東北大学大学院医学系研究科・医学部

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膨大な診療情報に興味を持ち進学
学びを生かし医療データと向き合う仕事に
自分の興味関心をいつか誰かの問題解決に

インタビュー
公衆衛生学専攻
医療倫理学分野 卒業生
首藤 果苗
Kanae Shuto
修了年度:2020年度
修了学位:修士(公衆衛生学)
現在の職場:東北大学病院(医科学専攻 博士課程在籍中)
2021.05.18

首藤 果苗

未熟な自分に教えてくれた透析患者さんへの恩返しの思い

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

5年以上前、仙台医療センターでメディカルクラークとして働いていた時、藤森研司先生の講義を拝聴しました。その頃私は診療報酬上で重症加算などの取り方に悩んでおり、「どうしたら先生方に加算を取る努力をしてもらえるか、取ってはいけない加算について意識してもらえるか」という質問をしたところ、「医師がその気になる魔法の言葉」を教えてくれるというお返事をいただきました。さすが東北大学にはすごい先生がいるんだなと感心し、きっと診療情報も質・量共にものすごいのだろうと考え、東北大学病院で働いてみたいと思いました。ちょうど診療情報管理士の資格を取った頃でもあったので、医療情報のデータ処理などの研究をしたい気持ちもありました。
また、震災前に管理栄養士として透析クリニックで栄養指導の仕事をしたことがあり、かなり未熟者だった私に対して通院している透析患者さん方が逆にいろいろなことを教えてくださいました。そのことを大変ありがたく思っており、何か一つでも透析患者さんのためになる研究をするとずっと心に決めていました。そこで、医療倫理の浅井篤先生に、医療者と患者さんの関係についての研究をしたいと相談して進学を決意しました。

●進学してみて、どうでしたか?

公衆衛生学専攻の同学年は私を含めて9人で、授業はこぢんまりとしていて、最初はたくさん当てられたらまずいなと思っていたのですが、先生方は学生のレベルを考えてくださったようで、あまり難しい質問をされた記憶はありません。
授業の科目については、幸いなことに全て私の興味・関心のあるものばかりで、仕事の都合で受けられなかったものがあって残念に思っています。
統計やEBMの授業を避けて通る人もいましたが、先生方は優しく繰り返し教えてくださいました。こんなことも分からないの?という反応をする先生はいませんので、こういうところがこんなふうに分からないと積極的に教えを請うのがいいと思います。いまを逃すと受講するチャンスがなくなってしまうかもしれませんよね。

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

東北大学病院の脳神経内科外来におりましたので、神経難病の患者さんの専門外来受診状況、受診時の医療者と患者の関係性、専門病院と地域のかかりつけ医との関係などについて、調査会社に依頼し、ウェブ上でのアンケート調査を実施しました。医療者から患者さんへの情報提供の在り方や、両者の関係性をより良くすること、かかりつけ医と専門医の連携などに関する課題の探索を行いたかったのが理由です。

意見や疑問をどんどんぶつけ、自由な発想で考えられる環境

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

先生方は皆温かく、寛容な方々です。浅井先生いわく、研究室には「変な人しかいない」そうですので、「私はちょっと変わったところがあるから浮いちゃったらどうしよう」といった心配は無用です。授業の中でも「こんな質問をしたらばかにされるかも」という心配もいりません。
自分の意見や疑問、思ったことを話し合える場と機会をつくってくださるので、とても良い経験になると思います。研究テーマは先生方も学生も本当にさまざまで、いろいろな研究テーマ、研究方法を知ることができ、私も自由な発想で研究を考えることができました。ただし、それを先生方に理解していただける形にするのは結構難儀なことではありました。
研究室の人口密度はかなり低いので、コロナ禍にあっては、とても良い環境なのではないでしょうか。

●東北大学の良いところは?

真面目に頑張っている方が多い、という印象があります。また、やることをたくさん抱えつつ、ひょうひょうと仕事をこなしているスーパーマンみたいな先生方のそばにいると、私も頑張ろうと思えます。授業を受けたことのある先生や会う機会がなくなった同級生が論文発表などで活躍しているのを見ると、すごいと感心しますし、インスパイアさせてもらえます。
自由に参加できる講習会などが多いのも、とても魅力的です。参加した時には、学生という身分を大いに利用して、申し訳ないくらい低レベルな質問をさせていただいています。

いつかだれかの役に立ち、問題解決につながる医療データを

●現在の仕事について教えて下さい。また、大学院時代の経験はどのように活かされていますか?

医師事務作業補助者として東北大学病院に勤務しています。診療情報管理士の勉強をしていたことでICD-10や腫瘍のコーディングなどの医療データについて、また、以前麻酔科の医局で仕事をしていた関係で麻酔や痛みについては関心を持っていましたが、脳神経内科に配属になった時は、脳神経の「の」の字も難病の「な」の字も正直全く分からない状況でした。別々の授業ではありましたが、医療倫理の世界において重要な遺伝性疾患、難病であるハンチントン病を抱えた家族を描いた「ウェクスラー家の選択」と、田宮元先生から某大学の神経内科の研究室では必読書となっているという一言がきっかけで読むことにした「遺伝子の狩人」(これもハンチントン病の遺伝子について書かれています)を、ほぼ同時に読むこととなりました。そのことにより、神経難病とは何だろう、倫理的にどのような課題、問題があるのだろうか、という問題意識を持って仕事に取り組むことができました。

●今後の目標や抱負を教えてください

具体的な目標としては、現在の配属先である血液透析室や老年病科外来で、自分が納得できるレベルでしっかり仕事をすることです。東北大学病院の中で毎日電子カルテを開いて仕事をしているからには、多種多様な医療データをその後の臨床や研究に使えるように残していく努力をしなくてはならない、と思っており、その一端を担っている医師事務作業補助者として、日々のデータ入力などをきちんとできるようになりたいと考えています。
私の中にはいつも、放送大学大学院での教えである「高等教育は、自分のためにあるのではない」という言葉があります。その言葉の通り努力しているつもりではいますが、いまの私は、自分の知りたいこととみんなのために解決すべき問題が何かをうまくつなぐことができないで悩んでいる状況かもしれません。自分の興味・関心をみんなが理解できる問題点や課題に一般化できるように頑張ります。

mylife

写真は5号館10階の研究室の私の机から見た景色です。朝の出勤時と帰る前にほぼ毎日立ち寄っています。さすが最上階だけあってとても良い眺めです。最初に机をもらった時はあまりにも見晴らしが良くて、「えっ、いいんですか?うわっ!でもゴ◯ゴに狙撃されそう」と言って浅井先生に怪訝な顔をされました。
冗談はさておき、仕事の前に外の景色を眺めることで、気持ちを切り替えて仕事にも集中できます。天気が良い日は遠くの山々まで青空がすっきり映えますし、冬は白くなった山を見て、スキーができそうか考えるのも楽しいです。建物の反対側、先生方のスペースから見る夜のまちの明かりもきれいなので、ぜひ一度立ち寄ってみてください。

写真1

PROFILE
公衆衛生学専攻
医療倫理学分野 卒業生
首藤 果苗
Kanae Shuto

大学で食物学専攻、食品衛生学研究室に在籍、管理栄養士免許取得。学士論文は食品衛生法に関わる豚肉中の抗菌剤の添加回収および検査法探索に関する実験。卒業後は厚生労働省の指定検査機関である(財)東京顕微鏡院に入職し、業務推進部主任として10年間輸入食品のサンプリングや渉外業務を行う。結婚により退職、仙台に転居し、子育て中に放送大学大学院政策経営プログラムで学術修士号取得。透析クリニックでの栄養指導や仙台市地域活動栄養士会の活動に参加し、現在は医師事務作業補助者として東北大学病院に勤務しながら博士課程在籍中。