拠点メンバー

石黒 章夫(システム工学)

石黒章夫

1991年名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程修了.工学博士.1991年同大学工学部助手,1997年同大学大学院工学研究科助教授, 2006年東北大学大学院工学研究科教授を経て,2011年東北大学電気通信研究所教授.専門はシステム工学,ロボティクス,非線形科学,複雑系科学,生物物理学.2005年より文部科学省科学研究費補助金特定領域研究「身体・脳・環境の相互作用による適応的運動機能の発現 -移動知の構成論的理解-」に総括班メンバーとして参画.著書に『免疫システムとその応用』(共著,コロナ社,1998年),『知の創発 -ロボットは知恵を獲得できるか-』(分担,NTT出版,2000年),『Adaptive Motion of Animals and Machines』(編著,Springer,2006年),訳書に『知の創成 -身体性認知科学への招待-』(共立出版,2001年)など.2004 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems Best Paper Awardなどを受賞

5年間の研究のまとめ

動物は,不確定で複雑な環境の中をしなやかに動き回ることができる.そのためには,動物は自身の身体に持つ膨大な自由度を巧みに制御する必要があるが,このような大自由度系の制御を中枢神経系からの命令のみで行うことは困難である.動物は自律分散的な制御スキームを積極的に活用することで大自由度の制御を行っていると考えられている.これは,中枢からの関与なしで局所的なコントローラ群が相互作用しながらロコモーションのかなりの部分を作り出すという地方分権型の制御様式である.しかしながら,動物が行う自律分散制御の機序は明らかではなく,その理論もアドホックなレベルに留まっているのが実状である.

このような現状を打破するためにわれわれは,意図的に真正粘菌変形体という「脳なし」生物を起点となるモデル生物として採り上げ,そのアメーバ運動の発現機序に関する理論を構築した.そして,そこで得られた知見をベースとして徐々に高等な生物が示すロコモーション様式の発現機序理解へと進んでいくという戦略に基づいて研究を行った.その結果,以下のような結果を得た:

  • 真正粘菌変形体が示すアメーバ運動の発現機序のモデル化を行った.その結果,「自然長が変化することにより力を出すばね」と「齟齬関数に基づく振動子への局所センサフィードバック」という二つの重要なアイデアの導入によって,うまく説明できることをシミュレーションと実機実験を通して明らかにすることができた.
  • 真正粘菌変形体に関する研究で得られた自律分散制御系の設計スキームをもとに,ヘビが示す這行運動の実現に関する考察を行った.その結果,われわれが提唱する設計スキームは,アメーバ運動とはまったく異なる這行運動に関しても有効であることが確認された.
  • 四脚ロコモーションにおける脚間協調の発現機序解明を目指した研究を行った.その結果,床反力に基づいて振動的特性と興奮的特性が切り替わるという力学系によってうまく説明できることをシミュレーションおよび実機実験によって明らかにした.これはきわめて斬新な描像であり,今後の展開が期待される.
  • 動物が示す振る舞いの多様性の発現機序理解を目指して,クモヒトデの腕運動の自己組織的な役割分担に関する考察を行った.クモヒトデの神経系の構造は未だ不明な点が多いが,その解明の鍵となる知見が得られつつある.

代表的な論文
  1. Umedachi T, Takeda K, Nakagaki T, Kobayashi R, Ishiguro A (2010) Fully Decentralized Control of a Soft-bodied Robot Inspired by True Slime Mold. Biological Cybernetics 102-3, 261-269 DOI: 10.1007/s00422-010-0367-9
  2. Owaki D, Ishida S, Tero A, Ito K, Nagasawa K, Ishiguro A (2011) An Oscillator Model That Enables Motion Stabilization and Motion Exploration by Exploiting Multi-rhythmicity. Advanced Robotics 25, 9-10,1139-1158
  3. Owaki D, Koyama M, Yamaguchi S, Kubo S, Ishiguro A (2011) A 2-D Passive-Dynamic-Running Biped with Elastic Elements. IEEE Transaction on Robotics 27-1, pp.156-162
  4. Sato T, Kano T, Ishiguro A (2011) On the applicability of the decentralized control mechanism extracted from the true slime mold: a robotic case study with a serpentine robot. Bioinspiration & Biomimetics 6-2(2011) doi: 10.1088/1748-3182/6/2/026006
  5. Watanabe W, Kano T, Suzuki S, Ishiguro A (2011) A decentralized control scheme for orchestrating versatile arm movements in ophiuroid omnidirectional locomotion. Journal of The Royal Society of Interface 9-6, 102-109, doi: 10.1098/rsif.2011.0317

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