東北大学大学院医学系研究科・医学部

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研修通して基礎知識の重要性を痛感
異分野との垣根を越えた研究に
「いつも楽しそう」と言われるほど没頭

インタビュー
医科学専攻
神経内科学分野 在校生
松本 勇貴
Yuki Matsumoto
学年:博士課程3年
出身地:東京都
2021.04.26

松本 勇貴

「こうなりたい」と思える先生たちに出会えた幸運

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

理由は3つあります。1つ目は、医学全般における基礎的な知識が欠落していると感じたからです。初期研修から後期研修まで、自分なりに患者さんと向き合い勉強してきましたが、同時に自分のできることの少なさ、そしてその危うさを感じていました。原因は当然ながら経験が不足していることに加えて、疾患の背景にある神経病理学や神経症候学に対する理解が不足していて、その基礎的な知識が欠落しているためだと考えました。熟練の先生方の姿を見ながらいつも感じていたのは、臨床のエビデンスのみならず、神経病理学を含め基礎的な分野にまで精通しておられ、それらが有機的に結合し日々の臨床を行っておられるということでした。そのため、私も大学院で一度しっかりと基礎実験や臨床研究を通して病気への理解をさらに深め成長したいと考えました。
2つ目は、自分の興味を持った希少疾患について研究したいと思ったからです。私は臨床研究に興味を持ち、臨床的疑問を定式化し研究デザインを考え、倫理申請し指導医の先生の指導をいただきながらデータをまとめてきました。しかし、市中病院では神経疾患は症例数の限りもあり、なかなか解決が難しい課題もありました。東北大学神経内科には豊富な症例数があり、指導してくださる先生もいらっしゃる。これに挑戦しない理由がありませんでした。
3つ目の理由は、学会などで接する東北大学脳神経内科の先生が、こうなりたいなというロールモデルとなるような先生ばかりだったからです。目標とする先生と日々議論しながら実験・研究したいと思い進学しました。

●進学してみて、どうでしたか?

「いつも楽しそうに研究しているよね」とよく言われます(笑)。細胞やフローサイトメトリーを用いた研究、病態を再現した動物モデル、神経病理の研究にも携わらせていただいて、疾患への理解が日々深まっていると感じています。もちろん全ての実験がうまくいくわけではありませんが、逆に自分の立てた仮説と異なる結果が出て、なぜそうなったのかを考えている時が私にとって最高の瞬間の一つです。希少疾患も豊富な症例数があり、研究アイディアの実現に事を欠くことはありません。同時にそのような豊富な症例をデータとしてまとめ、後輩の研究者が研究しやすい環境も整えたいと考えて取り組んでいます。研究をより良いものにするにはデータが重要なのはもちろんのこと、指導してくださる先生との度重なる議論が欠かせないと日々感じています。何より一対一の議論がとても大切で、時間を取って議論してくださる先生方には感謝しています。また、東北大学は異分野間の垣根が低いのではないかと思います。私の大学院に入って最初の論文も、放射線科の先生と共同で行った神経放射線学分野の画像研究でした。一緒に研究していただけないかとお願いしたところ、快く承諾くださり、そこからはとんとん拍子に研究が進み2020年12月にJournal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry誌に掲載されました。視神経脊髄炎という現在の研究のテーマに加えて、並行して実施している研究も医療管理学講座の先生方との共同研究であり、間もなく論文を提出します。その他医療機器開発においては、脳外科の先生にアドバイスをいただいたり、今後の研究のために機械学習に詳しい放射線科の先生にお話を伺ったりしています。このように、研究の材料があり、日々素晴らしい神経内科の指導医の先生に直々に指導していただける環境があるのと同時に、異なる分野の先生方に指導していただけるという幸運に恵まれました。

難病患者が回復する姿に感動治療の進歩に寄与したいと決心

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

研究テーマは視神経脊髄炎という病気です。主に視力や手足の機能が障害される神経の病気で、2004年に当科および米メイヨー・クリニックの共同研究によって初めて明らかとなりました。視神経脊髄炎は自己免疫疾患の一種であり、多くはアクアポリン4という水チャネルに対する自己抗体が検出されます。日本には4000人程度の患者さんがいると考えられています。適切な治療がなされなければ90%の方が5年以内に再発し、最悪の場合、失明、車椅子、寝たきりとなる難病(特定疾患)ですが、近年は治療成績が大きく向上し年間再発率も5~10%程度となり、多くの方が自立した生活を営むことができるようになりました。私は神経内科医になった初日に、この病気の患者さんを診ました。非常に重症な方で、当初は寝たきりの状態で、痛みも強く身動きも取れないような状態でしたが、適切な治療により歩行可能となりほぼ後遺症なく退院されました。ウイルス感染症を背景に発症し、一般的な治療とは異なる治療で完治したため、症例報告として国際誌に報告しました。論文を作成する中で、なぜ視神経脊髄炎を発症する人としない人がいるのか、軽症と重症の人がいるのか、その病態メカニズムに興味を持ちました。やはり最初に経験した症例というのは自分の人生にとって大きなインパクトがあります。私が視神経脊髄炎を研究テーマに選んだのは、こんなに重症の人が、疾患の発見から10年足らずで治療が進歩し治るようになったのだと感動し、その進歩に自分も加わりたいと思ったからです。しかしながら、うまくいくことばかりではありません。視神経脊髄炎の方でも重篤な後遺症が残る方、再発を繰り返す方、またアクアポリン4に対する自己抗体が検出されない、いまだ原因の不明な患者さんがいます。その原因を突き止め、適切な治療に結び付けたいと考えています。

主体性を重んじ新たな挑戦に寛容、異分野との交流も盛ん

●研究室の雰囲気はどうですか?

新しい挑戦をすることに非常に寛容です。科長である青木正志教授のご指導の下、多くのことに挑戦させていただいています。研究室は主に3つのグループがあり、パーキンソン病関連疾患研究チーム(PDチーム)、多発性硬化症・神経免疫疾患研究チーム(MSチーム)、筋萎縮性側索硬化症・骨格筋疾患研究チーム(ALS・筋チーム)に分かれています。私が所属しているのはMSチームですが、チームごとの垣根もなく、分からない実験手技があれば同期や先輩方が快く教えてくださいます。MSチームは、これまで脱髄疾患の概念を変えるような数々の業績を出されてきた三須建郎先生をヘッドとし、主にその他指導医の先生2人、私を含む大学院生2人で和気あいあいと研究しています。主体性を重んじてくださるので、研究テーマについては自由でありながら、研究や論文の方向性については三須先生が、楽しく、時に厳しく指導してくださいます。一言で言って「最高」ですね(笑)。

●東北大学の良いところは?

異分野との交流が盛んなことです。私は研究のみならず、卓越大学院というプログラムを通して、医工学部の方や他科の先生と共同でプロジェクトをしたり、講演を企画したりしています。異分野の先生の話を伺えることは非常に刺激的で、自らの研究にもフィードバックできることが多いです。日々の仕事に生かせるだけでなく、研究のアイディアも次々と湧いてきて、わくわくするような毎日を過ごしています。2021年1月にはカリフォルニア大学バークレー校が主宰するデザイン思考のウェブ講義を受講しました。6週間の過密日程に加え膨大な量の宿題がありましたので、大学院の研究との両立が大変でしたが、同じグループの仲間のおかげで乗り切ることができました。デザイン思考は研究や日常の困り事を解決するための土台を成すものであり、それを勉強できたことは自分の人生にとって非常に大きなことだと感じています。その後、優れた研究者の先生や指導してくださる先生は、デザイン思考を学んでいなくても、それに近い考えをすでに持っておられることも分かり、デザイン思考は優れた先生に近づくための近道ではないかと認識しました。
それから、図書代があまりかからなくなりました(笑)。私は月に5~10冊程度、業務の合間や通勤の際に本を読むのですが、東北大学図書館は医学分館が星陵キャンパス内にありアクセスも容易で、インターネットでの予約も簡便です。年間10万~20万円程度かかっていた図書代はほぼゼロになりました。

病態メカニズムの一端を明らかにし、患者さんを元気にしたい

●今後の目標や抱負を教えてください

まずは今やっている複数の研究をきちんとまとめて、論文として世に出すことです。すでに3つの研究の結果が出そろっていて、それらをきちんと報告し世に問う必要があります。臨床研究の目標としては、臨床ガイドラインを変えられるようなデータを出すこと、日々の臨床に適切なフィードバックを行うようなデータを出すこと、基礎研究の目標としては、一つの疾患の病態メカニズムの一端を明らかにすることです。また、機械学習で作成したモデルを神経免疫患者さんの臨床に活用できる状態にしたいと考えています。それらを通して、神経内科の患者さんを元気にすることを目指しています。

●進学希望者の方へメッセージがありましたらお願いします

皆さまの研究について、私がお手伝いできることがあればいつでもご連絡ください。

mylife

休日は家族と過ごしています。新型コロナウイルスのパンデミック下では屋外の公園などで子どもと遊ぶことが多く、屋内の施設に行くことはなくなってしまいました。最近、写真を趣味として始め、移ろいゆく四季とともに成長する息子をファインダーに収めることを休日の日課としています。星陵キャンパスの周辺は春であれば桜、夏には青々した緑、秋にはキンモクセイ、紅葉やイチョウ並木、冬には幻想的な雪景色が見られる所が徒歩圏内にあります。お寺や庭園も徒歩圏内にあり、風光明媚(めいび)で写真を撮影していて楽しいです。

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PROFILE
医科学専攻
神経内科学分野 在校生
松本 勇貴
Yuki Matsumoto

2014年に産業医科大学を卒業。福島県の総合南東北病院で初期研究、その後2年間の神経内科としての後期研修、産業医業務を経て2018年に東北大学脳神経内科に入局。2019年より東北大学大学院医学系研究科神経内科学分野および未来型医療創造卓越大学院プログラムに進学。神経免疫学を専門したいと願い、日々研究に励んでいる。