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学際領域ゼミ

平成28年度第2回学際領域ゼミ
東北大学 大学院理学研究科・災害科学国際研究所
内田 直希 先生

地震のメカニズム〜スロースリップと地震との関係〜

本日は東北大学大学院理学研究科・災害科学国際研究所の内田直希先生より、地震が起こる場所や時期、そしてそれに関連する断層の動きについてご講義いただきました。2011年の東北地方太平洋沖地震や2016年の熊本地震など被害の大きい地震が相次いで起こっており、地震発生メカニズムの解明に向けた本講演内容は、社会的にも非常に関心の高い研究分野と言えます。

そもそも地震はなぜ起こるのかというと、地下には様々な断層と呼ばれる地層プレートのズレが存在しており、その断層が急激にすべることが原因とされています。その証拠に地球の中で、どこでも地震が起こるわけではなく、大きな断層の境界付近に地震が集中して発生しています。さらに断層全体が地震の発生源というわけではありません。

断層の中で、人が感じるような地震波(地震の際、震源から四方に伝わる弾性波)を放出せず、断層面がゆっくりと“ずれ動く”現象のことをスロースリップと呼びます。断層面にはこのスロースリップが起こっている比較的地層の固着が弱い部分と、固着域と呼ばれる地層の固着が強く、地震の発生源となる部分があります。この固着域がはがれると、断層が急激に大きくすべり巨大地震が発生します。一方スロースリップは、固着域周囲のスロースリップが固着域に力を集中させることで断層の急激なすべりを発生させており、スロースリップと巨大地震は密接に関係していることが分かってきました。

スロースリップの周期性

しかし、明らかな地震波を放出しないスロースリップを検知することはとても困難です。そのために、GPSデータから地殻変動を計測するアプローチと、微小な地震波形を計測し相似地震(繰り返し地震)の発生パターンを詳細に分析するアプローチを用いることで、固着領域とスロースリップの発生場所の同定を試みました。相似地震とは同じ固着域であれば、時期が異なる地震でも波形は相似しているというものです。

本講義では、Science誌に2016年に発表した東北地方太平洋沖での観測によって得られた研究成果をご教示いただきました。まず時期の異なる相似地震を同定し、複数ある相似地震のすべり量を測定・平均化すると、時間当たりのすべり量が算出できます。その情報をもとに同断層のスロースリップのすべり量を推定します。そうすると常に一定のすべり量が発生しているわけではなく、急激にすべるときもあれば、ゆっくりすべるときもあり、そこには一定の周期性がみられることが分かりました。GPSデータの解析では陸のプレートの動きを調べると、プレートの伸び縮みに時間変化が観測され、これにも周期性がみられました。相似地震解析とGPSデータの解析結果は、ほぼ同じような結果となり、スロースリップの周期性が異なる観測結果から確認されました。

さらにスロースリップが、大地震を誘発している可能性についても検討されていました。その結果、比較的大きな地震の前に小さい相似地震が先に起こっており、周期的なスロースリップが中〜大地震を誘発する可能性が高いことが分かりました。

現在の地震予測は、過去のデータをもとに、地震の平均発生間隔や発生間隔のバラつきなどから統計的に予測していますが、本研究成果により得られたスロースリップの周期性と大地震発生の密接な関係を更に解析することによって、近い将来には大地震発生の予測精度がさらに向上することが期待されています。

講義の様子

質疑応答の様子

地震予測の難しさ

講義の後半では、大地震に対して、私たちが普段どのようなことに注意を払い、準備をすればよいのかを、私たちが住む仙台市の状況を示しながらご教示いただきました。当然のことながら、断層沿いの地域は、地震の際に揺れが大きくなる傾向があります。しかしながら、地震には地盤硬度の影響や、すべりを起こした断層面の深度など、実に様々な要因が関係しており、震度、場所、そして発生時期を正確に予測することは、未だに非常に難しいとの事でした。

正確な地震予測という難題に対して、膨大な観測データと精密な分析結果をもとに挑み続ける内田先生らの研究グループの取り組みに大きな感銘を受けました。日本での地震に対する関心は日々高まっており、地震に関する様々な情報が錯綜しています。私たちが地震に向き合う第一歩としてできることは、地震について正しい知識をもち、防災意識を持つことが大切であると感じました。

文責:高次機能障害学分野 大学院生 間宮 靖幸
撮影:高次機能障害学分野 大学院生 姜 美永

※所属や職名などは、記事発表当時のものとなっております。

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