2011-03-17 Ico_news

東北地方太平洋沖地震で被災された方の感染症対策についてver2

東北地方太平洋沖地震で被災された方の感染症対策についてver2
(3月17日現在) 東北大学大学院医学系研究科微生物学分野
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 今回の地震での被災地、特に避難所では今後感染症の流行が起きてくる可能性があります。限られた人員と物資の中で感染症対策をしていくことには大きな困難がありますが、この状況下で感染症の流行をできるだけ防ぐにはどうしたらいいのかということについて、重要なポイントだけをお示ししていきます。なおこの文書の内容は3月17日の時点での情報によりますので、新しい情報に基づいてその都度、内容を見直していく予定ですので、最新情報をご確認下さい。

今回(3月17日:Ver 2)のバージョンでのアップデート情報
感染症発生動向調査での2月28日から3月6日のインフルエンザ報告数の増加が県内の多くの地域で見られていること、検出されているウイルスとしてはH3N2が主体であることを追記した。
感染症発生動向調査での2月28日から3月6日の感染性胃腸炎の定点あたり報告数が全国と比して多く、仙台市での集団発生の原因ウイルスはノロウイルスおよびロタウイルスであることを記載した。


1. 被災地における感染症発生のリスクについて
 一般に大規模な災害の後には感染症発生のリスクが高くなります。その理由としては被災地の地域全体の衛生状態が悪化すること、断水などライフラインの途絶のために個人レベルでの衛生状態も十分保てないこと、避難所などでは狭い空間に多くの人が生活しているために感染が広がりやすい環境であることなどが上げられます。全体的な感染症のリスクアセスメントについては国立感染症研究所から3月15日に発表された文書を参考にして下さい(http://idsc.nih.go.jp/earthquake2011/index.html)。以下は特に宮城県の被災地で起きるリスクの高い感染症についてその概要を記載したものです。

1) 急性呼吸器感染症(含むインフルエンザ)
インフルエンザなどの急性呼吸器感染症は、被災後は多くの人が狭い空間にいることや手洗いなどが十分にできないことから、流行が避難所などで起こる可能性の高い感染症です。現在の日本でのインフルエンザ流行状況としては、H1N1(2009年に新型インフルエンザの流行を起こしたウイルス)を中心とした流行は2011年1月下旬をピークに患者数は減っていました。感染症発生動向調査を見ますと、宮城県および仙台市の定点あたりのインフルエンザ報告数は、1月下旬以降減少に転じていましたが、7週目(2月14日〜20日)から9週目(2月28日〜3月6日)にかけて患者数が再度増加しています。各保健所別に見ますと北から栗原、登米、塩釜、仙南保健所の地域で、仙台市ではすべての地域で患者が増加に転じています。宮城県のこの増加の主体はH3N2(A香港型)によるものだと考えられます。またB型インフルエンザの流行も西日本などで増えてきていますし、宮城県や仙台市でも一部でB型も見られています。B型は春先に流行することが多いので、今後避難所などでB型インフルエンザの流行が起きる可能性は十分にあります。B型での重症化例は少ないですが、H3N2は高齢者や乳幼児が罹患すると重症化して死亡することもあります。救援者などを介してこのウイルスが被災地に持ち込まれると大きな被害が起きてしまう可能性もあるので十分な注意が必要です。特に高齢者の多い避難所では厳重な警戒が必要です。
インフルエンザ以外にも数多くのウイルスや細菌が急性呼吸器感染症を引き起こします。被災者のおかれている状況と現在の医療状況を考えると急性呼吸器疾患に罹患すると悪化して肺炎などを起こす可能性も通常より高いと考えるべきです。

2) 消化器感染症(急性下痢症を含む)
急性下痢症の多くは糞口(ふんこう)感染で、衛生状態によってその発生頻度が大きく左右されます。現在の被災者の衛生状態を考えると急性下痢症の流行が起きる可能性は十分にあります。急性下痢症には細菌性のものとウイルス性のものがありますが、ウイルス性のものとしてはノロウイルスやロタウイルスなどがあります。これらのウイルスは感染者の便から排出された、ごく少量のウイルスでも感染が起こるので、トイレの衛生状態が悪く手洗いの実施が難しい被災地では流行が起きる可能性があります。ノロウイルスの流行は仙台市などで地震発生前から続いており、ウイルスが被災地に持ち込まれる可能性は十分にあります。ロタウイルス感染は小児に多く起こり、下痢や嘔吐のために脱水になることも多い疾患です。毎年春に流行が起きています。今年はまだ大きな流行にはなっていませんが、今後注意の必要な感染症です。
また感染性胃腸炎は先々週(2月28日から3月6日)の感染症発生動向調査をみますと、全国の平均値(9.78)よりも高い定点あたりの報告数が、宮城県(11.92)および仙台市(14.81)で報告されています。保健所別に特に地域的な偏りは見られずに全体的に高い状況です。仙台市が発表している集団発生状況ではノロウイルスが多く、一部でロタウイルスも見られています。飲料水の確保が難しく、衛生状態の悪化が懸念されていますので十分注意する必要があります。
細菌性胃腸炎は通常はこの時期に流行が起きることは少ないですが、非衛生的な環境で食材が保存されていたり、食器等が十分に洗えない環境では細菌性胃腸炎の集団発生も十分に考えられます。

3) それ以外の感染症
破傷風や創傷感染症については国立感染症研究所の文書を参考にして下さい。これ以外に宮城県の被災地で特に注意すべき感染症としては、県内各地で流行が見られている水痘、伝染性紅斑、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎などがあります。

4) 遺体からの感染症のリスク
今回は津波によって多数の死亡者が発生しましたが、これらの遺体によって感染症流行のリスクが上昇するというということは通常ありません。ただ遺体の処理などで体液や血液などに触れる可能性のある場合には感染のリスクが存在します(ただしほとんどの病原体は48時間以上生存しません)ので手袋の着用や手洗いや消毒が必要になります。

2. いまできる感染症対策
1) 急性呼吸器感染症(インフルエンザを含む)
個人として出来ることは、まず手洗いを励行することですが断水している地域ではそれも難しいと思います。その場合アルコール製剤による手指衛生を確保することが考えられますが、インフルエンザ等が流行していない時期にはアルコール製剤はまず消化器感染症の予防のためにトイレ後および食事前に使うことを優先すべきです。さらに予防のためにマスクを着用することも考えられますが、マスクも不足している場合には発熱・咳・くしゃみ・鼻水などの症状がある人にマスクをしてもらうことを優先させて下さい。マスクが手に入らない場合には、「咳エチケット」が有効です。咳やくしゃみをする時には、ハンカチやティッシュなどで口と鼻を覆い、他人から顔をそむけて1m以上離れます。ティッシュなどはそのままゴミ箱に捨てましょう。ティッシュなどの使い回しは、感染を広げる恐れがありますので避けましょう。
インフルエンザワクチンは重症化を阻止するために有効ですが、現在、被災地の医療機関等での接種は望めない状況になっています。今シーズンに受けたワクチンは現在も有効です。またこれからワクチン接種しても免疫がつくまでには時間がかかるので、インフルエンザの流行が確認された場合には抗インフルエンザ薬(タミフル・リレンザ)による予防投薬を考慮する必要があります
インフルエンザに罹患したあるいはその疑いがある人は、避難所の状況をみて他の被災者の方々とは別のところで隔離するようにしてください。隔離が難しい場合には少なくても症状のある人にはマスクを着用してもらうようにして下さい。

2)消化器感染症(急性下痢症を含む)
多くの場合、病原体によって汚染された手指および食品の介してうつります。このために、個人として出来ることは手洗いを積極的にすることです。水のない環境では難しいかも知れませんが、特にトイレの後や食事の前、あるいは子どもや高齢者の排泄介助の後にはできるだけ手洗いをしましょう。また食事では生ものの摂取を可能な限り控えてください。
症状が現れた場合(発熱、腹痛、下痢など)には、脱水予防と対症療法が主となります。とくに小児では脱水による全身状態の悪化が起こりますから、水分をこまめに少量ずつ補給することが必要です。

3) 破傷風
創傷部から土壌や粉じん中に常在している菌が侵入することで起こります。感染してから症状が起こるまで3日から3週間くらいかかるとされています。予防としては破傷風トキソイドワクチンの接種があります。三種混合ワクチンをきちんと受けていれば30歳前後までは十分免疫がありますが、それ以降の人は免疫が弱くなっている可能性があるので注意が必要です。今回の地震で受傷した方は十分な注意が必要です。

3. 健康調査の重要性
通常のサーベイランスでは医療機関を受診した患者の情報を集計していますが、現在はそのようなサーベイランスが被災地の多くで機能していません。そのために避難所や地域で定期的に症状の現れた人の情報をあつめて、感染症の流行を早期に検知して対策を取る必要があります。現時点では系統的な情報収集は難しいと思いますので、同じような症状の患者の集積があった場合には、感染症の流行を疑い適切な対策をすることが求められます。また、特定の症状(インフルエンザ様症状、下痢など)がある患者の数をモニタリングすることも流行の早期検知には有効です。

関連資料
感染症対策文書PDF版