活動内容

第17回東北大脳科学グローバルCOE若手フォーラム

2009年8月28日(金)東北大学星陵キャンパス(医学部)にて、第17回東北大脳科学グローバルCOE若手フォーラムが開催されました。
今回は大学外から研究者の方を2人招聘し、ご講演いただきました。

高坂洋史先生のご講演の様子。

 1人目の講演者の方は、東京大学大学院理学系研究科助教の高坂洋史先生です。高坂先生は「ショウジョウバエ幼虫の運動回路の形成(Formation of motor circuits in Drosophila larvae)」というテーマでお話をして下さいました。ショウジョウバエ幼虫はぜん動運動(peristaltic behavior)によって移動します。ぜん動運動は幼虫の尾端から頭端に向かって伝搬する筋収縮で、この筋収縮は尾端から頭端まで約1秒で伝搬します。高坂先生は遺伝子組換え個体を用いた実験により、孵化直後における感覚ニューロン活動の一過的な阻害が、その後のぜん動運動の筋収縮の伝搬速度に影響を及ぼし、またこれら感覚ニューロンが形成するシナプスの形態にも変化が見られることを示されました。タイムラプスレコーディングなどによって撮影された動画が多数紹介され、ぜん動運動時の筋収縮の伝搬の様子がよく分かりました。


 ショウジョウバエの運動神経を研究している筆者(野島)にとっても大変勉強になりましたし、ショウジョウバエ以外を専門とする聴衆の中からも、運動について研究されている方々が多数の質問をし、活発な議論が交わされました。

松尾隆嗣先生のご講演の様子。

 2人目の講演者の方は、首都大学東京大学院理工学研究科助教の松尾隆嗣先生です。松尾先生は「ショウジョウバエの食性の進化と化学感覚受容(Evolution of host-plant preference and chemosensory genes in Drosophila)」というテーマでお話をして下さいました。セイシェルショウジョウバエ(Drosophila sechellia)は、遺伝学のモデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)ともっとも近縁な種の1つです。しかし、セイシェルショウジョウバエの食性はきわめて変わっており、彼らはノニ(Morinda citrifolia)しか食べません。また、ノニを食べることで知られているショウジョウバエの種は、セイシェルショウジョウバエただ1つです。松尾先生はこの食性の違いがなぜ生じるのかを研究し、その原因として、匂い物質結合タンパク質(odorant-binding protein、OBP)をコードする2つの遺伝子を突き止めました。OBPは末梢神経系で働いており、化学感覚受容に大きな役割を果たしています。動物行動を生み出す分子細胞レベルの研究というと、脳を中心とした中枢神経系の研究ばかりが注目される向きもあるかと思いますが、末梢神経系の感覚受容細胞における違いが行動の劇的な違いをもたらすという例を、松尾先生は紹介して下さいました。


 今回のフォーラムは、高坂先生が運動神経、松尾先生が感覚神経ということで、脳の話はほぼなしで行われました。東北大「脳」科学グローバルCOEとはいえ、脳以外の研究に触れ、学ぶことのできる機会を持つのは重要であると私は思います。
神経系は脳だけで成り立っているわけではないですし、英語で「neuroscience」と言ってしまえばいいわけですしね。

(文責: 野島鉄哉 ゲノム行動神経科学グループ・山元研究室)

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