東北大学大学院医学系研究科・医学部

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細胞の機能不全から個体の死にまで至る
機能制御の破綻を防ぐため
分子機構を明らかにし新たな創薬の標的に

インタビュー
医科学専攻
病態液性制御学分野 准教授
佐藤 岳哉
Takeya Sato
2021.05.06

佐藤 岳哉

ミトコンドリア機能制御による疾患治療を目指して

●研究の概要を教えてください

私たちの分野では、細胞の機能を制御する細胞内小器官に着目して、細胞内小器官の機能を制御する分子機構を明らかにすることに取り組んでいます。この機能制御の破綻が細胞の機能不全、器官系の不全、個体の死につながります。そのため細胞内小器官機能制御の分子機構を明らかにして、新たな創薬の標的にするべく研究を行っています。

私たちの身体を構成している細胞には、ミトコンドリアなどさまざまな細胞内小器官が存在します。ミトコンドリアは外膜と内膜から成る細胞内小器官です。TCAサイクルで作られたNADHやFADを使い、ミトコンドリア内膜を介したH+イオン濃度勾配を作ります。この濃度勾配を利用して、ミトコンドリア内膜に存在するATP合成酵素がADPと無機リン酸からATPを合成します。これがミトコンドリアの重要な機能ですが、これ以外にもミトコンドリアはヘム合成、コレステロール合成、Caイオン調節など生体にとって重要な役割を持つ代謝系のハブです。ATP合成反応の副産物として活性酸素(ROS)を産生するためにミトコンドリアは常に傷ついています。その障害からミトコンドリアを守るための抗酸化系と共に、ミトコンドリアはその形態をネットワーク状態(下 左図)から分裂状態(下 右図)に変化(Transition)させ、機能不全となったミトコンドリアをネットワークから切り離し、またネットワーク状態に戻り、ミトコンドリア機能を維持するという動的制御機構を持っています。私たちの研究においてある種の薬物がミトコンドリア動的制御機構に影響を与えるために、ミトコンドリア機能に影響を与えることを見いだしています。さらに、東北大学病院腎高血圧内分泌科の阿部高明教授が発見した新規化合物Mitoconic acid-5(MA-5)がミトコンドリア病患者由来の線維芽細胞においてミトコンドリアに特異的に結合し、ミトコンドリア機能を回復させるということを共同研究で見いだしています。これらの結果からMA-5はミトコンドリア病やミトコンドリア機能不全に起因する種々の疾患に対する有効な治療薬であることが期待されており、その分子機構をさらに明らかにすることも必要とされています。

自分主体で研究を進めるために幅広い知識と科学への興味を

●研究室はどのような雰囲気ですか?

研究室の中では、各自が分子生物学、生化学、細胞生物学などの技術を駆使して研究に取り組んでいます。研究の面では、教員も大学院生も同じ立場で接しています。大学院生の出身学部は医学部、歯学部、薬学部、農学部、食品栄養学部など多彩です。また中国、イランからの留学生もこれまでに数多く受け入れてきました。研究は自分が主体となって進める必要がありますが、それがうまくいくようにマネージメントを覚えることができる環境だと思います。私たち教員は、それをサポートして研究者の卵を育てる役割です。

●学生にどのようなことを期待しているかなども含め、進学希望者へのメッセージをお願いします

上でも述べましたが、研究は自分が主体となって進めることが大事です。そのためには、研究テーマが決まったときに、それに関連する情報を集め、統合し、指導教員や研究室の他のメンバーに研究テーマの意義をきちんと説明できるように、知識や科学に対する興味を幅広く持ってもらいたいと思います。関係がないと思っていたことが、思いがけず自分の研究テーマと関連していたということもあり得ますので、常に情報に対して、また周りの人に対して敏感であってほしいと思います。研究仲間をつくっていくことが、自分の研究テーマを発展させるために重要となることもあります。大学院での時間は限られていますが、研究に伴って学ぶことは、将来的にその人が取り組む仕事をするためのコアになると思いますので、体系的に学び、基礎固めをし、知識の幅を広げてもらいたいと思います。

社会人も職場の理解と本人の努力で研究の時間を確保

●修了後はどのような進路がありますか?また、修了生はどのように活躍していますか?

修士課程を修了した学生は、一般企業に就職するか、博士課程へ進学しています。他大学の医学部医学科に学士入学した学生もいます。博士課程を修了した学生は、海外への留学、大学等の研究教育機関に就職して活躍しています。

●病院や企業に勤務しながらの修学は可能でしょうか?

社会人で入学することは可能です。研究を進める上で、勤務先と調整して研究室に来る時間を確保して研究を進めています。そのためには職場の理解も大切ですが、それを可能にする本人の努力によるところも大きいと思います。

優れた研究設備があり一流の研究者が在籍する恵まれた環境

●東北大学の良いところは?

研究に関する環境がとても優れています。私はこれまでにいくつかの大学で研究をしてきました。留学先のUniversity Health Networkは非常に優れた研究環境を持っていましたが、最近の東北大学はそれに匹敵するくらいの研究設備を持っています。また、一流の研究者がたくさん在籍していることです。自分の研究を進める上で、他の研究室の研究者との共同研究により研究を発展させることができ、それが同じ大学の中でできるというのは恵まれていると思います。

●大切にしている言葉を教えてください

「継続は力なり」です。

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PROFILE
医科学専攻
病態液性制御学分野 准教授
佐藤 岳哉
Takeya Sato

1996年3月、静岡県立大学大学院薬学研究科博士課程修了。博士(薬学)。1999年4月から秋田大学医学部助手。2003年9月からUniversity Health Network博士研究員および訪問研究員として、ミトコンドリア機能不全を介する新規自殺遺伝子治療法の開発に従事。2005年10月より東北大学大学院医学系研究科助教、2014年より准教授。細胞内小器官のミトコンドリア機能不全を起こす薬物の作用機序解明の研究に取り組む。Gタンパク質共役型受容体の時空間的な制御に関係する分子群の同定と機能解明研究にも携わっている。
●MAIL
tksato*med.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)