東北大学大学院医学系研究科・医学部

大学院説明会
特設ウェブサイト

「世の中の役に立つ研究を」という
教授の情熱に触発され
昼夜研究に没頭する毎日
胎児の状態の評価法開発で
安全安心な周産期管理への貢献を目指す

インタビュー
障害科学専攻
胎児病態学分野 卒業生
湊 敬廣
Takahiro Minato
在学時の分野名:融合医工学分野
卒業年度:平成29年度
卒業学位:医学博士
現在の職場・会社名:八戸市立市民病院
現在の役職:産婦人科医師
2020.06.04

湊 敬廣

子宮の中の赤ちゃんの状態を評価する新たな方法を探求

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

大学を卒業して2年間の臨床研修を修了した後に産婦人科の道を選択しました。
産婦人科医としてたくさんの症例を経験させていただきましたが、私はその中で胎児の生理学の分野に興味を抱くようになりました。ご存じのように赤ちゃんはお母さんの子宮の中にいるため、普段の診療で行っているような血圧や体温などの計測ができません。もちろん問診や顔色で具合が悪いかどうかを判断することもできません。子宮の中の赤ちゃんの状態を評価する手段は非常に限られていて、主に胎児の心拍数の変化で評価します。しかしながらその評価方法にも限界があるということを感じていました。例えば赤ちゃんの具合が悪そうだと考えて分娩方法を帝王切開にしても、実際にはとても元気な状態で生まれてきた、という事をよく経験しました。もちろん、元気な状態で生まれてきてくれることが一番なのですが、検査の精度という面に関しては擬陽性が多いなとは感じていました。そのような臨床の経験から、子宮内の胎児を評価する新たな方法を知りたい、理解を深めたいと思った事がきっかけでした。

モデルマウスの作成から論文発表まで一つ一つが丁寧な指導

●進学してみて、どうでしたか?

胎児の新たな評価方法について研究したい、と思っていたので融合医工学分野の教室に入りました。教授の木村芳孝先生が胎児心電図を用いた新たな胎児の評価方法について研究していたからです。そこで私はマウスの胎仔を使った基礎研究を行いました。とはいえ大学院に入るまではマウスなんて触ったこともないですし、飼育や交配の方法も全く知りませんでした。ほとんど知識が無の状態からの出発でしたが、指導教官の先生が一つ一つ丁寧に教えてくださいました。実験に用いるモデルマウスの作成に約半年費やし、その後実験、データ解析、論文作成に至るまでさまざまな局面で木村先生、指導教官の先生からアドバイスをいただき無事論文が受理され卒業することができました。もちろん大変なこともありましたが、つねに相談できる先生がいたことはとても恵まれた環境にあったと今でも思います。

高齢妊娠・出産のリスク軽減を目指して

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えてください

研究テーマは「胎児心電図を用いた子宮内発育不全胎仔の評価について」です。発育不全胎仔のモデルマウスの心電図を計測し、自律神経の発達状態と分娩後の脳障害との関連について研究しました。この研究テーマを選択したのは、近年妊娠の高齢化に伴うハイリスク妊娠が増加しており、その結果低出生体重児が増加傾向にあるからです。子宮内における胎児発育不全が原因の一つと考えられますが、その場合は正常に成長している赤ちゃんに比べて妊娠・分娩中に具合が悪くなりことや、出産後に新生児治療が必要となることが多くなる傾向にあり、注意が必要です。おなかの中にいる赤ちゃんの状態をより正確に把握できれば適切なタイミング、分娩方法を選択することができ、赤ちゃんをより良い状態で出産することが可能になります。新たな評価方法が確立できればより安全な周産期管理ができると考えこのテーマを選択しました。

緊張感と楽しい雰囲気が共存した研究室

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

木村先生が温厚な性格だったため、研究室の雰囲気もとても良かったと思います。週に1回ミーティングがあり、実験の進捗状況の報告や抄読会がありましたが、緊張感の中にも和気あいあいとした雰囲気で毎回楽しかったです。研究室の中には3グループがあり、異なる研究テーマで実験しているのですが、他の研究グループの発表を聞くことも知的好奇心を刺激されましたし、自分の研究の新たな気付きにもなりました。

学ぼうとする姿勢と情熱さえあれば誰にでも研究のチャンスが与えられる

●東北大学の良いところは?

研究室では私を含めて出身大学も国籍も異なるさまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まり、木村先生の「世の中の役に立つ研究を一緒にしよう!」という情熱に触発されて昼夜研究していました。私が在籍していた時期はちょうど胎児心電図装置の有用性を証明するための臨床試験が行われていたのですが、医師、医工学の専門家、統計学や胎児心電図計測のアルゴリズムを熟知した数学のスペシャリスト、医療機器メーカーの方たちが臨床研究を成功させるべく努力されていました。その結果胎児心電図装置の有用性が示され、医療機器としての認可も取得しました。主体的に学ぼうとする姿勢と情熱さえあれば誰にでも研究ができるチャンスが与えられること、これが東北大学の良いところだと私は思います。

産婦人科医として、そして一人の親としての経験

●現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

2018年に大学院を卒業後は再び産婦人科医として青森県の八戸市立市民病院に勤務しています。青森県南の中核病院で分娩件数が年間約1300件とかなり多い病院です。
大学院の研究テーマが臨床の診療に沿った内容でしたので、胎児生理学についての知識が以前より深みを増したと思います。例えば子宮内胎児発育不全の赤ちゃんの娩出のタイミングについてですが、それが早すぎれば早産による合併症のリスクが高くなりますし、遅すぎれば赤ちゃんが具合悪く生まれてしまいます。医療介入を行うタイミングが重要となるのですが、以前よりもその判断が迅速かつ適切にできるようになったこと、妊婦さんやご家族に病状説明時にエビデンスをもって説明できるようになったことは大学院時代の経験が活きているのではないかと思います。
また私事ですが、大学院時代に妻の妊娠、出産を夫として経験することができたので医師としてだけではなく、一人の親として妊婦さんやそのご家族の気持ちを理解することができました。産婦人科医師といえども妻の分娩の時は本当に不安でした(笑)。そのような点でも大学院時代の経験は現在に活かされているな、と感じています。

安全・安心は周産期管理のために

●今後の目標や抱負を教えてください。

妊娠の高齢化やハイリスク妊娠は今後もますます増加していくと考えられます。大学院で培った知識を活かして安全で安心な周産期管理を行っていきたいと思います。また胎児心電図装置が臨床ベースとなり、今後さらにその有用性を明らかにするために新たな臨床試験が行われていくと思います。可能であればその臨床試験に参加して胎児心電図装置が新たな胎児診断のツールの一つとなれるように尽力できればと考えています。

mylife

仙台は“杜の都”といわれるように、大変自然に恵まれた都市です。仙台の中心部を流れる広瀬川の河畔はとても自然に恵まれた場所の一つです。なかでも牛越(うしごえ)橋から澱(よどみ)橋までの左岸には遊歩道が整備されており、私のおすすめのスポットです。距離はそれほど長くはないのですが、ここから見える風景によく癒されていました。春から夏にかけての新緑、秋が深まるにつれて色濃くなる紅葉などを見ると季節の移ろいを感じることができます。研究しているとどうしても建物にこもりがちになり、季節を感じることができず単調な生活になりがちです。そんな時はぜひこの道を散策してみてください。星陵キャンパスから徒歩10分ほどの距離です。

PROFILE
障害科学専攻
胎児病態学分野 卒業生
湊 敬廣
Takahiro Minato

宮城県仙台市出身。2007年北海道大学医学部医学科を卒業。東北大学病院で2年間の臨床研修後に同大学病院産婦人科入局。2014年東北大学大学院医学系研究科に入学。融合医工学分野に所属。2018年同大学院卒業。現在は八戸市立市民病院産婦人科勤務。

●関連リンク

お腹の赤ちゃんに吉報 - 純国産の画期的胎児モニタリング装置が商品化