正や幹細胞など今非常に注目を集めるテーマで、100人近くもの参加者が集まりました。

CIMG5627講義

はじめに、論文の書き手と読み手の信頼関係を築くためには、実験で得られたデータを正しく解釈し、それを正しく伝えることが重要であるというお話です。
平均値など総合的な値を見て全体の傾向を捉えるだけでなく、個々の数値についても詳しく見ること。それによって誤った解釈を避けることができるということを、図を用いてわかり易く解説していただきました。また、データの表現方法によっては論文の読み手側に誤解を与えることもあるそうです。
データに表れた総合的な情報を安易に受け取るのではなく、研究対象のサンプルの本質について多様な可能性を考えてみることは、研究の信頼性を高めると共に、今まで見えていなかった事実の発見につながるというお話でした。安易にデータの考察をしがちな私は、非常に感銘を受けました。

CIMG5625遠景

次に、研究の不正についてです。研究活動の不正行為の定義は、捏造、改ざん、及び盗用です。ただし、故意でないと証明できれば不正行為には当たらないとされています。しかし故意でなければ許されるのか?と先生は投げかけています。例えば細胞の蛍光免疫染色のデータでは、自動露光・自動コントラストによって研究者が意図しないところで強調操作がなされる場合があります。これは第三者が検証できる情報にならず、研究データとしては不適切とのことです。このようなリスクを低減させるために、研究者として細心の注意を払い、編集した箇所はわかるように記載することが必須であることを学びました。

CIMG5636ノート

また捏造・改ざんを疑われないためには「研究ノート」が大切です。実際、先生の研究ノートは、第三者が見ても再現ができるよう条件や環境等詳細が記載されていました。年間20冊にものぼる先生の実験ノートは、信頼ある実験の証拠になるとともに、そのノートを読み返すことで新たな考察が生まれるというお話に、その重要性を痛感しました。
信頼ある研究が行われないと、本人はもちろん共同研究者や所属機関のみならず科学全体にもダメージを与えます。残念ながら今実際に起きている事件を考えるにつけ、このような講義は研究者にとって非常に重要であると強く思いました。

最後に、先生ご自身の研究テーマである幹細胞の基礎についてお話いただきました。幹細胞とは、自己複製能と分化能を有する細胞です。その幹細胞が同じ遺伝子セットを持っているにも関わらずシグナルの調節を受けることによって形態や機能が異なる細胞に分化します。神経幹細胞は自己複製する以外に、ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化します。この機序に重要な因子として骨形成因子2(BMP2)があります。まずこの因子は神経幹細胞のニューロン分化を阻害することがわかりました。つぎにこの因子は神経幹細胞に作用して未分化な細胞を減少させ、未熟アストロサイト分化を誘導し、さらに白血病細胞株阻害因子(LIF)と共に成熟アストロサイトへの分化も誘導していることが明らかになりました。つまり、骨形成因子2は神経幹細胞の自己複製とニューロン分化など他の系を阻害し、効率的にアストロサイト細胞を誘導しています。神経幹細胞の自己複製に関してもこのように細胞増殖の促進と細胞分化の阻害が連動しているのだそうです。

CIMG5639質疑

このような細胞外来性シグナルに加え、エピジェネティック制御のような細胞内在性プログラムも幹細胞の調節に重要です。エピジェネティック制御はDNA配列の変化を伴わない遺伝子発現制御であり、DNAのメチル化などが代表的なものです。例えば胎生中期までの神経幹細胞ではアストロサイト特異的遺伝子のメチル化によりアストロサイトに分化しないそうです。再生医療を中心とした様々な分野に応用できる大きな可能性を秘めたこの研究が今後更に注目されることは間違いなく、どのように発展していくのかとても楽しみになるようなご講義でした。

文責:脳機能開発研究分野 大学院生 山本 悠貴
撮影:医学系研究科大学院教務係

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