東北大学大学院医学系研究科・医学部

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不慮の出来事で頓挫しかけた留学計画
その思いを諦め切れず強い信念で実現
理想的な環境で学び成長に手応え

インタビュー
障害科学専攻
肢体不自由学分野 在校生
Physical Medicine and Rehabilitation
田 東婷
Dongting Tian
学年:博士前期課程2年
出身地:中国
2021.05.06

田 東婷

「研究が不得意」の判定から一変、大学院での成長に感激

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

学部時代から、より高水準な教育環境で自分を磨きたいと思い、母校とたくさん交流している日本の大学への留学を決意しました。ところが、学部卒業の前に家族が事故に遭い、留学計画が滞って、母国のリハビリテーション病院で作業療法士として勤務しました。そこでは、自分の専攻「ニューロリハビリテーション」に基づいて、回復期の脳卒中や脳神経外科手術後の患者さんのリハビリテーションに努めていました。勤務に伴い臨床経験や手技の習熟度は増えましたが、病院で通用している治療法が患者さん個人の病状とうまく当てはまらない問題に直面 しました。しかし、毎日最大10人の患者さんに治療を行っているため、その問題の解決策を考える時間や必要な勉強をする気力がありませんでした。このままでは神経科学やリハビリテーションの発展に貢献できないと考え、かつ自分の留学計画を諦めたくないと思い、東北大学大学院に進学しました。

●進学してみて、どうでしたか?

異文化・異体制・多言語の環境を有する日本に進学してから、言語能力が上達するとともに、研究・勉強・生活能力が大幅に鍛えられました。母国を離れて、研究を進める能力がだんだん備わってきて、「世界にとって有用な人間」に近づけているのを実感しています。学問においては研究室の先生や先輩たちから優しくご教示・ご助言をいただき、「研究者になる」過程にあることを実感しています。学部時代に「研究が不得意」と判定された私ですが、東北大学大学院に進学した後、その「不得意」は一変しました。博士前期課程に入学して1年で、自ら研究テーマを定めて研究を行い、自筆の英文原著論文1編が業界「準トップ」のジャーナルに掲載されました。進学してからこのような成長を遂げられたことに、感激を覚えます。

「問うに値する疑問」突き詰め、さらに挑戦的な研究を

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

博士前期課程で行う研究のテーマは「手の随意運動模倣が一次運動野の半球間抑制に及ぼす影響:TMS(経頭蓋磁気刺激)研究」です。この研究テーマは脳卒中作業療法の臨床実践で幅広く応用されている「模倣運動療法」の治療経験から近年TMS研究のトピックとしている「大脳半球間相互作用(抑制と促通)」と結び付いて、TMS研究の専門家である出江紳一教授の教示に基づいて絞ってきたテーマです。研究の完成および論文の掲載に当たり、研究中に問題を見つけ、「問うに値する疑問」としてさらなる研究のテーマも明瞭になってきました。研究に伴って生まれた新たな問題を突き詰めるために、博士課程後期に進学することで、現在まで広範に研究されていた「半球間抑制」から、困難があるためあまり研究されていない「半球間促通」に向かう挑戦的研究を進めようと考えています。

静かな環境と大学の支えがある、研究者養成に理想的な土台

●研究室の雰囲気はどうですか?

東北大学に進学する前は、長い間ヒトの神経科学に深い興味を持ってはいても、最前線のリハビリ実践に努めていて、科学研究の能力は「ゼロ」だったと言えます。研究室に入り、研究をやり始めた時、先生の指示があっても1週間に1編の総説論文すら読み切れない状態でした。しかし、日本に来て研究者になったからには困難に絶対負けないと思い、所属研究室の強みであり、かつ神経科学の最前線にある神経系TMS研究に進む志を立てました。そして、出江教授をはじめとして教室の先生方から大いにご指導を受けました。研究室では皆さん多方向の研究に取り組んでおり、医学・工学・障害科学などの研究者が活発に交流し合っています。この明るい環境の中でたくさん勉強し、多分野融合研究の重要性や意義を頭に刻み込みました。博士前期課程に入学してから1年以内に、先行研究検索から原著論文採択まで全て達成できたのは、研究室の先生、スタッフや先輩方の力をお借りした成果です。

●東北大学の良いところは?

「杜(もり)の都」の美称を持つ仙台にある東北大学は、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念の下で、研究の沃土(よくど)になっていると思います。研究にとって極めて重要なポイントの一つは「集中」ですが、仙台は穏やかなまちで、研究にとって最適な環境です。静かな環境で研究に没頭でき、「研究第一」「実学尊重」の理念を持つ東北大学から経済的・設備的・研究環境的支持を受け、研究者は正しい学術価値観や高度な研究遂行能力が育まれ、世界最高水準の研究成果を創出できます。そして日本学術研究の先頭に立っている東北大学は、日本国内のみならず、常に世界・将来に向かって活動している印象です。非常に強い総合実力や知識資源を有し、あらゆる分野の研究が活発に行われているほか、世界中の留学生もたくさん受け入れ、多文化交流や融合も素晴らしく進んでいます。私自身も留学生として、「立派な研究者」が育つ理想的な土台だと感じています。

貪欲に学び続け、リハビリテーションの新たな道を切り開く

●今後の目標や抱負を教えてください

計画としては、博士前期課程を半年間短縮修了後、所属研究室で博士後期課程に進学します。完成した研究の経験を踏まえ、2つのテーマに焦点を当てて研究を行い、TMSでヒト脳内神経ネットワーク機序の解明や活用に挑戦していきます。これらの研究を通して、既存のTMS技術を発展させ、将来高齢者の脳機能改善および中枢神経疾患のリハビリテーションに新たな道を切り開くことを目指します。大局的には、さらなる研究を進めるとともに生まれてくる新たな疑問に対して、博士学位取得後も引き続き世界中の新しい技術や能力を身に付けて、新たな領域を開拓していくことを目指しています。

日本人との交流通し留学を決意 「執念」で念願かなえる

●日本の、東北大を選んだ理由を教えてください

学部の時に所属していた首都医科大学リハビリテーション医学部の学生は全員、中国リハビリテーション研究センターで実習を行います。中国リハビリテーション研究センターは常に日本からの先生や学生たちが訪問してきて、交流できるため、私は日本語を自ら学び、卒業後に日本へ留学する計画を立てました。学部2年生の時に、ニューロリハビリテーションの世界で高名な出江紳一教授のお名前を覚えました。留学の計画が中断された後も、どうしても先生の下で勉強していくと強い執念を持っていました。延び延びになっても留学の計画を推し進めようと決意し、ようやく出江教授の元に 来られました。

●仙台の暮らしはどうですか?

故郷の成都市と似て仙台市もたくさんの緑に囲まれ、自然と接触する機会が十分あり、とても居心地の良いまちです。成都市よりは小さく、かつさまざまな観光地やイベントがあり、生活をもっと便利に楽しむことができます。私にとって仙台の印象は「安静」です。「音が少ない」「市民が優しく温かい」のみならず、気候はとても穏やかで、災害にも強いことに感心しています。東日本大震災により倒壊したビルが一つもなかった仙台に住んで、いつも安心・安静で研究と生活を円滑に進められる暮らしに大変満足しています。

mylife

休日はまず1週間のうちにできていなかった研究や学習に手を付けます。それから気分調整として、イラスト描きなどを楽しみます。外に出て自然に触れたくなる時は、星陵キャンパスや川内キャンパスに行くのが定番です。本学のキャンパスは安心感があり、かつ自然風景も多彩です。1人で「自分のキャンパス」の中をゆっくり歩いて、満足した気持ちを持ち帰っています。

 

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PROFILE
障害科学専攻
肢体不自由学分野 在校生
Physical Medicine and Rehabilitation
田 東婷
Dongting Tian

中国成都市出身。首都医科大学(中国北京)リハビリテーション医学部作業療法学科卒業。作業療法士国家資格を取得後、東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻肢体不自由学分野に進学。現在は博士前期課程在籍(短縮修了見込み)。関心は脳卒中リハビリテーション・ヒト脳内神経ネットワーク・経頭蓋磁気刺激・臨床神経生理学。