大学院説明会
特設ウェブサイト
臨床だけでは限界を感じ、臨床に還元できるような研究がしたいと進学を決めました。ロービジョンとは、視覚に障害があり見えにくいことをいい、ロービジョンケアは、視覚に障害があるため生活に何らかの支障を来している人に対する全ての支援の総称をいいます。私はそれを行うロービジョン外来を担当しています。見えにくさでお困りの方に行うロービジョンケア(視覚リハビリテーション)の需要は多いにもかかわらず、提供できる施設が少ない状況です。その結果、そのわずかな施設に患者さんが集中し、ケアをすぐ受けることができないのが臨床現場の現状です。そこで視覚リハビリテーション分野の研究をすることで、見えにくさでお困り方に少しでも還元できることがあるのではないかと考えました。大学院には、日本を代表する視覚リハビリテーション研究を行っている憧れの先生がいて、その先生の下で学びたいという思いがあり、社会人大学院生として入学しました。
進学して本当に良かったです。自分でやりたいと思う研究が実際できることに幸せを感じました。しかしながら、社会人大学院生はとにかく時間がありません。平日は通常通り仕事で臨床診療があるため、研究できるのは平日の夜と土日のみで二重生活が始まりました。1年目は授業を受け単位を取りながら、研究テーマを何にするか模索する日々でした。臨床で浮かんだクリニカルクエスチョンをしっかりとリサーチクエスチョンにして、自分がやりたい研究を指導教員の先生に提案したところ、「一緒にやろう!」と言ってくださった時はうれしく、高揚感でいっぱいでした。2年目は、研究にまい進するのみ。ToDoリストを作り毎日こなしていくので精いっぱいの日々でした。常に時間に追われていて、大変だと思う時もありましたが、研究室の先生や仲間がいてくれたことに感謝しています。何より自分自身で選んだ研究テーマをどうにか形にして患者さんに還元したいという思いが上回り、それが活力となり研究を楽しむことができました。
研究テーマは、「視覚障害を持つ子どもと若者の視機能質問票FVQ_CYP (the Functional Vision Questionnaire for Children and Young People)の日本語版作成とその検証に関する研究」です。小児や若者は、自分の見え方や困っていることを言語化するのが難しく、必要な情報をうまく聞き取れないことが臨床現場で非常に困っている問題です。この問題を解決する、患者さん自身が答えられるツールが望まれます。視覚障害を持つ小児や若者を対象とした患者報告アウトカム(PRO)ツールが海外では多数見られますが、日本にはいまだ存在しません。そこで英国で開発されたFVQ_CYPを選定し、日本語版を作成した上で、信頼性と妥当性を検証し検討すれば、臨床に役立つツールになると考えました。これを完成させ、日本の臨床現場で活用できるよう研究しています。
東北大学の理念にもある「門戸開放」の言葉がぴったりの研究室です。留学生も多く、研究室内では複数の言語が飛び交うのが日常でした。苦手な英語をできるだけ使うよう意識してコミュニケーションを取っていた日々は刺激的でした。それを見守り、支えてくれた先輩、友人に感謝しています。セミナーでは、さまざまな職種や分野で活躍して人材が集まっていることで、専門性の高いディスカッションが活発になされていました。専門は異なっていても、広い視野で研究を捉え、視点を変えて自分の研究に生かせたことは良い経験になりました。
自分のやりたい研究ができる環境が整っていることだと思います。研究施設はもちろんですが、東北大学だからこそアクセスできる論文や東北大学附属図書館医学分館を自由に活用できるのはありがたいです。また、多職種の専門性の高い研究者と交流できることは東北大学の強みだと思います。自分の分野だけでは思い付かないような発想を得られ、そこで化学反応が生まれることもあります。
東北大学病院の眼科外来で視能訓練士として働いています。眼科一般検査(視力・視野検査など)を行いながら、週1回のロービジョン外来を担当しています。日本を代表する尺度開発者・視覚リハビリテーションの専門家である鈴鴨よしみ先生からは、研究のいろは・尺度開発や解析について丁寧に教えていただきました。その経験を生かして、視能訓練士内で研究の知識や方法を伝え、視覚リハビリテーション研究を続けていきたいと思っています。
今後の目標は、研究テーマの「視覚障害を持つ子供と若者の視機能質問票FVQ_CYP」を日本で使用できる尺度として完成させ、臨床の現場で活用してもらうことです。開発した英国と同様の解析を行うための症例数に満たなかったため、現在共同研究施設を追加し、症例数を増やすよう研究を進めています。その後、解析し、英国や他国の結果と比較を行い、論文化したいと思っています。日本語版として一般的に使用できるようになったら、視覚障害を持つ小児や若者に使用してもらうことで自身の見え方を理解し、評価結果を共有することで、対象者の困難に応じたサポート体制を整える手助けになればと考えています。今行っている研究を一つずつ着実に行い、臨床に反映して、少しでも患者さんのためになるよう尽力できればと思います。
休日は臨床中にはできない研究を進める時間に充て、合間には音楽を聴いてリフレッシュしています。コロナ禍で制限されていたライブやスイーツ・カフェ巡りを再開し、オン・オフのメリハリをつけています。時間に追われることから少しだけ離れて、非日常の空間で過ごすことは自分にとって大切な時間です。仙台は住みやすく、すてきな街です。特に定禅寺通りは、秋はジャズフェスティバル、冬は光のページェントと四季によって違う顔を見せてくれます。写真は、中でも私が一番好きな新緑の季節の定禅寺通りです。コーヒー片手に読書するも良し、お散歩するのも良し。新緑のカーテンを楽しんでみてください。
2005年、視能訓練士取得。同年、東北大学病院眼科に入職。普段は眼科一般検査を行い、ロービジョン外来を担当している。2012年より宮城県立視覚支援学校の外部専門家として、視機能に関する説明、助言を行っている。2018年、認定視能訓練士取得。2024年3月、東北大学医学系研究科障害科学専攻 修士課程修了。関心は視覚リハビリテーション、QOL-PRO評価。日々患者さんと一緒に考えながら、ロービジョンケアを行っている。