2015年10月19日

人工赤血球により低酸素ストレス下の胎児の発育不良を予防することに成功~妊娠高血圧症候群の新治療に道~

 文部科学省研究助成事業の一環として、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市 理事長:樋口輝彦)精神保健研究所(所長:冨澤一郎)知的障害研究部 太田英伸室長、神経研究所(所長:武田伸一)疾病第二部 李コウ研究員、および公立大学法人 奈良県立医科大学(奈良県橿原市 学長:細井裕司)化学講座 酒井宏水教授は、東北大学・早稲田大学・崇城大学・理化学研究所と共同で、低酸素ストレスにさらされたラット胎児の発育不良を人工赤血球で予防することに成功しました。
 本研究では、妊娠高血圧症候群で低酸素ストレスが加わる胎児への治療法を動物モデル(ラット)で開発しました。妊娠高血圧症候群は約5%の妊婦に発症し、重症例では母体死亡、胎児発育不全、胎児・新生児死亡を引き起し、母体・新生児の予後を低下させる重篤かつ高率な疾患であります。特に高齢出産が進む日本では、妊娠高血圧症候群の発症は増加傾向にあります。これまで妊娠高血圧症候群の原因物質としてsFlt-1 (エス・エフエルティ・ワン:soluble VEGF receptor 1)等が発見され、これらの物質が胎盤血管(らせん動脈)を狭小化し血行不全を引き起こします。そのため、胎盤の血液循環が妨げられ、母子間のガス交換、栄養物質の運搬、老廃物の代謝が低下し、胎児が低酸素状態・子宮内発育不全になることが知られていました。
 そこで研究グループは、狭小化した胎盤血管でも容易に通過できる小粒径(250 nm, ナノスケール・サイズ)で、かつ高い酸素運搬機能をもつ人工赤血球 (ヘモグロビン小胞体)を用いて、母体胎盤および胎児の低酸素状態を改善しました。その結果、妊娠高血圧症候群の原因物質である母体血中のsFlt-1が低下し、胎児発育も促されることを確認しました。加えて、低酸素ストレスが与えた胎児の脳へのダメージも人工赤血球の投与で抑えられることが明らかになりました。 この成果は、妊娠高血圧症候群の発症を引き起こす原因物質を低下させるだけでなく、胎児発育不全を予防する新しい治療法として、周産期医学に貢献することが期待されます。なお、人工赤血球は輸血代替として実用化を目指す研究開発が進められています。
 本研究成果は日本時間2015年10 月16日午後6時(報道解禁日時:イギリス時間10月16日午前10時)に、Nature Publishing の英国オンライン科学雑誌「Scientific Reports」で公開されました。

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