東北大学大学院医学系研究科・医学部

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大学卒業後さらに深く学べる道を知り
メンタルヘルス分野の研究人生スタート
新分野立ち上げ医学への貢献に尽力

インタビュー
障害科学専攻
行動医学分野(現心療内科学分野) 卒業生
中谷 直樹
Naoki Nakaya 
卒業年度:2003年度
卒業学位:博士(障害科学)
現在の職場:東北大学東北メディカル・メガバンク機構
現在の役職:教授
2021.05.06

中谷 直樹

同じ思い持つ先輩方と共に学び、人間的にも大きく成長

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

学部時代、疫学・公衆衛生学、特に精神保健(メンタルヘルス)について興味を持ちました。当時、小中学校でのいじめの原因について卒業論文としてまとめていて、さらに大学院で勉強したいと思うようになりました。ちょうどその頃、兄が東京大学大学院に入学し、大学卒業後さらに教育を受けることができる道があることを知りました。そこで、Non-MDがメンタルヘルスを勉強できる大学院として、東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻の人間行動学分野(現心療内科学分野)を探し当てました。早速、当時教授だった山内祐一先生に連絡を取り、お会いしました。お話を通して、メンタルヘルスについて山内先生の下でより深く学びたいと思い、自分の研究人生が始まりました。

●進学してみて、どうでしたか?

障害科学専攻に入学して良かったことは、多職種が集まる専攻だという点です。職種により考え方は違っても、患者さんに医学研究で貢献したいという熱い思いは同じなのだなと感じました。私が所属した人間行動学分野も心療内科医、看護師、理学療法士、作業療法士、心理士、薬剤師など、幅広い医療資格を持っている先輩方がおられ、それぞれの専門性を研究に生かしていました。分野の研究テーマが幅広く、抄読会でも多様な知識を得ることができました。特に、修士課程で指導をいただいた熊野宏昭先生から実証研究の方法論、統計解析手法などを学び、自分の研究の基盤を築いた重要な時期でした。熊野先生からは少年院入院者へのリラクセーション研究など多くの研究のご指導をいただきました。先輩方との交流も楽しく、人間的にも大きく成長できたのではないかと思います。いまでも遠方の学会があると先輩方に連絡し、近況報告をするなど交流を続けています。

研究の結論から得た「真の因果関係」の視点で仮説検証

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

障害科学専攻博士後期課程に進学後、人間行動学分野から行動医学分野に名称が変更になり、分野の教授に福土審先生が就任されました。福土先生と公衆衛生学分野の辻一郎先生が同級生ということもあり、公衆衛生学分野に学内留学する機会をいただきました。そこで得たテーマは「パーソナリティと発がんリスクの関係」です。当時、がんになりやすい性格(タイプCパーソナリティ)が提唱されていましたが、公衆衛生学分野で実施されていた5万人の一般地域住民を対象とした「宮城県コホート研究」を利用した結果、「パーソナリティと発がん・がん予後は関係しない」という結論に至りました。一方、同じデータの解析により、がん患者さんは臨床的な状態の影響などで抑うつ症状を有することがあり、「パーソナリティと発がん・がん予後の関係は因果関係が逆転していた」という知見も得ることができました。この経験から、疫学の重要な視点である「真の因果関係」を念頭に研究仮説を立てるようになりました。その後、さらにがん患者さんの心理社会的要因について研究を続け、世界的な結論を得ることができました。この一連の研究成果を得られたのは、東北大学の博士課程から始まり、国立がん研究センター、デンマーク対がん協会(コペンハーゲン)で継続的に研究させていただいたおかげだと感謝しています。

修行のようなディスカッションの日々が研究者としての礎に

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

博士後期課程では行動医学分野、公衆衛生学分野と2つの分野に所属したので、2倍勉強できました。行動医学分野では臨床的視点を持つ先生方、先輩方が多く、疫学研究結果を解釈する上で非常に参考となる意見をいただきました。行動医学分野では抄読会や学会などの予行演習を臨床視点からディスカッションができたのがとても有意義でした。一方、公衆衛生学分野は「疫学のメッカ」と呼ばれている分野ですので、疫学用語、手法を交えてディスカッションする先生方、先輩方に付いていくのがとても難しく毎日必死でしたが、当時の修行のような日々がいまの自分の研究者としての礎となりました。公衆衛生学分野の先生方、先輩方に、時には厳しくご指導いただいたことに非常に感謝しています。これから大学院に入られる方にも、多くの研究者と交流し、その機会を大切にしてほしいと思います。

●東北大学の良いところは?

東北大学は、建学以来の伝統である「研究第一」「門戸開放」の理念を掲げていて、自然と優れた研究者が多く集まってくる場所だと思います。さらに、人材交流、国際共同研究がとても盛んで、自分の研究の立ち位置を理解しやすい環境にあります。東北大学のように人材交流、国際共同研究を生かして自分の研究を高めていくことができる場所はなかなかないと思います。また、杜(もり)の都・仙台は非常に住みやすい都市です。自然、食、観光が身近で体験できるコンパクトに凝縮された街で、気候は冬でも温暖で、夏は涼しく、快適に過ごせます。家族もこれまで過ごした街の中で一番好きだと感じているようです。

学外との幅広い共同研究通して未来型医療の推進に貢献

●現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

東北大学東北メディカル・メガバンク機構に所属しています。「震災からの医療復興」「個別化予防・医療の推進」を掲げている当機構の中で、5万人規模の地域住民コホート担当として、地域住民コホートの管理・運営、質の高いデータの収集から、被災地の医療復興のみならず、わが国の未来型医療の推進への貢献を目指しています。地域住民コホートに関わるスタッフだけでも20人以上いる大所帯ですので、その研究室運営は難しくもありますが、目標に向かって取り組むやりがいも感じています。大学院時代に多くの先生方、先輩方と研究の話をすることが好きだったこともあり、現在でも、疫学的視点からより質の高い研究となるようアドバイザー的な役割も果たしています。最近2年間だけでも、岡山大学、国立がん研究センター、埼玉県立大学、自治医科大学、島根大学、東北大学病院(消化器内科、病理部)、長崎大学、早稲田大学、フローニンゲン大学など幅広く関わらせていただいております。この共同研究は自分の研究の幅を広げる重要な機会だと感じています。

●今後の目標や抱負を教えてください

東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域住民コホート調査の管理・運営、質の高いデータの収集から、被災地の医療復興のみならず、わが国の未来型医療の推進のために貢献したいです。個人の研究活動については、配偶者・家族疫学を中心に研究活動をしていきたいと考えています。現在、大学院時代から培ってきたサイコオンコロジーに関する研究を土台として患者さんの配偶者・家族の心理的苦痛に関する研究を進めています。今後は、同居夫婦・同居家族に焦点を当てた行動介入が個別介入よりも効率的であるかどうかを検証し、その研究結果によって、家族・配偶者を軸に疾病予防が可能になるかどうかを明らかにしたいです。4月より本学医学系研究科協力講座として「健康行動疫学分野」を立ち上げました。今後、研究面でも医学に貢献できるように努力していきます。

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5号館、生協近くの名物のしだれ桜です。

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PROFILE
障害科学専攻
行動医学分野(現心療内科学分野) 卒業生
中谷 直樹
Naoki Nakaya 

1998年麻布大学環境保健学部卒業。東北大学大学院医学系研究科修了。東北大学研究支援員、国立がんセンター研究所支所リサーチ・レジデント、東北大学助教、日本学術振興会海外特別研究員(デンマーク対がん協会 外来研究員)、鎌倉女子大学専任講師、東北大学東北メディカル・メガバンク機構講師、准教授、埼玉県立大学教授を経て、2021年4月から東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授(健康行動疫学分野)。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構