2011年3月17日

東北地方太平洋沖地震で被災された方のインフルエンザ対策について

東北地方太平洋沖地震で被災された方のインフルエンザ対策について
      東北大学大学院医学系研究科微生物学分野
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 震災の被害を受けられた方、特に避難所で生活している方のインフルエンザ感染の危険性が高まっています。未確認情報ですがすでにインフルエンザの感染者がいくつかの避難所で見られているという情報もあります。現在、避難所では狭い空間に多くの人が避難生活をしているために、いったんそういう場所にインフルエンザウイルスが入ると大きな流行になってしまう可能性があります。ここでは被災された方、特に避難所でのインフルエンザ対策について重要な点をまとめていきます。なおなおこの文書の内容は3月17日の時点での情報によりますので、新しい情報に基づいてその都度、内容を見直していく予定ですので、最新情報は東北大学医学系研究科・医学部のホームページ(http://www.med.tohoku.ac.jp/)でご確認下さい。

1) 災害後の感染症リスクアセスメントとインフルエンザ
 大規模災害後は感染症の流行が大きな問題になる場合が多く見られます。特に、災害発生後1週間以降に感染症の問題が顕在化することが多いとされています。まず必要なことは感染症のリスクがどのくらいあるのかというリスクアセスメントをすることになります。リスクアセスメントはそれぞれの感染症の発生する確率がどのくらいあるかということと、その感染症が発生した場合どのくらいのインパクトがあるかということで決まります。
2) インフルエンザが被災地で発生する確率
 現在、残念ながらインフルエンザが発生する確率はかなり高いと言えます。宮城県や仙台市のデータを中心に説明していきますが、岩手県や福島県など他の被災地での状況も大きくは変わらないと考えられます。今シーズンのインフルエンザの流行は12月からH1N1(2009年に新型インフルエンザの流行を起こしたウイルス)の流行が全国的に始まりました。このH1N1の流行は2月に入って終息傾向に向かったのですが、東日本では2月下旬以降、H1N1の流行が終息するのとほぼ同時に季節性H3N2(A香港)の流行が始まっています。仙台市や宮城県の各地でも2月下旬にH3N2の流行によると考えられるインフルエンザ患者の増加を認めています。震災前も仙台市などでインフルエンザ陽性の患者が多く見られていましたし、現在もインフルエンザ患者は相当数見られています。避難所でもA型インフルエンザ陽性の患者見られていると報告されていますが、この多くはH3N2であると考えられます。すでに避難所でもインフルエンザ感染者が見られいる可能性が高く、避難所周辺で流行が起きているということは、かなりの高い確率で今後避難所での流行が起こる可能性があるということになります。
3) インフルエンザが被災地で発生した場合のインパクト
 現在、被災地およびその周辺で発生しているインフルエンザがH3N2である可能性が高いのですが、このH3N2という型のウイルスは流行すると高齢者や乳幼児が重症化することの多いウイルスです。仙台市などを除くと被災された方の多くが高齢者なので、避難所で流行がおきると重症者が多く発生する可能性があります。また、インフルエンザ感染により重症化するのは、基礎疾患(持病)を持っている人が多いのですが、被災者の多くは基礎疾患の治療も十分にできておらず、食料や飲料水も不足していることから体調を崩している人も多く、通常の場合よりも重症化する可能性が高いことが考えられます。以上のことより、インフルエンザ特にH3N2型のインフルエンザの流行が起きた場合には、そのインパクトは大きいと考えられます。発生する確率も高く、発生した場合のインパクトが大きいため現時点のリスクアセスメントでは被災地で最もリスクの高い感染症はインフルエンザであるという結論に達しました。
4) インフルエンザの発生をどのように検知するべきか
 インフルエンザの発生を早期に検知して適切な対策をすることが必要ですが、被災地では医療機関も甚大な被害を受けており、インフルエンザの検査もままならない状況だと思われます。発生の早期検知のためには、突然の発熱、咳、咽頭痛(のどの痛み)、全身倦怠感や関節痛などの典型的なインフルエンザ様症状のある複数の患者が一つの避難所で発生した場合にはインフルエンザの発生を疑い直ちに対応を始める必要があります。また、医療チームなどで迅速診断キットによる診断が可能な場合には、迅速診断キットで1例でも陽性が確認された場合には直ちに以下の対応をして下さい。
5) インフルエンザの発生が疑われた場合の対応
 患者は隔離することが望ましいのですが、現在の避難所の状況では患者を隔離することは困難である場合が多いと考えられます。その場合は、マスクがあれば必ず症状のある人にはマスクを着用してもらって下さい。また患者の世話をする人たちにもできればマスクをしてもらって下さい。アルコール系の手指消毒剤がある場合には、患者がトイレに行く前後また世話をする人については患者に接触した後に手の消毒をするようにして下さい。
 医療チームはできれば迅速診断キットとタミフル、リレンザなどの抗インフルエンザ薬を携行するようにし、インフルエンザを疑われる患者にはなるべく早期に抗インフルエンザ薬を投与するようにして下さい。早期投与は患者の重症化を防ぐ効果があるだけでなく、周囲への2次感染を防ぐ効果も期待できます。1回の吸入で効果が期待できるイナビルも有用です。
 ワクチンは発生後では間に合わないので特別な場合を除いて、現時点ではワクチン接種の適応はないと考えられます。抗インフルエンザ薬はまず患者に投与すべきですが、抗インフルエンザ薬に余裕のある場合には、抗インフルエンザ薬の予防投薬も考慮すべきです。ただし、避難所に避難している人すべてに予防内服をすることは現実的ではないので、まず重症化する可能性のより高いハイリスクの人に予防内服をしてもらうということになります。この中には、基礎疾患のある人、高齢者、乳幼児などが含まれます。その範囲については薬の量など現地の状況に応じて決めていくことになります。
6) 重症化した患者への対応
 感染者の中には重症化する患者が出てくる可能性があります。重症化した患者は早期に適切な治療をしないと死亡する場合もあります。したがって早く重症化した患者を見つけ出して適切な対応をする必要があります。以下の様な症状がある場合には、医師の診察をなるべく早く受けられるように最大限の努力をして下さい。
【成人の場合】
 息切れや呼吸が速くなるなど呼吸困難の症状が見られる
 ぐったりして呼びかけへの反応がにぶい
【小児の場合】
 呼吸が速くなり全身で呼吸をするなど呼吸困難の症状が見られる
 おしっこが出なくなり脱水の症状が見られる
 けいれんや意識障害が見られる

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