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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



免疫系シグナル伝達と免疫疾患の研究
医学系研究科免疫学分野 教授 菅村和夫

 生体防御の要である免疫系は種々に機能分化した細胞が高度に統御された生体システムである。免疫系細胞は抗原受容体やサイトカイン受容体を介する細胞内シグナル伝達によって分化・増殖・活性化の制御を受けている。当免疫学分野では、これまで免疫系細胞の分化・増殖・活性化の制御機構を分子レベルで解析すると共に、それらの異常に起因する免疫不全症や自己免疫疾患の発症分子機構の解明と治療法の開発に努めてきた。この流れの下に、現在、以下のテーマを掲げて研究を展開している。1)我々が世界に先駆けて遺伝子単離したサイトカイン共通受容体「gc鎖」の遺伝子欠損マウスをX連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)のモデル動物として、遺伝子治療法の確立を目指している。2) 「gc鎖」を介する細胞内シグナル伝達経路を解析する中で同定した複数のVHSドメイン蛋白分子(STAM1、STAM2、Hrs)が細胞内小胞輸送に関わる新たな機能分子であることが分かってきた(図1)。これら機能分子のシグナル伝達機構での役割、免疫系抗原提示機構における役割、ウイルス増殖制御における役割等について、それぞれの遺伝子欠損マウスを用いて解析している。3)我々はOX40リガンドがT細胞抗原認識において副刺激分子として機能することを明らかにしてきたが、最近、OX40リガンド遺伝子導入(OX40L-Tg)マウスが自己免疫性の間質性肺炎ならびに炎症性腸疾患を自然発症することを見出した(図2)。OX40L-Tgマウスを自己免疫の自然発症モデル動物として、その発症制御に関わる遺伝子支配の解明と自己免疫治療法の開発を目指している。4)我々が遺伝子単離したGads/Grf40はT細胞受容体を介するシグナル伝達に必須なGrb2ファミリーアダプター分子である。我々はGads変異体発現マウスがT細胞の分化障害を来すことから、Gads変異がヒト免疫不全症の新たな原因遺伝子となる可能性を指摘し、その解明に努めている。5)ヒトパルボウイルスB19は伝染性紅斑、Aplastic Crisis、非免疫性胎児水腫の原因ウイルスとして知られ、且つ、慢性関節リウマチ発症との因果関係も疑われている。非免疫性胎児水腫では、B19ウイルスが胎児赤芽球に感染し、赤芽球がアポトーシスを起こすことによって胎児に貧血が惹起される。B19ウイルス感染と細胞周期停止ならびにアポトーシス誘導機構を解析し、B19ウイルス感染症を分子レベルで捉えることを目指している。

図1:Hrs 、STAM1、STAM2は複合体を形成し、サイトカイン受容体、シグナル伝達分子、MHC、ウイルス等の細胞内蛋白輸送に関わることが推察される。
図2:C57BL/6背景OX40L-Tgマウスは生後3週目頃から間質性肺炎と炎症性腸疾患を自然発症することから、これらの発症にはC57BL/6遺伝背景が必須に関わっている。