東北大学大学院医学系研究科・医学部

大学院説明会
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臨床経験・勘に加え、
科学的な眼で治療法を選択
研究意欲のある療法士の育成にも貢献

インタビュー
医科学専攻
肢体不自由学分野 卒業生
中尾 真理
Mari Nakao
卒業年度:2019年度
卒業学位:医学博士
現在の職場・会社名:医療法人 愛広会 新潟リハビリテーション病院
現在の役職:リハビリテーション科 医師
2020.06.04

中尾 真理

患者さんを「良くする」の科学的な証明

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

大学院に進学しようとした時点ですでに、医師としては10年の臨床経験があり、リハビリテーション科の専門医も取得しておりました。次の目標を考えたとき、自分が実務で行っている治療が正しいものなのかを、科学的に検証したいという思いに駆られました。リハビリの分野、特に自分が専門にしようとしていた嚥下障害に対するリハビリの分野では、まだまだ「良くなる機序・理由」が科学的に証明されていることが少なく、「経験・勘」による「施術」が行われていると感じていました。自分が患者さんに施しているリハビリが、患者さんにとって「良くする」ものであることを科学的に証明したい、また、あまたある治療法の中で自分がそれを選択する「科学的な眼」を持ちたいというのが進学の動機でした。

一流の研究者と膝を突き合わせて

●進学してみて、どうでしたか?

学生として第一線で活躍される研究者と交われる楽しさと同時に、仕事と研究を両立しなければならない厳しさも経験しました。私の所属した肢体不自由学分野の出江紳一教授、鈴鴨よしみ准教授は、研究テーマの決定から、データ収集、データ解析、論文化まで、科学的な方法について逐一膝を突き合わせて指導してくださいました。一流の研究者の先生にこのように丁寧に教えていただけることは、非常に貴重な経験であったと思います。また、臨床研究の成果を国内・国際学会で発表することで、多くの第一線の研究者にお会いすることができ、大学院生ということでご指導をいただくことができました。一方、常勤医師として勤務しながらで研究することは時間・体力共に大変で、大学院2年目からは職場にお願いして、非常勤勤務になりました。学費・移動費・研究そのものにかかる費用も生活費と共に工面せねばならず、時間とお金のやりくりについては非常に厳しい4年間でした。

臨床での経験から選んだ研究テーマ

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えてください

私の研究テーマは「嚥下造影検査を用いた延髄外側梗塞の嚥下運動動態に関する研究」でした。入学するまで私はリハビリテーション科専門医として嚥下障害に対する診療とリハビリテーション処方を行ってきました。その中で嚥下運動がスムーズに咽頭・喉頭で起こるためには、延髄での嚥下の運動プログラミングが重要であること、特に延髄外側の梗塞を経験された患者が他の部位の嚥下障害と比較して独特の経過を辿ることを経験してきました。従来は延髄外側梗塞と言えば、食道入口部の開大不全に焦点を当てて通過側を検討することを中心に研究が行われてきましたが、臨床において嚥下造影を毎日行ってきた印象から、運動プログラミングの異常で系列運動の順序が変化しているのではないかという印象を持ちました。延髄梗塞の症例集積研究を行うことは、延髄が嚥下の中枢としてどのような役割・働きを負っているかに関する根本的な問いに答えることになると考え研究計画を練りました。

「自由」な良さと厳しさのなかで

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

一言で言うと「自由」でした。これには「自由」な良さも「自由」であるゆえの厳しさもありました。私の所属していた医学系研究科肢体不自由学分野は医工学研究科リハビリテーション医工学分野を兼ねており、様々なバックグラウンドの学生・教員がいました。通常は医科の大学院の教室は、教室のテーマがいくつかに絞られていて、それを院生が分担する形で研究テーマを教授から「与えられる」ことが多いと思うのですが、ここでは、基本的に自分の探究したいテーマを設定する「自由」が与えられていました。大学院生は、内外の専門家に教えを乞いながら、心行くまでそのテーマを探求することもできます。反面、設定したテーマが完遂できるかどうかは自分やその周囲の状況にかかっているところもあり、実際自分が最初に設定した研究計画は2年目で頓挫して大きな方向転換を求められたこともありました。ただし、院生室の雰囲気は良く同期や後輩に大いに助けられました。

門戸開放

●東北大学の良いところは?

「門戸開放」です。自分は仙台には縁もゆかりもなく、ただただ臨床の疑問をより深め研究する場を求めて、東北大学大学院に入学しました。そのような自分に研究の場を与え、様々なチャンスを与えてくださった東北大学に大変感謝しております。I S T Uというe-learningで修了単位の一部を取得することができたこと、国際学会の発表を単位の一部に換算していただくことができたこと、土曜日に月1回研究分野のメインのセミナーがあり、仕事をしている場所(当時は横浜)と大学が離れていても、(大変ではありましたが)社会人として十分修了できる体制が作られていることも魅力でした。指導教官の先生方は週末にかかっても快く面談に応じていただき、本当に感謝しています。

科学的ものの見方で指導

●現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

大学院を修了した2019年の4月より、医療法人 愛広会 新潟リハビリテーション病院のリハビリテーション科医師をしております。ここでは、回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中・骨折・脊髄損傷などの患者の主治医をすると同時に、全病院横断的な嚥下診療(回診、評価、経口摂取方法などのアドバイス)も行っております。同法人内に新潟医療福祉大学という理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を育てる大学があり、卒業生が多く入職することで、勉強熱心な若い療法士と仕事をする機会に恵まれております。療法士に指導をする際には、科学的なものの見方に基づいてディスカッションするように心がけています。研究を希望する療法士の相談に乗り、令和2年度1名東北大学大学院に無事合格、入学されました。また、東北大学大学院医学系研究科及び新潟大学歯学部の非常勤講師もさせていただいており、自分の研究テーマについては、引き続き研究を続けさせていただいいます。

経験から見出した研究と、新たなる挑戦

●今後の目標や抱負を教えてください

自分の研究の幅を広げるため、自分がまだ行ったことのない、システマティックレビューの論文を書くことに新たに挑戦したいと思っています。昨年は複数回コクランジャパンの主催するセミナーに参加しました。そして今月P R O S P E R Oというサイトにprotocolを登録したところです。また、家族の看取りの経験から、嚥下障害の患者さんの在宅介護・ケアについて嚥下障害特有の大変さや負担に焦点を当てた研究を行いたいと思っているところです。大学院生活を通じてつながった多くの海外の研究者の先生との関係は共同研究や国際比較などの形で、今後も長く深く継続できればと思っています。最後に、志ある後輩の研究が形になっていくように少しでも応援できればと考えています。

今までと違う自分に

これから大学院を受験しようとしていらっしゃる方は、ぜひ希望を持って門を叩いてください。今までと違う自分に会えるはずです。お会いできることを楽しみにしています。

mylife

自分のおすすめは、地下鉄台原駅近くにある、台原森林公園です。最終学年の間、ここの近所の築30年のマンションの1室を研究拠点にしていて、朝晩散歩をしていました。朝日が燦々と指す夏も、雪に覆われた冬も、紅葉に溢れる秋もそれぞれ大変気持ちの良い散歩ができる場所で、本当におすすめです。あまり時間がない時には、台原駅口から、旭ヶ丘駅に抜ける道をくだっていくだけでも、15分程度で木漏れ日や鳥のさえずりなど自然がいっぱい楽しめます。夏には蛍も楽しめます。

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PROFILE
医科学専攻
肢体不自由学分野 卒業生
中尾 真理
Mari Nakao

2005年富山大学医学部卒業。2009年よりリハビリテーション科専修医として聖隷三方原病院でリハビリテーション診療・摂食嚥下診療を学ぶ。2011年より横浜市立大学リハビリテーション科医局に所属。リハビリテーション科医師として診療を行いつつ、2015年4月より東北大学大学院医学系研究科に社会人大学院生として入学。2019年3月修了。医学博士取得。専門は嚥下障害。令和2年度東北大学大学院医学系研究科女子大学院学生奨励賞(七星賞)優秀賞受賞。現在は新潟リハビリテーション病院で回復期を中心に診療に従事している。

●関連リンク

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