東北大学大学院医学系研究科・医学部

大学院説明会
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幼い頃から興味のあった分野で
失敗を繰り返しながらも実験に明け暮れた日々
培った忍耐力で今も目の前のことに没頭

インタビュー
医用画像工学分野 卒業生
菊田 里美
Satomi Kikuta
卒業年度:2016年
卒業学位:博士(保健学)
現在の職場・会社名:国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 モデル動物開発研究部
現在の役職:リサーチフェロー
2022.05.30

菊田 里美

長時間の実験の末に失敗も、くじけず諦めずとことん挑戦

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

学部3年生の時、オープンキャンパスに実行員として参加した際、その打ち上げで保健学科の小山内実先生(現大阪大学)から現在行っている研究についての話を聞いたことがきっかけでした。それまで私は、自分の将来について悩んではいたものの、大学院に進学するという選択肢は一切ありませんでした。その一番の理由は当時大学院というものの存在がよく分かっていなかったことだと思います。あの時、小山内先生とお話しできたことで「大学院に進学する」という選択肢が生まれました。 その後、先生から大学院に進学するとはどういうことなのか、研究室の雰囲気や進学後の進路などを直接伺い、進学後の生活をイメージできました。何より先生の研究のテーマがとても興味深く 、面白い!私もやってみたい!と思い、大学院への進学を決めました。

●進学してみて、どうでしたか?

進学した研究室では、脳における情報処理機構を解明することを目的とし、蛍光色素を用いた光学イメージングを主な手法として、神経回路の振る舞い、脳機能の解析を目指していました。私が主に行っていた急性脳スライス標本を用いた実験は、一つのデータを得るために12時間以上の時間が必要でした。それにもかかわらず、成果に結び付かないことが多かったです。何度も失敗を繰り返しましたが、諦めずにあらゆる可能性を考え、とことん挑戦しました。おかげで忍耐力が鍛えられたと思います。

また、ありがたいことに、学会発表や合宿研究会への参加の機会をたくさん頂きました。さまざまな分野の研究者、先輩方と意見交換をすることで、広範な視野と人脈を形成できたと思います。熱心に指導してくださった先生方にはとても感謝しています。

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えて下さい

私は幼い頃から、「夢は何のために見ているのか」「何かを考えるとき、なぜ頭の中では言語を使わずに思考が展開するのか」などの疑問と興味を抱いており、脳、神経科学の研究に魅力を感じ、この分野の大学院に進学しました。

大学院生の時の研究テーマは「パーキンソン病における神経活動と病態との関係解明」でした。パーキンソン病は、振戦、無動、筋固縮、姿勢保持障害などの症状を伴う難治性の神経疾患です。これは、大脳基底核にある黒質緻密部のドーパミンニューロンの変性・脱落によって、大脳基底核線条体のドーパミン含有量の低下に伴い基底核全体の活動性が異常を来すことにより発症するとされていますが、神経活動の変化と病態との関係は明らかになっていません。そこで、パーキンソン病では基底核のどの部位の神経活動がどのように変化するのか、また、それらが病態とどのような関係にあるのかについて明らかにすることを目的とし、パーキンソン病モデルマウスに対して、細胞レベルの蛍光イメージングや、脳全体の活動を記録するMRIを用いて研究をしていました。

プレスリリース:パーキンソン病の重篤度をMRIで可視化する ‐パーキンソン病の早期診断に向けて‐

分野を超え多様な人々が複眼的に全方向から議論し合う環境

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

工学系、理学系、医学系など、バックグラウンドが違う人々が集まっており、複眼的なディスカッションの絶えない研究室でした。さらに、教員、先輩、後輩の仲がとてもいいラボだったため、質問をすることに抵抗がなく、本当にささいなことでも先輩や先生方に聞くことができました。研究室での交流会や行事も大切にしていたこともあり、毎日楽しく過ごすことができました。

●東北大学の良いところは?

教員と学生、学生同士の距離が近いことだと思います。研究科内で開催されるセミナーや、大学院生が主催の「リトリート研究発表会」などを通して先生方、先輩方と活発な意見交換を行うことができます。また、研究分野を超えた異分野融合研究が盛んな点も東北大学の魅力の一つだと思います。特に私は東北大学学際高等研究教育院生として学内の他の研究科の学生と、専門分野外であるお互いの研究について、縦横斜め、あらゆる方向から問題を議論する機会を得ることができました。東北大学ではこのような環境の中で、世界中の誰も知らない新しい事実を、納得するまで追求する経験ができます。

大学院時代に培った忍耐力で神経メカニズムの解明に挑む

●現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

国立精神・神経医療研究センター 神経研究所で研究員をしています。現在の研究テーマは「体性感覚抑制と運動」です。私たちの身体運動の大部分は意識には上らない数多くの神経回路の並行した働きによって実現しています。運動によって感じている体の感覚は、必ずしも外界から与えられた刺激をそのまま感じているのではなく、「知覚」は注意が向く方向に応じて無意識に変化しています。例えば、われわれの身の回りの生活には多くの点字が存在していますが、普段その感覚を意識しているでしょうか?目が見えるわれわれは注意を向けない限り、指先から感じる点字の触覚を無意識に抑制しています。これが体性感覚抑制です。このように、体性感覚が行動目的に応じて異なった情報処理を受ける神経メカニズムの解明を目指し、主にサルを用いて研究をしています。1頭のサルに対して年単位でタスクトレーニングから実験データの取得を行うので、やはり大学院時代に培った忍耐力が生きていると思います。

仕事も私生活も、目の前にあることにひたすら取り組む

●今後の目標や抱負を教えてください

仕事に関しても私生活においても、目の前にあることにひたすら取り組むのみです。直近の目標は現在の研究成果を論文としてまとめることです。

 

mylife

仙台には高校生の頃から13年間住みました。散歩が好きな私は、仙台の緑が多いところ、道幅が広いところが大好きです。中でもお気に入りの場所は、定禅寺通りです。冬の光のページェントはもちろんですが、その他の季節もケヤキ並木に癒やされます。

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PROFILE
医用画像工学分野 卒業生
菊田 里美
Satomi Kikuta

東北大学医学部保健学科放射線技術科学専攻卒業後、東北大学大学院医学系研究科で博士号を取得。京都大学霊長類研究所 学振特別研究員(PD)、生理学研究所訪問研究員を経て、2021年4月から国立精神・神経医療研究センター神経研究所 モデル動物開発研究部でリサーチフェローとして「体性感覚抑制と運動」の研究に従事。マカクザルを用いた電気生理学実験を行っている。