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講義・セミナー名
第10回若手フォーラム
開催日時
2008-09-26 15:30
開催場所
医学部5号館2階201号室
概要

■ 日時:9月26日(金)15:30-18:00(講演会後、交流会を催します)
■ 会場:東北大学医学部5号館2階201号室
http://www.med.tohoku.ac.jp/access-j.html

■ 講演1:マウス成体脳における継続的なニューロン新生の役割

講師:今吉格 博士
(京都大学ウイルス研究所・京都大学生命科学研究科・CREST)

概要:従来、ニューロンの産生は発生期においてしか行われないと考えられていたが、ヒトを含めた哺乳類の成体の脳においても神経幹細胞が存在し、側脳室周囲の脳室下帯や海馬の歯状回といった特定の領域では、ニューロンの新生が一生涯続いている事が解ってきた。成体脳において新たに産出されるニューロンの中には、既存の神経回路に組み込まれるものもあるが、このようなニューロン新生が個体にとってどのような生理的意義を持っているのかはよくわかっていなかった。高次脳機能との関係についても多くの議論がなされているが、実験的なアプローチがなされた例は少ない。これは成体の神経幹細胞や新生ニューロン特異的に遺伝子操作を行うことが困難であったことが大きな要因であると考えられる。本研究では、薬剤投与により、成体脳に存在する神経幹細胞特異的に遺伝子組み換えを誘導できるトランスジェニック(Tg)マウスを作製した。この Tgマウスを用いて、成体脳神経幹細胞から産生される新生ニューロンの選択的標識と除去を行った。嗅球においては、12ヶ月の間に顆粒細胞の多くは新生ニューロンに置き換わっている事が明らかになった。また、新生ニューロンの供給を阻害したマウスの嗅球では、顆粒細胞の数が経時的に減少する事から、ニューロン新生は嗅球の顆粒細胞の数、及び神経回路の維持に必須である事が解った。一方、海馬・歯状回においては、ニューロン新生により顆粒細胞の総数が増加した。新生ニューロンの供給を阻害しても歯状回の組織構造そのものには異常は見られなかったが、野生型マウスで観察される顆粒細胞の増加が見られなかった。これらの結果より、マウス成体脳におけるニューロン新生は、脳の構造と機能にとって重要な役割をしている事が解った。特に、嗅球においては多くの顆粒細胞が新生ニューロンに置き換わっている事から、ニューロン新生は嗅覚神経回路の再構成に寄与している可能性が示唆される。一方、歯状回においては、既存の神経回路の増幅に寄与している可能性が示唆された。さらに、新生ニューロンの供給が途絶えたマウスに対して行動解析を行ったところ、臭いの識別や嗅覚記憶には顕著な異常は見られなかったが、海馬依存的な空間記憶や条件記憶の形成が障害されることが明らかになった。また、成体脳神経幹細胞の増殖・分化制御におけるNotch-Hes pathwayの関わりについても議論できればと思います。


■ 講演2:神経変性疾患の生化学〜アルツハイマー病のアミロイドを中心に〜

講師:武田和也 博士
(国立長寿医療センター研究所・血管性認知症研究部)

概要:老年期の代表的な認知症であるアルツハイマー病(AD)は、記憶障害に加え、見当識障害や学習困難、判断能力の低下を主症状とし、重度になると失行や運動障害により寝たきりにもなる、慢性進行性の神経変性疾患である。AD患者脳に見られる病理学的特徴は、細胞外に多量に形成される老人斑と、神経細胞内に出現する神経原線維変化、そして神経細胞の変性・脱落による脳の萎縮である。老人斑が他の病変に先行して出現し、また疾患特異性があることから、ADの発症機序として、その中心に沈着しているアミロイド、その主要構成成分であるアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積がその他の病変を引き起こすという、アミロイドカスケード仮説が提唱されている。Aβは約40アミノ酸からなるペプチドであり、その前駆体タンパク質(APP)より、プロテアーゼにより切り出されて生成する。一部に存在する家族性ADの原因遺伝子変異がAPPのAβ領域、あるいはその近傍に見いだされていること、またAβ領域における一部の変異が、Aβの蓄積部位や臨床像の異なる疾患を引き起こすことから、この分子の構造や物性がAD発症の鍵を握っているものと考えられる。しかしながら、数多くの研究成果にもかかわらず、ADを良く再現するモデル動物が得られないこともあって、ADにおける神経細胞死の機序については、未だに明らかになっていない。本講演では神経変性疾患において見られる不溶性タンパク質の蓄積や、アミロイドについて紹介し、AD研究の歴史において生化学が果たした役割とアミロイドカスケード仮説について、Aβを中心に、筆者の研究成果も交えて解説する。さらに、各種のADモデル動物の作製とその解析がもたらした、神経機能障害に関する新たな知見と、近年注目されているAD治療法の開発の歴史と現状についても述べる。

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