活動内容

シンポジウム「脳科学と芸術との対話」

真冬の仙台の、平日(金曜日)、18時開始。広く参加者を募集するイベントとしては、最も条件のよくない開催でしたが、300名近くの方が参加されたのが、シンポジウム「脳科学と芸術との対話」。仙台市民会館小ホールは、同時通訳レシーバーを持った熱心な聴衆の方々で埋まりました。














セミール・ゼキ氏

 基調講演は、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授、セミール・ゼキ博士。サルなど、ほ乳類の視覚の研究で、新しい概念を打ち立ててきた研究者として世界的に知られています。数十年前から、美を脳がいかに感じるか、を中心テーマに据えた“神経美学”という研究分野を創始し、精力的な研究を続けています。今回の演題は、”Art and the Brain”。多様な美術作品を例にとりながら、色の認知、動きの認知をする脳の部位、線分の特定の傾きに反応する神経細胞の話から、現代美術を見る脳の働きまで話が及びました。


 15分の休憩を挟んで、後半に移ったのですが、その休憩時間中にちょっとしたイベントがありました。今回、後半の対話部分の舞台上の装飾を、デザイナー尾形欣一氏を中心とする有限会社オガタにお願いしました。どっしりとした木の質感なのに腰掛けると不思議とやわらかく沈むイスなど、ユニークな作品を、出演者の宮島達男氏(現代美術家・東北芸術工科大学副学長)が紹介し、尾形氏御本人を客席から舞台にお呼びしてインタビューするという一幕がありました。

尾形 欣一氏(写真・左)













 後半は、本グローバルCOEの大隅典子・拠点リーダーのモデレートによる、宮島達男xセミール・ゼキ対談。美術作品を見て美しいと感じたときの脳の状態について、ドーパミンの放出などがあるのか、といったかなり専門的な質問を宮島氏が繰り出していました。色のことは聞いたが、形はどうなのか、といった質問を宮島氏がすると、「それは非常に難しい」とゼキ博士。線で形をあらわすことはできても、脳が感じていることは違うものもあり、それだけではない、といった発言も、ゼキ博士からありました。この対談が企画される前から、宮島氏の作品は知っていた、というゼキ博士。作品に明確なコンセプトがあるのは何故か?と宮島氏に問い、アーティストにはコンセプトがはっきりしているタイプとそうでないタイプがあるが、自分は努めて言語化しようとしている、という答えがありました。また、本居宣長の「姿は似せがたく、意は似せやすし」(「国歌八論斥非再評の評」より)をひきながら、例えば平和を願った作品です、といった、コンセプトはむしろ似せやすい、それを形にすることこそが難しい、という宮島氏の発言に、身を乗り出すゼキ博士、スリリングで知的な対話になりました。










宮島 達男氏
大隅 典子氏













 主催した我々としても、挑戦するイベントになりましたが、前述の尾形氏や、ポスター等のデザインの古川哲哉氏、アートワークの澤口俊輔氏、ゼキ博士来日の契機をつくった東北大学脳科学センター、企画に御尽力頂いた鈴木芳雄さん(2010年7月の脳カフェのゲスト)、協賛頂いた仙台印刷工業団地協同組合インキュベーションマネジメント事業、共催頂いた仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアム、後援の仙台市など、多くの御協力を得て、本イベントが成立したこと、改めて、感謝申し上げます。


資料:
セミール・ゼキ博士が基調講演で言及された美術作品リスト(完全ではありません:また、表記は英語またはフランス語になっています):
絵画
Fantin Latour “Self-portrait”
Titian “Self-portrait”
Pablo Picasso “Les Demoiselles d’Avignon”
Pablo Picasso “Buste de femme”
Pablo Picasso “Man with a violin”
Piet Mondrian “Composition with red, yellow and blue”
Lucian Freud “Benefits Supervisor Resting”
Lucian Freud “Nude With Leg Up”
Paul C醇Pzanne “La Route tournante”
Paul C醇Pzanne “Mont Ste-Victoire”
Kazimir Malevich “Suprematism”
Marcel Duchamp “Nude Descending a Staircase, No. 2”
Jan Vermeer “The Music Lesson”
写真
Helmut Newton
Cindy Sherman “A Play of Selves”
映画
Alain Renais “Last Year at Marienbad”
インスタレーション
Marcel Duchamp “Fountain”
Tracy Emin “My Bed”
Alexander Calder “White Mobile with 24 Pieces”
彫刻
Apollonius “Belvedere Torso”

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