東北大学大学院医学系研究科・医学部

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言語聴覚士の養成教育を通して
芽生えた疑問や課題を解決するため
3年ぶりに博士後期課程へ進学

インタビュー
障害科学専攻
肢体不自由学分野 在校生
奥山  淳子
Junko Okuyama
学年:博士後期課程2年
出身地:山形県
2021.05.11

奥山  淳子

人生の折り返し、研究者・教育者としての向上目指し決意

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

約20年間の医療機関での臨床経験を経て、仕事人生の折り返し地点に差し掛かり、新しいことに挑戦してみたいと考えるようになりました。そこで、自分の原点に立ち戻り、大学教員として教育に関わることにしました。そのためには学位取得が必要で、これまで日常の業務に忙殺され研究活動に向き合うことができなかったこともあり、懐かしい仙台の地でもう一度学びたいと、摂食嚥下(えんげ)リハビリテーションや医療コーチングに関わる研究が行われていた肢体不自由学分野に志願しました。2016年3月に博士前期課程を修了し、弘前医療福祉大学の教員として言語聴覚士の養成教育に携わりました 。その中で芽生えた新たな疑問や課題について学びを深めたい、そして研究者としても教育者としてもさらなる向上を目指したいという思いから、3年間の充電期間を経て、あらためて博士後期課程に進学しました。

●進学してみて、どうでしたか?

世界をリードする優れた先生方の御指導の下、研究設備や環境の整った研究室でとても充実した日々を送っています。博士前期課程では、Eye Trackerを使用して、健常者を対象にした「音声言語知覚における視線の影響」というテーマで修士論文をまとめました。研究室では、さまざまなテーマについてチームで取り組む体制を取っており、お互いに協力しながら研究を進めています。そのため、自分の実験だけではなく、経頭蓋磁気刺激(TMS)やマウスピース装着時の筋電図、歩行時の3次元動作分析など数々のデータ収集や被験者となる機会があり、大変貴重な経験が得られました。博士後期課程では「論文研究」が中心となりますが、青森からの遠方通学でもSkypeやメールなどでの研究指導が受けられるため、さほど時間的・経済的負担なく続けることができます。昨年度来の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威により、研究活動への影響が懸念されましたが、オンライン化への迅速な対応をいただき、感染予防対策を講じた上でカリキュラムが維持されています。

言語聴覚士の養成教育に重要な社会人基礎力を調査、研究

 ●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

研究テーマは「言語聴覚士の養成教育における社会人基礎力の評価と育成」です。養成教育では、専門的な知識・技能だけでなく、対人援助職としてヒューマンスキルの育成が期待されています。しかし、大学全入時代といわれる昨今、さまざまな目的や職業観、意欲を持った多様な学生が入学してきている一方で、自己肯定感の希薄さや社会性の問題を抱える学生が少なからずいます。こうした問題の背景には、主体性やコミュニケーション力、ストレスコーピングといった就業上の基礎を成すスキルに関連した課題が内在していると考えられます。社会人としての基本的資質・態度の育成に関しては、近年の情報技術革新や社会のグローバル化の中、高等教育においても重要な教育目標の一つとなっています。本研究では、現職の言語聴覚士の社会人基礎力を調査して、養成教育で目指すべき指標の可視化を図り、その上で、それらの社会人基礎力を育成する手法の一つとしてコーチング理論を導入し、その効果を検証していきたいと考えています。

「もう一度戻りたい」と思える場所、迎え入れてくれる場所

●研究室の雰囲気はどうですか?

医療系の専門職をはじめ、工学系や教育系などから多彩な顔触れが一堂に会する研究室であるため、多角的な視点での示唆が得られます。各国の留学生も多数在籍しているため、複数の言語でのやり取りが飛び交う中、和やかに友好を深めたり、活発な意見交換をしたりしています。現在は新型コロナウイルスの影響で忘年会などの親睦会が軒並み中止となっていますが、博士前期課程の時は同期の仲間と分担して幹事役に奔走しました。秋の風物詩である芋煮会では、広瀬川河畔まで下見に行くほどの気合の入れようで、いまとなってはそのどれもが大変いい思い出になっています。食べたり飲んだりしながら、いろんなことを語り合った仲間は、いまなお交流が続く貴重な存在です。こうした魅力ある研究室の雰囲気に、博士前期課程を修了して3年ぶりに社会人学生として戻ってきました。そんなふうに、もう一度戻りたいと思える場所であり、それを温かく迎え入れてくれる包容力のある場所でもあります。

●東北大学の良いところは?

東北大学の建学の精神は「研究第一主義」「門戸開放」「実学尊重」です。学部生の頃はピンときていなかったように思いますが、大学院生となり、まさにこれらの理念を実感する日々です。研究環境のみならず、全学を挙げて研究に注がれる熱い思いや課題解決に真摯(しんし)に向き合う学風が印象的です。また、日本の大学として初めて女子学生の入学を許可した歴史や外国人留学生の博士号取得第1号を輩出した伝統のある東北大学だけに、人種・国籍・性別を問わず、優れた研究者や頼もしい大学院生が集まっています。研究室には、第一線で活躍されている女性の先生や女子学生も多数在籍しています。研究で得られた成果は、広く地域や社会に向けて発信され、生活する人々のために活用すべきであると常に念頭に置かれており、大学院での学びを通してそれらを十分に享受できます。

切磋琢磨し協力を得ながら一人の研究者として自立を

●仕事との両立はどのようにしていますか?

博士前期課程では、対面授業が比較的多く、遠方からの通学は困難と思われたため、いったん仕事を離れて学業に専念して取り組みました。博士後期課程では、東北大学インターネットスクール(ISTU)の利用により、単位取得に必要な授業を無理なく受講することが可能でした。レポートも半期に一度まとめて提出することができるため、仕事のスケジュールを考慮しながら計画的に進められます。また、研究室で開催される主なセミナーは、夜間や土曜日に設定されていて、社会人でも参加しやすいように配慮されています。私の場合、学業に、仕事に、家事に、子育てにと、何足ものわらじを履いている形になるので、なかなか一筋縄ではいかない面もありますが、幸い、職場での支援が得られ、子どもたちにも励まされています。そうした周囲の理解と協力に感謝しつつ、研さんを重ねていくことができております。

●今後の目標や抱負を教えてください

研究実績として海外の英文雑誌に論文投稿していくことや、さらに研究を追究していくために科学研究費助成事業への申請を行っていくことなど、研究活動に必要なノウハウを広く身に付けていきたいと考えています。国際色豊かで志を持った多様な大学院生と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、この東北大学で一人の研究者として自立できる総合力を培っていきたいと思います。

mylife

ここは通学途中によく通る錦町公園です。仙台に来る時はいつも時間との勝負で、脇目も振らず、星陵キャンパスと仙台駅との往復に明け暮れることが多いですが、信号機でふいに立ち止まった時、目に映る桜の美しさや木々の緑の鮮やかさにハッとする瞬間があります。それほど人出が多くもなく静かで、ゆったりとした時間の流れを感じます。自転車で疾走している気忙(きぜわ)しい中にも、ひとときの柔らかな安らぎを与えてくれるお気に入りの場所です。博士後期課程修了までには、足を止めて腰を下ろし、木漏れ日の下、おいしいミルクティーでも味わいたいものです。

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PROFILE
障害科学専攻
肢体不自由学分野 在校生
奥山  淳子
Junko Okuyama

言語聴覚士。東北大学教育学部教育心理学科卒業。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科学講座肢体不自由学分野博士前期課程修了。篠田総合病院(山形)、東八幡平病院(岩手)等での臨床経験を経て、現在は弘前医療福祉大学(青森)保健学部医療技術学科言語聴覚学専攻に勤務。