活動内容

第31回日本神経科学大会サテライトシンポジウム(08.07.08)

7月8日(火)東京国際フォーラムで、第31回日本神経科学大会サテライトシンポジウム 「社会に踏み出す脳科学〜ラボから変わる未来像」が開催されました。

会場の様子
挨拶 入來篤史先生

 
 洞爺湖サミット開催期間中で、都心も厳重な警備体制が敷かれる中、シンポジウムは、東京国際フォーラムの5階で、200名近くの参加者を集めて開催されました。岩田誠先生(東京女子医科大学名誉教授)を基調講演者に迎え、糸山泰人教授(東北大学脳科学グローバルCOE)、尾崎紀夫先生(名古屋大学大学院教授)、大隅典子教授(東北大学脳科学グローバルCOE)の各氏からの講演が続き、最後に森悦朗教授(東北大学脳科学グローバルCOE)の司会によるディスカッションに至る、濃密な3時間強の会となりました。

岩田誠先生

 岩田誠先生の基調講演は、「脳科学は心を解明できるか」という魅力的なタイトル。哲学者ヤスパースを援用しながら、「心」という概念を、Geist(ドイツ語) =精神とSeele(ドイツ語)=こころ、の2つに分けるところから講演は始まりました。文学にも造詣が深い岩田先生は、幻のクリスチャンを愛したシラノ・ド・ベルジュラックや、芥川龍之介の短編小説「手巾(ハンケチ)」を引用しながら、登場人物の「こころ」=Seeleが、解明不可能であっても、了解可能なものか、を参加者に問いかけます。
近代医学は、論理性・客観性・普遍性の3本柱を持って発展してきました(引用:中村雄二郎「臨床の知」)。岩田先生は、18世紀のJames Lind の壊血病の研究がすぐれて科学的で、臨床においても“他の条件を同じにする”ということをしていたことに触れながら、「こころ」の理解が常に“他の条件が同じ”にならない、なぜならば各人によって条件が必ず異なるものだから、と指摘しました。そして、先生が過去に担当された、ALSやアルツハイマーの患者さんの実例を挙げられながら、たとえ解明できなくとも、如何にこころを理解していくかを、迫真の語り口での御講演となりました。


糸山泰人教授

 糸山泰人教授(東北大学脳科学グローバルCOE)の講演は、「神経難病への新規治療薬開発の道のり―筋萎縮性側索硬化症をモデルに─」。家族性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因遺伝子として、Cu/Zn superoxide dismutase(SOD1)を発見し、ALSモデルのラット開発に成功してから、肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor, HGF)を治療薬として開発するに至るまでの、長い道のりを、具体的に語られました。


尾崎紀夫先生

 尾崎紀夫先生(名古屋大学大学院教授)の御講演「精神科の患者が、悩むこと、医療に望むこと」は、症例数が非常に多くありふれた病気であり、多くの人が苦しんでいる統合失調症を主な話題に進行しました。ドイツ語の病名Schizophrenieに対する明治時代の訳語「精神分裂病」が差別を生みやすいために「統合失調症」に改称された歴史も振り返りながら、固有の症状から薬物治療の現状に至るまで幅広いお話となりました。薬価の問題や、副作用など、尾崎先生の語る「望むこと」は極めて具体的です。


大隅典子教授

 大隅典子教授(東北大学脳科学グローバルCOE)の講演は、「未来に輝く脳科学者を育てる」。前3人の演者が語った脳科学の展望に対して、未来を拓き得る人材をいかに育成するかを課題とし、一つの答えとして、東北大学脳科学グローバルCOEの取組みが語られました。





総合討論の様子

 最後に30分間設けられた総合討論は、質問票で集められた会場からの質問をもとに行われました。ALSへの取組みに対して、「症例が少ないものに対して研究資源を投入することの是非をどう考えるか」という質問がなされ、症例数の少ない病気の解明が幅広い応用を経て多くの疾患に対して役立つといった例が示されるなど、医療と基礎医学における普遍的な問題に対する議論もありました。


 
 仙台に拠点を置く私たちが、東京で、しかも平日に行う大規模なシンポジウムでしたが、幸い多くのメディアに取り上げて頂き多くの事前応募を頂戴しました。また、2名の高名な外部演者による見事な講演も得て、当日は晴天にも恵まれ、無事成功裡に終えることができました。アンケートでも、有効回答中86名中77名の方が、シンポジウム全体を5段階評価の4以上で評価して下さいました。共催頂いた第31回日本神経科学大会の皆様を初めとする御関係の皆様、そして何より、当日御来場頂いた皆様に心より感謝します。

(報告: 長神風二(文責)、篠原広志、相澤恵美子、片寄洋子)

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