拠点メンバー

仲村 春和(神経発生学)

仲村春和

1971年京都大学理学部卒、1972年京都府立医科大学解剖学教室助手、1977年広島大学医学部解剖学教室助手、講師、助教授を経て、1988年京都府立医科大学生物学教室教授、1994年東北大学加齢医学研究所分子神経教授、2001年東北大学生命科学研究科の発足に伴い配置換え、1979-80年にフランスの国立発生学研究所に留学(Nicole Le Douarin教授に師事)、1987-88年にSt LouisのWashinton Universityに留学(Dennis O’Leary教授と共同研究)。医学博士、専門は神経発生学。1998-2003特定領域研究「脳のパターン形成」領域代表。エレクトロポレーションによる生きたニワトリ胚への遺伝子導入を開発したが、これは革命的な遺伝子導入法で発生生物学のルーチンの手法となっている。著書「標準細胞生物学」(共著、医学書院、1999年)、「脳神経科学」(共著、三輪書店、2003年)、訳書「ラーセン最新人体発生学」第2版(共訳、西村書店、1999年)

脳科学グローバルCOEの5年間の研究

1. 中脳後脳境界部(峡部)は中脳後脳のオーガナイザーとして働き、FGF8が分泌されている。強いFGF8シグナルがRas-ERK経路を活性化すると小脳が誘導される。その経路の負の制御因子Sprouty2を強制発現し、ERK活性を抑えると、後脳は発生運命をかえ、小脳ではなく視蓋ヘと分化する。しかし、Fgf8bとドミナントネガティブSprouty2 (DN-Sprouty2)を強制発現し、ERKの活性をあげ続けると、中脳胞の運命転換はおこらず、本来の視蓋へと分化する。Fgf8b, DN-Sprouty2のエレクトロポレーション後、siRNAにより、DN-Sprouty2の発現を抑えると中脳胞は運命を転換し、小脳へと分化した。このことから、Ras-ERK経路は厳密に調節される必要があることがわかった。

2. FGF8-は視蓋の前後軸の形成にも関わっており、FGF8とEn2により前後軸が形成される。視蓋前後軸をephrinA2, A5を指標として視蓋前後軸形成を調べた。FGF8はephrinA2, A5ともにその発現を誘導し、視蓋に後ろとしての性質を与えるが、Ras-ERK経路により制御されるのはephrinA2の発現で,ephrinA5は別の経路による。En2により、ERKの発現は細胞自律的にはむしろ抑制されるが、その周りの細胞でFgf8が誘導され、En2は結果的に後ろとしての性質を付与することになる。

3. FGF8は核内にも局在し、Sprouty2の発現に関わっているらしいことを発見した。

4. アクチン結合タンパク、Coactosinがlamelipodiaに局在し、Racシグナルの下流で細胞のダイナミズムに関係しており、特に神経堤細胞の移動に重要であることを示した。

5.エレクトロポレーション法の改良を行った。
5-1トランスポゾンを用いてトランスジーンをゲノムに組み込む方法を、神経線維をラベルすることに応用した。これにより、これまで知られていなかった視蓋深部をとおる視神経線維の走行があることを発見した。
5-2 コンディショナルsiRNA法を開発した。Tetを投与することにより、任意の時期に標的遺伝子のノックダウンが可能となった。
5-3 発生初期ニワトリ胚へのエレクトロポレーションは胚へのダメージが大きいため、in vitroで行い、その後1日ほど卵殻外培養をして,解析していた。In vitroでエレクトロポレーション後、胚を卵に移植する方法を開発したことにより、器官形成への影響まで解析できるようになった。

代表的な論文
  1. Suzuki-Hirano, A., Sato, and Nakamura, H. (2005) Regulation of isthmic Fgf8 signal by Sprouty2. Development, 132, 257-265.
  2. Sato, T. and H. Nakamura (2004) The Fgf8 signal causes cerebellar differentiation by activating Ras-ERK signaling pathway. Development 131, 4275-4285.
  3. Sato, T., Araki, I., Nakamura, H. (2001) Inductive signal and tissue responsiveness to define the tectum and the cerebellum. Development, 128: 2461-2469.
  4. Katahira, T., Sato, T., Sugiyama, S., Okafuji, T., Araki, I., Funahashi J., and Nakamura, H. (2000) Interaction between Otx2 and Gbx2 defines the organizing center for the optic tectum. Mech. Dev. 91, 43-52.
  5. Nakamura, H. (2001) Regionalisation of the optic tectum: Combination of the gene expression that defines the tectum. Trends Neurosci. 24, 32-39.

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