インフルエンザA(H7N9)のリスクをどう考えるべきか
-押谷仁教授からのメッセージ2013-

押谷 仁
東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野
教授 押谷 仁

はじめに

インフルエンザA(H7N9)の人での感染例が相次いで中国から報告されてきている。4月4日時点で11名の感染者が確認されており、このうち5名が死亡している。このウイルスは現時点であるいは近い将来に人に対してどのようなリスクがあるのであろうか。正しいリスク評価をするために必要な情報がまだ十分に得られていない状況であるが、現時点で得られている情報からどんなことが考えられるかについてまとめてみたい。

感染症のリスクとは

まずこのような感染症のリスクを考える上で重要な2つの要素がある。人に対する「病原性」と「感染性」である。病原性はウイルスに感染した人のうちどのくらいの人が重症化し、さらにどのくらいの人が亡くなるのかという重症化の指標である。これまでに中国で確認された感染者のほとんどが重症化しており、そのうち5名が死亡している。この数字だけを見るとこのウイルスは人に対する病原性が強いように思われるかもしれないが、これだけで病原性を判断することはできない。なぜならこの数字の分母となる数がわからないからである。現時点で11 名しか感染者がいないということは考えにくくさらに多くの感染者がいると考えるべきである。まだ見つかっていない感染者も多くが重症化しているのであれば、病原性が高いと言えるが、それらの中には重症化していない例、すなわち軽症例が含まれている可能性もある。感染者の多くが軽症例であれば病原性はそれほど高くないということになる。中国の研究所が発表したウイルスの遺伝子の配列からもこのウイルスの病原性が非常に高いということを疑わせるような所見は得られておらず、感染者の中には軽症例も含まれている可能性はある。これまでは主に重症例について検査がされてきたと考えられるので、軽症例を含めた検査が今後行われると病原性についての実態が判明するものと思われる。

次に問題になる感染性であるが、通常鳥インフルエンザウイルスは人に感染しにくいウイルスである。しかし、そのような人に感染しにくい鳥インフルエンザウイルスが人への感染性を獲得するということはこれまでも起きてきている。このようにして人への十分な感染性を獲得すると、そのウイルスは新型インフルエンザとなってパンデミック(世界規模の流行)を起こすということになる。

これまで人での感染が確認されてこなかったH7N9というウイルスによる人での感染が相次いで報告されている理由としては、ウイルスの側に何らかの変化が最近起きたのではないかと考えられる。実際、ウイルスの遺伝子の解析の結果、今回人で見つかったウイルスは3つの異なる鳥インフルエンザのウイルスが混ざりあって生じたものであることがわかっている。このようなウイルスの変化が人での感染性が高まった理由である可能性は十分にある。また人での感染例が短期間に相次いで報告されていることから、人への感染性はある程度高いということが考えられる。今回のウイルスとは別の鳥インフルエンザであるA(H5N1)というウイルスも人での感染が2003年から継続的に確認されているが、このウイルスは人には感染しにくい、すなわち人への感染性が低いことがわかっている。このH5N1に比べて今回のH7N9は人への感染性がより高く、そのことが短期間に感染者が多く見つかっている理由であるかもしれない。ウイルスの遺伝子解析でも人での感染性を示すような変化が一部に見られている。このウイルスの人への感染源としては鳥やブタなどが考えらえるが、現時点では感染源が何なのかはよくわかっていない。

次に問題になるのは人から人への感染が起きているかどうかである。これまで発表されているデータからは人から人への感染が起きていることを証明するようなデータは得られていない。少なくても季節性インフルエンザのように効率よくしかも持続的に人から人への感染が起きていることはないと考えられる。したがって、このウイルスがすぐに新型インフルエンザ(パンデミック)に移行するものではない。しかし一部で限定的な人から人への感染が起きている可能性はあり、今後人から人への感染の有無についてのきちんとした調査が必要である。すでにこのウイルスは人への感染性をある程度獲得していると考えられることからも、今後ウイルスにさらなる変化が起き、人から人に効率よく感染を起こすようなウイルスへと変化する可能性は否定できない。

まとめ

今回のH7N9ウイルスは、現時点では人での大流行につながることは考えにくいが、そのような危険性のあるウイルスではあるというのは事実である。今後の動向を注意深く見守るべきあり、さらにデータをできるだけ早く収集し、人に対するリスクをきちんと見極める必要がある。また、大流行を起こした場合の対策、例えばワクチンの開発なども並行して行うことが必要である。

図によるまとめ(PDF 1.09MB)

(この文章の内容は2013年4月4日時点で公開されている情報に基づくものである。) 2013年4月5日公開

インフルエンザA(H7N9)のリスクをどう考えるべきか(第二報)

参考文献

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