米国短期留学インタビュー(2/3)

アメリカのラボを体験する


配属されたラボは総勢何名くらいメンバーがいたのですか。

高橋:30名くらいですね。

研究室としては大きい方ですね。設備面はいかがでしたか。

高橋:MGHというと世界でも有名な施設なので、最新鋭の機器がたくさん揃っているのだろうなと思って行ったのです。でも行ってみると全部がそうではなくて、意外に古い機器を大事に使い続けていたり、最新の機器は共通機器室に有って、ラボごとには無かったりしました。

研究生活は比較的自由だったのですか。

高橋:はい。ラボに行く時間も、帰る時間も自分で決めることができました。ただ、金曜日には研究の進捗を確認するミーティングがありました。先生がたも来る時間や帰る時間がバラバラですが、それはアメリカではワークライフバランスが重視されていて、その人その人の働き方を尊重しているからだと知りました。


研究者というと一人で実験に没頭しているイメージがありますが、ラボにいるときは周りと会話したりするのですか。

高橋:私の所属したラボは社交的な人が多かったので、いろいろ話しながら実験を行っていました。いつも賑やかな雰囲気でしたね。また、私が学部生だったのが良かったのか、良く話しかけられました。私が行ったラボは、学生受け入れの実績があまりなかったので、なんでも一から教えてくれました。反対にこちらから「教えてください」や「見せてください」というと丁寧に全部説明してくれたりして。これは学生だからこそ得られる貴重な体験だと思います。ポスドクで留学していた先生がたは自分で勉強して、計画を立てて実験を行っておられました。


では、研究室に馴染むのにはそれほど時間がかからなかったのですね。

高橋:そうですね。皆さん親切に暖かく受け入れてくれました。ただ、研究室に早く馴染むことができたのは、研究室門戸開放*3の際に大隅先生の研究室を訪ねて以来、自主的に研究室に通ってある程度基本的な手技などを基礎修練の前に身に付けることができたからというのも大きかったと思います。

高橋陽子

一つのプロジェクトを任される


留学時に取り組んでいた研究について聞かせてください。

高橋:研究室では並行して何個かのプロジェクトに携わっていました。留学したからには、論文を一本書くのは無理だとしても、大きな論文のキーになるフィギュア(図や写真のこと)の1つでも作って、その論文が出るときに共著者に入れてもらえればいいな、くらいの目標を持っていました。そこで個別の研究ミーティングの際に、先生に「これくらいの実績は残したいのですが、私に出来るでしょうか」と質問してみました。そうしたら先生から「君がいる期間をふまえて、適当な研究テーマがあるからそれで論文を書いてみないか」と言われて、今回論文として採用された脳の血管に関する研究テーマを与えられました。
プロジェクトを任された研究は脳の血管とペリサイトについてのものです。ペリサイトは脳内の血管の外側に直接接して、血管を取り囲んでいる細胞です。さらにそのペリサイトをアストロサイトと呼ばれる細胞が覆っていて、血管から脳内にいろいろな物質が侵入しないように守ったり、厳密に制御したりしています。血管の内側から辿ると、血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイトという順です。この仕組みをブラッド・ブレイン・バリアー(BBB:血液脳関門)といいます。
BBBは脳への異物侵入を防いでいる重要な仕組みですが、薬という視点からとらえると、脳に薬が入ることを拒んでいるという側面もあります。そこでBBBを介してどのように血管から脳に物質が届けられているのかというメカニズムを解明することが、今とてもホットな領域になっているのです。


脳に薬を届けるという事ですが、具体的にはどういった疾患の際に用いられるのでしょうか。

高橋:アルツハイマー病、認知症、ハンチントン病、うつ病といった病気ですね。


BBBの機能を解明することで、それらの症状に対して、より効きやすく、標的を絞った薬を作ることが出来るのではないかという事ですね。

高橋:実は私の研究は創薬とはちょっと違ってBBBの機能が失われる仕組みを探ろうというものです。脳卒中などの疾患が起こると、BBBが破壊されて、従来入り込めなかった悪い細胞が脳に入り込み、脳を攻撃します。そうしたBBBの機能を破壊する際に関係してくる物質がどのように分泌されるのか、そのメカニズムを明らかにしようとするのが、私が行った研究です。


このプロジェクトのテーマ自体は先生から頂いたとはいえ、誰かの下でやるのではなくて、高橋さんが代表となって行ったのですよね。

高橋:そうです。ただ、実験を始める前には先生と仮説を立てて、「こういうフィギュアとこういうフィギュアがあればいいからそのためにはまず何をやって…」というようなところから始めました。


実験に取り掛かる前にかなり綿密に計画を立てて行ったのですね。

高橋:はい。そういう点に関しては今まで経験したことがなかったので非常に勉強になりました。

高橋陽子

注釈
*3:研究室門戸開放:早い段階で研究マインドを身に付けるために東北大学医学部が行っているプログラム。医学科1年生の時点で研究室を訪ねて基礎的な実験方法や研究計画の立て方などの指導を受けることが出来る。

次ページに続く

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