東北大学大学院医学系研究科・医学部

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臨床での実体験と英国語学留学での驚きから
勤務体制や人員配置に興味を持ち進学
10年間のビジョンを立て社会還元へまい進

インタビュー
保健学専攻
看護管理学分野 卒業生
原 ゆかり
Yukari Hara
修了年度:2021年度
修了学位:博士
現在の職場・会社名:東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生看護学分野
現在の役職:助教
2023.06.22

原 ゆかり

学ぶにつれ疑問が解消され、知見が解明され研究が楽しく

●大学院に進学しようと思った理由を教えてください

東北大学医学部保健学科看護学専攻に在籍していた時に、卒業研究を行いながら、いつか大学院に進学し研究をしてみたいとぼんやり考えていました。また、看護師として臨床経験を積む中で、看護師の離職率の高さを体感し、看護師が働くシフトワークなどの勤務体制や人員配置について研究したいと思いました。具体的には、初めて勤務した病棟が呼吸器外科・内科、消化器外科、臨床腫瘍科の混合病棟で、検査や手術が多く、非常に忙しい病棟でした。3交代勤務で、夜勤の間も休憩がままならない日が続いていた時に、師長さんが20時までの長日勤の配置を増やしたことで、準夜勤の負担が減ったことがありました。師長さんの看護師配置の工夫でスタッフの負担を減らすことができると感じ、シフトワークなどの勤務体制や人員配置について興味を持ち始めました。その後、ロンドンに語学留学をした際に現地の病院を見学したのですが、看護師が病院ではなく、診療科ごとに雇用され、夜勤の週・日勤の週とシフトが週替わりであるなど、日本との違いにとても驚きました。帰国後、岩手・一関の昭和病院で看護師として勤務しながら大学院の進学を決意し、受験の準備を進めました。

●進学してみて、どうでしたか?

臨床で感じた疑問をリサーチクエスチョンに落とし込む作業が大変でしたが、研究が進むにつれて、自分が抱いた疑問が解消されていくこと、新しい知見が解明されることに魅力を感じ、研究がどんどん楽しくなっていきました。進学する前は研究に関する知識がなく不安でしたが、博士前期課程では研究方法や統計に関する基礎的な講義があり、研究に関する知識を学ぶことができました。また、学生が主体的に調べてプレゼンテーションを行う形式の講義もあり、同期と切磋琢磨(せっさたくま)しながら取り組みました。博士後期課程では講義は多くありませんが、今振り返ると、博士後期課程の講義は、研究者としての基礎を形作るものだったと思います。講義中に作成した「今後10年間の研究ビジョン」は現在でも時々参照しています。当時立てた目標が徐々に達成できていることを実感し、自信につながっています。

看護師の離職率改善に、職業価値観を尺度化し要因解明へ

●研究テーマとそれを選んだ理由を教えてください

博士前期課程では、看護職の専門職的自律性に対する態度および職業コミットメントの経年変化と、その経年変化が離職意向に及ぼす影響を明らかにしました。博士前期課程に進学してまず取り組んだのは、看護師の離職率の高さについてや、看護師が働くシフトワークなどの勤務体制や人員配置について、研究したいと思っていたことをどんどん深掘りしていき、これまでになされている研究から、どんなことが分かっていて、どんなことが分かっていないのかを整理しました。先行研究の論文を読むうちに、私が疑問に思っていることは看護師の「自律性」や、看護師という職業への愛着などを示す「職業コミットメント」を測定することで解明できると考えました。これらの概念を縦断的に測定し、離職意向への影響を検討しました。博士後期課程では、この研究を土台に、看護師それぞれが働くことに対して持つ価値観(職業価値観)が職業移動(就職・転職・離職など)に影響すると考え、看護師の職業価値観尺度の開発と関連要因の解明に取り組みました。

●研究室の雰囲気はどうでしたか?

週1回開催されているゼミで研究の進捗報告を行っていたのですが、分野の教員に加え、卒業研究で配属されている学部生から博士後期課程までの大学院生が参加していて、年齢や学年を問わず率直に意見を出し合っていました。大学院生の経歴もさまざまで、他大学で教員として勤務している方や、病院で師長として勤務されていた方など、多角的な視点からアドバイスをもらうことができました。COVID-19が流行する前は、皆で温泉に行ったり芋煮会を開催したりと、分野に所属する学部生・大学院生と交流する機会が多くありました。研究に関する相談だけではなく、学部生の就職活動の相談や、子育てを行う院生同士の相談など、情報交換の場にもなっていました。

成果を社会実装するため事業化を進め、臨床現場に還元

●東北大学の良いところは?

学生に対する支援制度が整っていることや、総合大学としてのメリットが挙げられると思います。キャリア支援や各種カウンセリングの窓口が開かれていて、国際交流の機会も多くあります。日本の中でも最先端の研究が行われている総合大学であるため、研究に関するセミナーやシンポジウムなど、常に何かしらのイベントが開催されていて、さまざまな知見を得ることができます。私も博士後期課程の時に、英語で論文を書くことに苦戦し、アカデミックライティングのセミナーに何度か参加しました。他のキャンパスで開催されているセミナーにもキャンパスバスを利用して参加できました。

● 現在のお仕事について教えてください。また、大学院時代のご経験はどのように活かされていますか?

医学系研究科公衆衛生看護学分野の助教として働いています。学部の講義や大学院における保健師養成コースの講義・実習の運営をはじめ、学部生・博士前期課程学生の研究指導、自身の研究活動、大学の運営業務など業務は多岐にわたります。博士前期・後期課程で培った研究者としての基礎的なスキルは現在の研究活動の礎になっています。さらに、博士後期課程で研究テーマとした看護師の職業価値観は、現在も発展しながら研究を継続していて、私のライフワークとなっています。最近は、看護師がそれぞれに合った職場で働けるように、AIなどの技術を取り入れたWebアプリ開発など、研究の事業化にもチャレンジしています。

●今後の目標や抱負を教えてください

研究をしっかり臨床現場に還元できるように、研究の社会実装に取り組みたいと思っています。2022年度に始めた研究の事業化もその一環ですが、Webアプリ開発もまだ試作段階のため、2023年度はさらにブラッシュアップしたいです。また、研究成果をより多くの看護師へ還元できるように、今後は病院向けのシステム開発にも着手しようと考えています。研究計画を立て、研究を運営していくという基礎的な部分をおろそかにせず、研究成果の公表、社会への還元を目指し、日々まい進するつもりです。

mylife

子どもが2人いるので(どちらも男の子です)、休日はほとんど子どもたちの遊び場巡りに費やしています。仙台は天文台、科学館、動物園、水族館、大きな公園など、子どもが楽しめる施設が充実していると思います。2023年は第40回全国都市緑化仙台フェア「未来の杜せんだい2023 ~Feel green!~」というイベントが国際センターの近くで開催され、子どもと参加しました。色とりどりの花々が美しくとても楽しかったです。

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PROFILE
保健学専攻
看護管理学分野 卒業生
原 ゆかり
Yukari Hara

東北大学医学部保健学科看護学専攻卒業。国家公務員共済組合連合会虎の門病院および医療法人社団愛生会昭和病院で看護師として臨床経験を積む。2015年に医学系研究科看護管理学分野に博士前期課程として進学、2017年に同分野の博士後期課程に進学した。博士後期課程在学中に2度の出産を経て2021年度修了。2023年、東北大学大学院医学系研究科女子大学院学生奨励賞(七星賞)受賞。現在は公衆衛生看護学分野の助教として勤務している。