拠点メンバー

曽良 一郎(精神生物学)

曽良一郎

1986年岡山大学大学院医学研究科(神経精神医学)修了,5年間精神科医として単科精神病院に勤務の後,米国アリゾナ大学医学部薬理学教室,米国NIH薬物依存研究所にて客員研究員,分子遺伝学研究室長,1999年より東京都精神研・分子精神医学研究部門長,2002年より現職。専門は生物学的精神医学、分子精神薬理学。日本生物学的精神医学会理事、厚生労働省薬事・食品衛生審議会委員などを勤める。

5年間での研究のまとめ

統合失調症、注意欠陥多動性障害、薬物依存、ストレス性精神疾患について遺伝子改変マウスを用いた動物モデルと、臨床的アプローチの両面から研究を行ってきた。統合失調症の認知機能障害についてドーパミン神経伝達が過剰なドーパミントランスポーター(DAT)欠損マウスをモデルとして検討した。ヒトにおいても認知機能障害を反映する生理学的指標であるプレパルスインヒビション(PPI)はDAT欠損マウスで低下し、ノルエピネフリンにより制御される前頭前野皮質から側坐核へのグルタミン酸神経回路の賦活により回復することを見いだした。臨床研究では厚労科研障害者対策総合研究事業の研究代表者として米国において統合失調症の体系的な認知機能評価を目的として作成された包括的神経心理学的テスト・バッテリー(MATRICS Consensus Cognitive Battery: MATRICS-CCB)の日本語版を開発し、統合失調症における神経認知機能の低下が社会生活機能と相関する結果が得られた。

注意欠陥多動性障害の病態研究では戦略的創造研究推進事業(CREST)の分担研究者として、健常人では興奮作用のある中枢刺激薬であるメチルフェニデートが多動の抑制に働く作用機序について検討し、発達期に依存してメチルフェニデートの治療効果が異なることを見いだした。オピオイドは鎮痛、報酬効果に重要な役割を果たしていることが知られているが、μオピオイド受容体ノックアウト(MOR-KO)マウスは、野生型と比較し、身体的のみならず心理的ストレスの応答が減弱していることを見いだした。

覚せい剤であるメタンフェタミン反復使用による精神病は、本邦の多施設共同研究による相関解析によりモノアミン神経伝達に関与する分子も含めて様々な脆弱性候補遺伝子を同定した。さらに米国NIHとのゲノムワイド相関解析による共同研究により、これまで注目されてこなかった神経可塑性に関与する分子にメタンフェタミン依存との相関性が認められた。さらに覚せい剤精神病の動物モデルの解析によりドーパミン神経伝達のみならずセロトニン1B受容体を介するセロトニン神経伝達が重要な役割を果たすことを見いだした。上記の研究を含め厚労科研・医薬安全総合研究事業での薬物依存研究班の臨床グループリーダーを務めた。

代表的な論文
  1. Uhl GR, Li S, Takahashi N, Itokawa K, Lin Z, Hazama M, Sora I. The VMAT2 gene in mice and humans: amphetamine responses, locomotion, cardiac arrhythmias, aging, and vulnerability to dopaminergic toxins. FASEB J 14: 2459-2465 (2000)
  2. Sora I, Hall FS, Andrews AM, Itokawa M, Li XF, Wei HB, Wichems C, Lesch KP, Murphy DL, Uhl GR. Molecular mechanisms of cocaine reward: combined dopamine and serotonin transporter knockouts eliminate cocaine place preference. Proc Natl Acad Sci USA 98: 5300-5305 (2001)
  3. Ikeda K, Ide S, Han W, Hayashida M, Uhl GR, Sora I. How individual sensitivity to opiates can be predicted by gene analyses. Trends Pharmacol Sci 26(6): 311-317 (2005)
  4. Ide S, Kobayashi H, Ujike H, Ozaki N, Sekine Y, Inada T, Harano M, Komiyama T, Yamada M, Iyo M, Iwata N, Tanaka K,Shen H, Iwahashi K, Itokawa M, Minami M, Satoh M, Ikeda K, Sora I. Linkage disequilibrium and association with methamphetamine dependence/psychosis of mu-opioid receptor gene polymorphisms. Pharmacogenomics J 6(3):179-188 (2006)
  5. Yamashita M, Fukushima S, Shen H, Hall FS, Uhl GR, Numachi Y, Kobayashi H, Sora I. Norepinephrine Transporter Blockade Can Normalize the Prepulse Inhibition Deficits Found in Dopamine Transporter Knockout Mice. Neuropsychopharmacology 31(10):2132-2139. (2006)

出版・媒体

Copyright © Tohoku Univ. All Rights Reserved.