体の大きさ・細胞の大きさ | |
中山 啓子 | ■要旨 マウスはヒトに最も近いモデル動物として広く用いられ、発生・分化の研究に多くの情報を提供してきた。特にES細胞を用いた変異マウスの作製は既に10年以上もの歴史を持ち、哺乳類発生における分子メカニズムの研究において必須の研究技術となった。私たちは細胞増殖機構に興味を持ち、変異マウスを用いて研究を続けてきたが、細胞周期に興味を持つきっかけとなった分子p27のノックアウトマウスとその後の発展について話をしたい。 p27は、CDKインヒビターとして細胞周期の進行を負に制御し、細胞増殖を抑制する分子である。p27ノックアウトマウスは、体が大きく、特に、胸腺・副腎・下垂体・精巣では過形成を認めた。p27は終末分化した細胞に強く発現しているので、各臓器が正常な大きさになるまで増殖するとp27の発現が誘導され、細胞増殖が停止されることを示唆している。 p27のタンパク量はユビキチン依存性タンパク質分解によって調節されている。われわれはF-boxタンパク質Skp2がp27にユビキチンを付加する酵素(ユビキチンリガーゼ)の主要分子であることを見出し、そのノックアウトマウスを作製した。すると予想通りp27の分解が障害され、その結果としてp27の過剰な蓄積が観察された。これはSkp2が生体内でp27の存在量の調節に関与していることを遺伝学的に証明したこととなる。このマウスは矮小で、核腫大・多倍数体化、中心体の過剰複製を伴った細胞の腫大が認められた。そこでSkp2/p27ダブルノックアウトマウスを作製すると、体の大きさは正常に戻り、Skp2ノックアウトマウスでみられた細胞学的な異常も消失した。すなわちSkp2ノックアウトマウスで見られる異常はp27の過剰蓄積が原因であると結論されたのである。Skp2ノックアウト細胞で認められた核腫大・多倍数体化、中心体の過剰複製を伴った細胞の腫大が何故、p27の過剰蓄積によって生じたのかについても述べたいと思う。 ■参考文献(番号をクリックすると、各論文ページへリンクします)
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