東北大学大学院医学系研究科・医学部

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オンライン中心で働きながら受講
周囲の気遣いで心の距離も縮まり修士修了
今後も両立しながら学位取得へ

インタビュー
公衆衛生学専攻
個別化予防・疫学分野 卒業生
相場 繁
Shigeru Aiba
卒業年度:2021年度
卒業学位:修士(公衆衛生学)
現在の職場・会社名:医療創生大学看護学部看護学科
現在の役職:助手
2022.05.30

相場 繁

支援活動でやり残したことへの思いを覚悟に変えて

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

積極的な理由と消極的な理由があります。積極的な理由は、集団に対する介入効果を検証できるようになるために、疫学をとことん学びたいと考えたことです。前職で携わっていた被災地域住民への支援では、個人レベルでは予防的な関わりができ、生活を安定させて健康を保つことができたように感じていました。しかし、主に活動していた福島県いわき市という地域に対して、集団レベルで効果的な事業を実践できていたかどうか、検証しないまま業務から離れてしまいました。当時は学問的な素地が足りないということを理由にしていましたが、研究者としての覚悟ができていなかったと振り返っています。
消極的な理由としては、現職場で安定的に働くためには学位取得が必須だったということです(苦笑)。こちらは修士の学位を得た段階で最低限の条件はクリアすることができました。

●進学してみて、どうでしたか?

現職場での仕事と大学院生を両立することは大変だろうと想像していましたが、具体的なコストをきちんと計算していませんでした。必要単位の半分はオンデマンド型のISTUで取得できそうであり、残り半分は対面授業で取得する必要があります。そのため、週1回は通学して、その時に多くの講義を受講しようと考えていました。現職場では学位取得を応援してくれていましたが、看護実習の期間は休むことは難しく、標準的な年限では厳しいと考え長期履修制度を活用しました。
実際に進学すると、新型コロナウイルス感染症の影響によりオンライン講義主体となったことから、ほとんど通学せずに必要な単位を取得できました。改めて計算すると、本学まで1往復にかかる費用は1万円以上、時間は5時間以上です。結果よりもプロセスを大事にしたい性格ですので、もしも最初から正確に計算していたら、違った選択をしていたかもしれません。

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

修士課程で取り組んだテーマは、被災後住居形態と肝細胞線維化指標の関連についての横断研究です。前職での経験から、被災地域住民の健康状態に強い関心があります。被災後に健康状態が悪化する要因を明らかにして、その要因に働きかける方法を研究することで、多くの人々の健康に貢献できると考えています。
健康状態悪化の要因として住居形態を取り上げました。個人レベルでの支援活動の経験から、同じ被災者の枠組みの中でも、応急仮設住宅で生活する人と民間の賃貸住宅(借り上げ住宅)で生活する人では生活様式が異なっていて、健康状態も特徴があるように感じていたためです。また、支援する立場からは、住居形態は比較的入手しやすい情報であるため、ハイリスク者を絞り込むことができれば支援しやすいと判断したためです。
肝細胞線維化については、被災後住居形態と肝機能指標悪化についての先行研究はありましたが、線維化についての研究がなかったため、新規性のある重要なテーマと考えました。

オンライン中心でも心を解きほぐしてくれた先生や先輩たち

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

正直なところ、研究室の雰囲気を語れるほど研究室に出入りできていません。研究室で毎週開催している勉強会は、修士課程在籍中の2年間は全てオンライン参加でした。特に1年目は、現職場の仕事の調整がうまくいかず、月に1回参加できるかどうかという状況でした。指導教授の寳澤篤先生と対面で直接お会いした回数も、2年間で10回前後だったと思います。
2年目の6月以降、データ解析のために通学する機会が増えていくのですが、それまでにあまり顔を出していないことから、自分自身がかなり卑屈になっていました。そんな負のオーラを感じ取ってくださったのか、寳澤先生、健康行動疫学分野の中谷直樹先生をはじめとする先生方、先輩方、皆さんが本当に細かく声をかけてくださり、心を解きほぐしてくださいました。勤務先では「先生」と呼ばれていたため、「学生」であることに無意識の抵抗があり、素直になり切れていなかったのかもしれません。今はしっかりと「学生」らしく行動するように意識しています。

●東北大学の良いところは?

オンライン授業、特にオンデマンド型のISTUが充実しているところです。私と同じように働きながら大学院に通っている同僚は、そもそもオンライン授業に対応していなかったり、リアルタイム型しか対応していなかったりするために受講することが困難であるようです。平日の勤務時間後、または土日祝日を学習に充てることができる方であれば、オンデマンド型が充実していることだけでも、大学院を選択する際の大きな要因になると思います。
仮に私がオンデマンド型の授業を選択できなかったとすると、研究以外に必要となる単位数取得のため、職場で上長に許可を得て定期的に休みを取る必要があります。そのことを同僚に事情を話して理解してもらったり、事情は話さずに白い目で見られたりしながら、修了までに少なくとも3年間はかかっていたと思います。
先進的な医療についてのさまざまなセミナーも開催されており、自ら学ぼうとする意欲があれば、たくさんの機会があることも大きな魅力です。

「学生」としての経験を「先生」として指導に生かす

●現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

看護学生に対する学内の講義や演習、グループワークでのサポート、学外での看護学実習の指導を担当しています。2022年度は、主に公衆衛生看護学実習と在宅看護学実習に携わっています。
前述の通り、修士課程在籍中は「学生」であることに無意識の抵抗があり、素直でなく卑屈になっていました。講義や勉強会で、他の学生が積極的に自分の意見や考えを発表するのに触発されて、自分でもなるべく発言をしたつもりですが、うまく話せていないのではないか、的外れな発言だったのではないかと負の感情にとらわれていました。しかし寳澤先生、講義を担当してくださった先生方は、どんな質問もしっかりと受け止めて、新たな知識や考える視点を提示してくださいました。
このことから、発言するという行動によって学びを深める機会を得られるということを、実感を持って学生に伝えられるようになりました。これからも学生には、自分の意見・考えを表現することの大切さと、分からないことは分からないと先生に伝えることの大切さを教えていこうと思います。また、学生の質問をしっかりと受け止めて、成長を促すような回答をしていきたいです。

時間管理術身に付け、働きながら学位取得しロールモデルに

●今後の目標や抱負を教えてください

博士課程に進学したため、標準年限で学位を取得することが当面の目標です。この目標を達成するための重要な課題は時間管理だと考えています。そのため、時間管理術を身に付けることが今後の抱負です。
現職場での業務も4年目となり、力の入れどころと抜きどころが分かってきてはいますが、周りの人の役に立ちたいという八方美人的な考えもあり、「先生」の時間と「学生」の時間のバランスを取ることを自分自身で難しくしている状況です。時間管理ができている場合はこれらのストレスを成長に変えることができるのですが、できていないと給与の分以上の仕事をしないと職場にいる意味がない、学費以上に学びを得ないと大学院生でいる意味がないと自分をどんどん追い詰めてしまっていました。
博士課程では、修士課程以上に「学生」の時間が必要になると思います。時間管理術を身に付けて両立し、しっかりと学位取得することで、ロールモデルになることができればうれしいです。

mylife

ほとんどの休日は、仕事と学業の両立を実現するために勤務先で過ごしています。学部生時代と卒業後数年は、ほそぼそとですが音楽活動をしていました。今も自宅に機材はありますが全然触れていません。これからは、「休日は自宅でレコードをかけながら、研究のことを考えて過ごしています」と言い切れるようになりたいと思います。
年に10回ほど、写真のように災害公営住宅の集会所やスーパー店舗などでの健康チェック活動といったボランティア活動を行っています。もしかすると社会との接点はこれだけかもしれません(汗)

写真1

PROFILE
公衆衛生学専攻
個別化予防・疫学分野 卒業生
相場 繁
Shigeru Aiba

2012年2月から2019年3月まで、東日本大震災被災地域住民支援プロジェクト「きぼうときずな」において、保健師としてプロジェクトの企画・運営に携わる。2019年4月から現在まで、福島県いわき市の医療創生大学看護学部看護学科で勤務。病院や施設における看護実習での実習指導、学内での演習やグループワークでの講義補助が主な業務。