東北大学大学院医学系研究科・医学部

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より多くの患者・家族の
苦痛軽減を目指し、
緩和ケアの臨床現場から研究の世界へ

インタビュー
保健学専攻
緩和ケア看護学分野 在校生
升川 研人
Kento Masukawa
学年:博士課程後期2年
出身地:秋田県
2020.05.29

升川 研人

臨床経験から見えた研究の重要性

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

がん患者は、痛みをはじめ多くの症状に苦しみ、それを支えるご家族の負担も少なくありません。私は東北大学を卒業後、国立がん研究センターで数多くのがん患者を受け持ってきた経験から、がん患者の苦しみを少しでも軽減することが緩和ケアの重要な役割の一つであると考えてきました。しかし、緩和ケアそして看護の研究は、医学系の研究の中でも発展途上であると感じていました。痛みをこらえながら亡くなっていく患者さんやそばで泣き崩れるご家族に間近で接し、同様の苦しみを抱える人はどれくらいいるのだろうか、目の前の患者や家族だけでなくより多くの人の苦しみを軽減することはできないだろうか、と考えるようになりました。このように臨床での出来事を通して、研究が社会還元の重要な手段であることを実感、緩和ケア/看護の研究者になることを決意し、学部時代にも卒業研究でお世話になった緩和ケア看護学分野に入学し学ぶことにしました。

●進学してみて、どうでしたか?

博士前期課程では、全国遺族調査の調査事務局を務め、そのデータを用いて修士論文を執筆しました。入学当初は右も左も分かりませんでしたが、所属分野の先生方やスタッフのご指導のおかげで、大きく成長できました。全国遺族調査の参加施設は215、対象者は1万5,000人を超える大きな調査でしたので、特に事務スタッフのご協力なしには成り立ちませんでした。この調査を通して、研究のマネジメント、研究計画書の書き方、倫理審査への対応、研究参加施設と研究者の連絡調整、アンケート調査の作成方法など多くの研究の基礎を学ぶことができました。本当に貴重な経験でした。
博士後期課程の現在は、私の希望を受け入れていただき、機械学習や自然言語処理の勉強を進めています。分からないことだらけで大変ですが、充実しています。今取り組んでいる課題は、当分野では初めての試みですので、先生方からサポートをいただきながら、自分の研究実現・達成に向けて尽力しています。

課題解決に新しいテクノロジーを

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えてください

現在の研究テーマは「自然言語処理や機械学習を活用した緩和ケアの質評価、終末期医療の実態の調査」です。自然言語とは、私たち人間が普段使っている話し言葉、書き言葉を指します。自然言語処理とは、自然言語をコンピュータ処理する技術のことです。海外では医療領域での活用が進んでおり、電子カルテ記録の要約、特定情報の抽出、記録の自動分類などが行われています。当分野では緩和ケアの質評価を目的として遺族調査を行っています。緩和ケアの主な対象者は終末期の患者さんですので、現実的には調査・研究への参加は困難です。そのため標準的な手法として、ご遺族に患者さんが受けた医療を代理評価していただくことが主流となっています。しかし、ご遺族やご協力いただく施設スタッフへの負担や費用も掛かるため、全国規模の調査は4年に一度と制限されています。そこで私は電子カルテを用いた質の評価の可能性を考えました。課題は電子カルテ上には多くの情報が文章の形で存在しているため、情報の収集には時間がかかってしまう点です。そこで近年発展を遂げている機械学習・自然言語処理技術を用いて解決できないかチャレンジしています。機械学習や自然言語処理を勉強しながらのスタートですので、簡単ではありませんし、不安もありますが、試行錯誤しながら取り組んでいきたいと思っています。

多角的な視点で議論できる環境

●研究室の雰囲気はどうですか?

教室旅行や食事会などのイベントが多く、教員、大学院生、学部生の交流が積極的に図られています。和気あいあいとした和やかな雰囲気です。大学院生内での勉強会も行っており、お互いに切磋琢磨しています。大学院生は、私のようにがんセンター看護師や緩和ケア病棟出身の看護師だけでなく、救急センター、循環器科、婦人科などさまざまなバックグラウンドを持っており、ゼミでの議論は大変面白いです。
また、所属分野には全国の緩和ケアの研究者と議論できる場がありあます。週に一度、国立がん研究センターをはじめ多く施設が一緒になって最新の緩和ケア研究のレビューやディスカッションを行うWeb会議に当分野は参加しています。多角的な視点からの議論に身を置くことができ、大変刺激的で勉強になっています。
さらに、国内にとどまらず海外の研究者との交流も活発です。緩和ケア研究の第一人者であるHigginson教授が所属するKing’s College Londonをはじめ海外の研究機関との交流・共同研究の実績もあります。毎年、国際学会へ参加しており、私も博士課程前期の1年目から発表を経験させていただきました。

●東北大学の良いところは?

研究をサポートするさまざまな体制・設備が整っているところです。例えば、他分野との共同研究をサポートする仕組みに「未来型医療創造卓越大学院プログラム」などがあります。また、博士後期課程の学生に対して、東北大学グローバル萩博士学生奨学金という経済支援制度があり、研究に集中できる環境があります。

学際的な研究を通して臨床現場に貢献したい

●今後の目標や抱負を教えてください

終末期医療、看護をより良くするため、異分野融合による学際的な研究を進めることのできる研究者を目指しています。緩和ケア領域単独の研究活動だけでなく、積極的に工学部などの他分野との連携を図り、最先端の研究・知見を追い求めていきたいです。そうすることで、多くの視点から終末期医療や看護を眺め、新たな発想へとつなぎ、質向上へ役立てたいと考えています。まずは、「機械学習×緩和ケアの質評価」を核に取り組んでいきます。
加えて臨床の方々への感謝とともに、私が進めてきた研究を少しでも臨床へ還元できるように励んで参りたいと思っています。臨床へ赴き、患者さまやご家族、医療スタッフの声をしっかりと受けとめ、それを研究という形で医療に貢献したい、この気持ちを忘れずに日々課題に取り組む所存です。

column

仙台は、おいしい食べ物がたくさんあります。COVID-19が流行する以前の話しになりますが、研究の仲間、大学時代の部活(医学部バスケ部)の仲間と国分町へ食事に行くことが多かったです。最近は星陵キャンパスの周辺にもお店が増えてきていて、大きなカキも食べることができますよ(写真)。大学院の仲間に連れて行ってもらった「遊食屋」は特にお気に入りです。お酒の種類も豊富ですし、何といっても大将が作ってくれるお料理がとてもおいしいです。ぜひ、行ってみてください。また、大学病院の教室員会のバスケ部にも参加させていただき、月2回程度先生方と一緒に汗を流しています。冬には大会があり、普段は優しい先生方の表情が一変するような激しい試合になります。基本的に体を動かすことが好きです。自宅でも海外ドラマやバスケットの試合を観戦することが多いです。
東北大学では多くの刺激を受け、自分の大きく成長できる環境が整っています。ぜひ、一緒に学び、一緒に成長していきましょう!

写真1

PROFILE
保健学専攻
緩和ケア看護学分野 在校生
升川 研人
Kento Masukawa

東北大学保健学科看護学専攻を卒業後、国立がん研究センター東病院の呼吸器病棟にて勤務。その後、東北大学医学系研究科緩和ケア看護学分野博士課程前期へ入学・修了。博士課程後期に進学し現在2年。主な研究テーマは終末期医療の質評価、多施設遺族調査、自然言語処理/機械学習を活用した終末期医療の質評価。