活動内容
第1回蔵王国際カンファレンス(08.01.23-24)
脳科学GCOE 第1 回国際カンファレンスが、2008 年1 月23 日(水)から24 日(木)の2 日間にわたって宮城蔵王ロイヤルホテルにて開催されました。カンファレンスには日本を含む7 カ国から約83名の研究者が参加しました。カンファレンスのテーマとして「From Genes to Development and Behavior」が掲げられ、脳という共通の対象に対してミクロからマクロまで幅広い視点に立った研究が発表されました。
“The fruitless gene functions as a neural masculinization factor that produces cellular and behavioral sexual dimorphism in Drosophila”
カンファレンスの冒頭には、主催者である博士による講演が行われました。
性的二型を示すショウジョウバエの神経回路とそれが生み出す性行動について、神経系の雄化を促すfruitless 遺伝子の研究から判ってきた最新の知見を発表されました。
“Modeling cell and isoform type specificity of tauopathies in the brain of Drosophila”
ヒトの認知症の一種であるtauopathy の原因遺伝子tau に関する、ショウジョウバエを用いた研究の成果について講演されました。
ヒトもショウジョウバエもtau 遺伝子を持っているため、解析しやすいショウジョウバエを研究することによってヒトの病気に対する理解を深めることが出来ます。
“Degeneration of optic lamina in Drosophila caused by defective endocytic function in lamina glial cells”
ショウジョウバエの眼の発生についての講演をして下さいました。
眼の正常な発生には神経細胞のみならずグリア細胞の役割も不可欠であり、グリア細胞での小胞の回収を阻害することによって、形態異常が生じます。グリア細胞のこれまでに知られていない役割が解ってきました。
“ Role of small GTPase RAB27A and its effectors in regulated exocytosis”
本GCOE メンバーの一人である博士による講演です。膜輸送に重要な役割を果たすRab タンパク質の解析についてお話し下さいました。
Rab には60 以上のアイソフォームが知られているのですが、博士はそれらの網羅的解析を行いました。
"Kidins220’s functions in neuronal differentiation and central nervous system development”
軸索輸送のメカニズムに関する研究についてお話し下さいました。
博士の研究によって、脳に発現する膜タンパク質であるKidins220 がこのメカニズムに関わっており、神経系の発生に必要なシグナル伝達カスケードを制御していることが解ってきました。
“Regulation of cerebellum patterning by Engrailed genes: from folds and stripes to circuits”
小脳はその表面にある小脳溝と呼ばれる溝によって幾つかの部分に分かれています。またそれらの内部には多数の入出力神経線維が通っており、知覚や運動などの機能に重要な役割を果たしています。博士はZebrin2 とPlcb4 が小脳の発生過程において一過的にストライプ状の発現パターン(molecular code)を示す現象を発見されました。さらに、ホメオボックス型の転写因子であるEngrailed1/2 がmolecular code の形成や小脳溝が形成される位置の決定、神経線維のパターン形成に重要である、というお話をして下さいました。
“Sfrp1, a Wnt signalling component, has multiple functions during eyedevelopment”
Sfrp(secreted frizzled related protein)は膜貫通ドメインのない分泌性蛋白質で、Wnt シグナリングを阻害します。博士はこの分子が眼の発生過程においてダイナミックに発現パターンを変化させること、さらに発生の様々な局面、例えば予定眼領域の決定や神経分化、軸索の投射パターンの決定などにおいて重要な役割をもつことを明らかにされました。Sfrp はCRD(cystein-rich domain)とNTR(netrin-related module)からなり、これら2 つのドメインが異なる機構でWnt シグナリングを阻害する、という可能性についてもお話し下さいました。
“Regulation of the Fgf8-Ras-ERK signaling pathway for cerebellar development”
博士は脳の領域化の機構について、特に中脳後脳境界部のオーガナイジング・センターとしての役割に焦点を当ててお話し下さいました。その要点は、オーガナイザーの本体であると考えられているFGF8 の8 つのアイソフォームのうち少なくとも8a と8b が発生運命の決定に対して全く異なる機能をもち、FGF8 シグナリングの細胞内経路の一つであるRas-ERK 経路の強度が複数の負の調節子、例えばsprouty2 などによって厳密に調節されることが発生運命決定にとって重要であるということです。
“Subcellular roles for LIS1 and Dynein in radial migration of neurons during embryonic cortical development”
大脳皮質原基の前駆細胞は細長い形態をしており、エレベーター運動と呼ばれる核の移動運動を行っています。博士はこの特徴的な運動の機構についてお話して下さいました。子宮内エレクトロポレーション法により少数の細胞をGFP で標識し、その後スライス培養の系を用いることにより細胞の運動をライブイメージングした結果、核の移動に先立って中心体が移動することが判りました。この運動にはヒトの滑脳症の原因遺伝子であるLis1 や微小管、モーター蛋白質であるダイニンが重要な役割を担います。特にヒトの遺伝病である滑脳症がエレベーター運動の異常により起こる可能性があるという点は特筆すべきです。
“From Pax6 to Neurogenesis and Mental Deseases”
GCOE の拠点リーダーである博士は、脳を脳たらしめるための様々なイベントについて、特に転写制御因子であるPax6 の機能に焦点を当ててお話し下さいました。Pax6 は脳が作られる発生期から生後まで、とても長い期間にわたり中枢神経系で発現し、子分遺伝子であるNeurogenin2 やFabp7 などを動かしながら脳で起こる様々な現象、例えば脳のパターン形成や細胞移動、軸索の伸長、神経幹細胞の維持や増殖、分化だけでなく、生後脳の海馬における神経幹細胞の維持・分化や精神疾患にまで関与します。またDHA(ドコサヘキサエン酸)やARA(アラキドン酸)といった、メディアに頻繁に登場する食品成分が神経新生を促進するという話題も登場しました。
“Olfaction and life-long neurogenesis”
大人の脳で神経新生が起こるのは何のためなのか?というテーマについてお話し下さいました。マウスの嗅覚神経系では、嗅覚神経(olfactory sensory neuron)と嗅球(olfactory bulb)の2ヶ所において、大人の脳でも神経新生が起こります。大人になってから作られる神経は発生期に作られる神経と全く同じではなく、作られた後の環境あるいはニーズに応じて性質を変化させうる可塑性を備えています。博士はこの性質が匂いの学習や記憶ひいては個体の生存に必要である可能性を指摘されました。
“Genetic control of prefrontal cortex development”
博士は脳の発生機構に関する研究のパイオニアの一人として長年研究に携わってこられました。カンファレンスでは大脳皮質が区画化される機構について、Fgf8/17 シグナリングに注目した研究をお話してくださいました。