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講義・セミナー名 |
講演会「細胞が持つゆらぎ発生機構とその機能」 |
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開催日時 |
2008-03-21 09:00 |
開催場所 |
東北大学 工学部機械知能系2号館214号室 |
講演会「細胞が持つゆらぎ発生機構とその機能」
日 時:平成20年3月21日(金)9:00-12:30
場 所:東北大学 工学部機械知能系2号館214号室
http://www.ic.is.tohoku.ac.jp/J/access/index.html#city
講演題目と講演者:
9:00-9:15 「細胞追跡機能付き蛍光顕微鏡を用いた細胞内ゆらぎの計測」
五十嵐康伸(東北大学)
9:15-9:50 「走化性細胞における自発的シグナル生成と濃度勾配検知」
本田直樹 先生(奈良先端科学技術大学院大学)
9:50-10:55 「ゾウリムシの膜電位ゆらぎと走性行動」
中岡保夫 先生(大阪大学)
11:00-12:30「生物の自発性について」
大沢文夫 先生(愛知工業大学)
講演要旨:
「細胞追跡機能付き蛍光顕微鏡を用いた細胞内ゆらぎの計測」(五十嵐 康伸)
細胞機能の実現機構を物質の言葉で説明することを目標とする分子生物学分野
において、細胞内イオンや分子の観察は必須の技術である。主な観察装置の一つ
に、細胞内イオンに付けた色素が発する蛍光を観察する蛍光顕微鏡がある。しか
し動く細胞を観察していると、細胞が顕微鏡の視野外に出て観察が中断してしま
うという問題が、従来の蛍光顕微鏡にはあった。これまでの問題解決法として、
<1> 対物レンズの倍率を下げて視野を広げる、<2> 機械的または化学的に細胞の
動きを抑制する、があった。しかし <1> では空間解像度が低下し、<2> では細
胞へ悪影響を及ぼす可能性がある。そこで我々は、ロボット工学におけるビジュ
アルフィードバック制御を顕微鏡に応用し、新しい問題解決法である <3> 動く
細胞を自動追跡できる蛍光観察顕微鏡を開発した。そして、開発した顕微鏡を用
いて、高速に動くゾウリムシの細胞内に生じるCa2+濃度のゆらぎを、世界最高の
空間解像度で計測することに成功した。
「走化性細胞における自発的シグナル生成と濃度勾配検知」(本田直樹 先生)
細胞の挙動は、本質的に揺らいでいる。この原因の一つとして、細胞内に存在
する各分子のコピー数が少ないために、化学反応の確率性が顕著になることが考
えられている。一見、このような揺らぎは細胞機能に不利に働くように思うが、
細胞はこの揺らぎを積極的に利用することで細胞機能を実現しているかもしれな
い。この問題に取り組むため、アメーバ状の走化性細胞の濃度勾配検知に注目した。
走化性細胞は自発的かつ確率的な移動を示す。この自発的移動は、細胞内にお
ける分子シグナルの自発的な生成によると考えられている。実際、いくつかの免
疫系細胞においては、自発的にphosphoinositol-3,4,5-triphosphateが一過的に
上昇し (PIP3パルス)、細胞移動を制御している。
本研究では、「PIP3パルスの生成機構」および「自発的パルスによる濃度勾配
検知機構」の解明を目指している。そのために、簡単なシグナル伝達の模型を構
築した。理論的な解析により、この系が興奮系に成り得ること、および、化学反
応の確率性により系が自発的に興奮しPIP3パルスを生成することを示した。ま
た、細胞に濃度勾配が与えられると、興奮のためのポテンシャル壁を空間的に変
化させ、PIP3パルスが高濃度側でより多く生成することで、濃度勾配が検知され
ることを示した。この仮説は確率的な系だからこそ成り立つ論理である。さら
に、この仮説が有効であることをモンテカルロ計算機実験により確認した。
「ゾウリムシの膜電位ゆらぎと走性行動」(中岡保夫 先生)
一様な環境条件下でもゾウリムシは常に数mV程度の膜電位ゆらぎを発生させて
いる。ゆらぎが脱分極向きに起きた時、繊毛膜にあるCa2+チャネルが開きさらに
大きな脱分極スパイクが発生する。その結果、自発的な繊毛打の逆転と泳ぎの方
向変換が起きる。温度勾配容器の中でゾウリムシが培養され適応した温度附近に
集まることができるのは、適応温度から離れる向きの温度変化に応答して温度受
容電位(一過性の脱分極)が発生し多数の脱分極スパイクが伴うために、泳ぎの
方向変換頻度が上昇することによる。温度受容電位の発生は細胞膜を構成する脂
質の状態変化が関わっているらしい。膜脂質の流動性が、適応温度から上または
下に向かう温度変化で大きく変化する転移の中心点になっていることが重要であ
る。光感受性で細胞内にクロレラを共生させている種類のゾウリムシは、適度の
明るさの光スポットに集まる。このゾウリムシは光を受容すると細胞内のcAMP濃
度が上昇し、これにより細胞膜にあるCa2+、 K+両方のチャネルが開く。その結
果細胞内のCa2+濃度が一定のレベルに上昇し繊毛が直立状態で打つようになる。
そうすると繊毛波が形成されず有効な水流が生じないために泳ぎが停止し結果的
に明るい場所に集まる。たかがゾウリムシとはいえ、さすが生き物という話がで
きればと思っています。
「生物の自発性について」(大沢文夫 先生)
(1)ゾウリムシの自発信号発生のメカニズム:タンパク質分子のミクロな熱ゆ
らぎから、“場”のゆらぎへ、そして細胞の運動にみられるマクロなゆらぎへ、こ
の過程で膜を透るイオンの循環電流が重要な役割をする。
(2)ゾウリムシの行動制御メカニズム:環境が変化したときのはやい応答:興
奮とおそい応答:適応、それぞれの時間の中間に自発的方向変換の平均時間間隔
をセットすることによって常に変化する自然環境に適合した行動をとる。
(3)単細胞生物の自発性と高等生物、ヒトの自由意志、自意識との関連について
(付録)電場中でのゾウリムシの行動についての2、3の実験、真性粘菌につい
ての同様の実験の紹介