東北大学大学院医学系研究科・医学部

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終末期医療の医師・患者関係学ぶため
高齢化問題で先行する日本に留学
いずれは母国で問題解決に貢献できる仕事に

インタビュー
公衆衛生学専攻
医療倫理学分野 在校生
趙 哲毓
Zhao Zheyu
学年:修士課程2年
出身地:中国・上海
2022.05.30

趙 哲毓

同じ社会問題を抱え死生観も共通する日本の大学院へ

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

学部2年の夏休み、米国ミシガン州立大学国際健康学部を訪問し、米国における医療制度と課題に関する講座に参加し、郡立健康局を見学しました。そして、1年から4年末まで上海でいくつかの大学付属病院で合計8カ月ぐらい医療管理系の実習をした経歴があります。
学部での学習は充実しており、さまざまな知識を身に付けることができましたが、内容の深さが足りないと感じました。一つの分野を選んでもっと深く勉強できればと思いましたが、学部卒業後すぐに就職すると、勉強を続ける気力や時間がなくなるかもしれません。それで学業を諦めたら、残念なことだと思いました。
上海でも少子高齢問題が深刻になっています。近年、緩和ケアと終末期ケアに関する事業が上海を代表とする都市で始まりました。それに関連する医師・患者関係の問題に興味を持って、医療倫理学分野に進学したいと思いました。元々異文化に興味があり、異なる文化と社会背景で影響された世界を探索したかったので、留学を決めました。日本は何十年も高齢社会の問題に対応しているという印象があり、死生観について同じ東洋文化圏に属する日本と中国は共通する部分があると思い、日本の大学院に留学することにしました。

●進学してみて、どうでしたか?

共通授業で日本の医療体制について勉強し、中国よりも充実した高齢者医療制度や介護保険制度、地域連携に関する医療改革などの内容を学びました。医療・公衆衛生倫理指導者養成コースで生命倫理学の歴史と発展の経緯、臨床倫理学の概念、ケーススタディーなどを勉強しました。研究倫理および臨床倫理演習授業の一環として医学系研究科と大学病院の倫理委員会にも参加して、倫理審査の実際を見て研究倫理と臨床倫理の注意点を学びました。自分の研究を始める前にも倫理委員会の審査を受け、研究倫理審査の流れについて実体験を通して深く勉強しました。
新型コロナの影響で半分ぐらいの授業はオンラインで受講し、学生数は10人未満ですが、異なる背景の人と交流でき、健康管理や医療情報や在宅医療について大変勉強になりました。研究室での授業は対面で行い、文献や視聴覚資料を見て、個人の感想を交換しました。専門知識だけではなく、日本語会話能力も向上できました。

パンデミックが医療系学生にもたらした影響を質的に探索

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

修士研究テーマは「日本の医療系学生を対象にした感染予防行動と人生の展望に対するCOVID-19パンデミックの影響に関する質的記述的研究」です。COVID-19パンデミックは長期にわたって世界に影響をもたらしています。医療現場が多忙になり、医療者が身体的負担と心理的ストレスを感じています。また医療系学生にとっては、将来、医療関係者としていかに働くかを深く考えさせられる機会となります。
今まで医療系学生を対象にして行われた、彼らの知識、態度、メンタルヘルス、そして将来展望に対するCOVID-19パンデミックの影響に関する研究の多くが量的研究でした。それらの研究では、COVID-19感染症による生活制限とオンライン学習が、学生の不安や抑うつ、およびストレスを増大させ、学業や将来のキャリア選択に対する不安および懸念を悪化させていたと報告されました。一方、同様のテーマを研究目的とした医療系学生を対象にした質的研究は、非常に少ないです。
私は、探索的な個人インタビュー調査を通して、感染予防のための行動と同行動を取る理由や動機、COVID-19パンデミックの状況で受けている教育と日常生活上の関するニーズと将来の職業選択に関する影響の大きさ、およびCOVID-19パンデミックがもたらした健康、疾病、そして死に対する認識の変化の有無とインパクトの大きさ、という3つのトピックスに関する医療系学生の見解と思い、不安や心配、葛藤や悩みを考察します。これら3つのトピックスは、COVID-19パンデミックの個人に対する全体的なインパクトを見る上では全て重要であり、同パンデミックの個人に対する外的影響(行動)と内的影響(考え方、感情、態度)を明らかにできると思います。

親切な支援と細やかな配慮に感謝、今後は自分が支える側に

●研究室の雰囲気はどうですか?

とてもいいと思います。医療倫理学分野は、今は教員3人、秘書1人と学生7人の構成です。研究室内に学生ルームがあり、院生には自分の席が設置されています。研究室で医療倫理学に関連の本と映像資料が豊富にあって、何かの本を読みたいとき、何かの映像を見たいとき、先生に伝えたら借りられます。私はいつも学生ルームで自習しています。
私は研究室初の外国人留学生ですが、この1年半に疎外感を抱くことはありませんでした。先生も学生もとても親切で、毎週のミーティングと授業を通じてコミュニケーションを取ることができます。学習に関する何かの問題があればもちろん、生活上で何かあった場合にも遠慮なく先生に相談できます。今まで研究室の人々からいろいろと手伝っていただき、とてもありがたかったです。2022年度から中国人の新入生のチューターを担当するので、今度は私が彼らの留学生活をサポートできるように頑張ります。

●東北大学の良いところは?

幅広い学部と研究分野を持つ総合大学なので、他の専門の公開講義に興味があれば参加でき、他の専門の学生との交流も少なくありません。教育資源が充実し、図書館と研究室の蔵書が素晴らしいです。留学生としては、留学生日本語クラスがあって良かったです。私は最初の半年に総合、会話と作文の3つの日本語授業に参加し、日本語環境に適応しながら新しい友達もつくりました。
医学国際交流室の支援も手厚いです。入学したばかりの頃、いつも交流室の先生たちと連絡し、来日と入学の手続きについての問題を全部対応していただきました。国際交流室の留学生への細やかな配慮を常に感じています。三条IIの学生寮に1年ぐらい住んでいましたが、部屋や設備も良かったです。

日本での学び持ち帰り高齢社会に直面する母国で貢献する

●今後の目標や抱負を教えてください

一番重要なのは修士研究に集中し、日本語で論文をきちんと書いて順調に卒業することです。卒業進路について、引き続き終末期あるいはターミナルケアに関する課題を研究したいので、博士課程に進学するつもりです。
今の日本における少子高齢化問題は、10年から20年後に中国が直面する状況と一緒だと思います。上海はすでに超高齢社会になりましたが、高齢者に向ける医療体制は不十分だと思われます。また、人生の最終段階の在り方や課題が中国でも重視されるようになっています。将来どんな仕事に就くかはまだ決めていませんが、自分の研究と将来の仕事が高齢社会の対応策と人生の最終段階の仕組みに多少なりとも貢献できれば幸いです。

仙台と東北大学を知るきっかけになった新旧2人の偉人

●日本の、東北大を選んだ理由を教えてください

まずは修士を目指したので、自分が興味ある研究内容と指導教員との研究方向を合わせなければなりません。医療倫理学分野のウェブサイトを読んで、浅井篤先生の終末期についての研究と医師・患者関係についての研究に興味を持ちました。
ほかにも2人の著名な人物の影響がありました。一人は中国の小説家、思想家の魯迅先生です。彼が日本に留学し、医学を専攻する途中で文学への転向を決意し帰国したことは広く知られています。その時、東北大学の前身である「仙台医学専門学校」に入学したので、東北大入学は中国人にとって特別な誇りです。もう一人はフィギュアスケートの羽生結弦選手です。巧みな技術と強い意志を持っている選手として自身と共に仙台を世界に知らしめました。この2人のおかげで仙台という都市を知りました。
また、上海で見つけられない自然の環境と静かでゆったりとした生活を体験したいという思いもあり、東北の美しい自然風景に引かれました。

●仙台の暮らしはどうですか?

星陵キャンパスへの通学は歩いて10〜20分ほどで、便利だと思います。いくつかのスーパーにも徒歩で行けます。仙台駅行きのバスがいっぱいあって、駅周辺への買い物や食事にも便利です。中国料理や上海料理の店もあって、たまに友達と一緒に食事に行きます。
気候は上海よりも住みやすいと感じます。上海も海の隣にありますが、上海に比べて仙台の夏はそれほど暑くなく、冬は寒いですが雪が降ってきれいです。

mylife

キャンパスの中で大きい桜の木があって、隣の街にも桜の木が並んでいて、満開の時はとてもきれいです。

写真1

PROFILE
公衆衛生学専攻
医療倫理学分野 在校生
趙 哲毓
Zhao Zheyu

上海の大学の公共健康学部で4年制の公衆衛生管理学専攻を卒業。学部在籍時、医療管理学、医療経済学、疫学、健康教育学、医療倫理学等の科目を履修し、中国における医療制度の内容を学ぶ。学部卒業後の2020年11月に来仙し、東北大学医学部研究生として医療倫理学分野に所属。半年後に公衆衛生学修士課程に進学する。外向的な性格で、甘いもの、茶、コーヒー、犬が好き。