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講義・セミナー名 |
東北大学脳科学GCOEセミナー「哺乳類の卵はほんとうに調節卵?」 |
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開催日時 |
2008-01-11 17:30 |
開催場所 |
星陵キャンパス・5号館2階201セミナー室 |
演者 二宮洋一郎 博士
(オクスフォード大学動物学教室哺乳類発生研究室)
演題 哺乳類の卵はほんとうに調節卵?
ヒトやマウスなどの哺乳類の成熟卵や接合子が、ショウジョウバエやアフリカツメガエルがそうであるように、その発生運命や体軸形成に関して既にパターン化されているか否かという問題は、長らく発生生物学者の間で論議を引き起こし、今でも決着を見ていません。
パターン化されている成熟卵や接合子に関して最も良く研究されている例は生殖系列の発生過程で、哺乳類とそれ以外の動物の間で一見おおきな違いがあります。ショウジョウバエでは、卵形成の過程で極顆粒と呼ばれる生殖質に特異的な細胞内顆粒が成熟卵の後極に配置されます。受精後の細胞分裂により、この極顆粒を取り込んだ胚後端の細胞のみが、将来の生殖系列として始原生殖細胞、さらに配偶子の形成にかかわります。このような始原生殖細胞の発生様式は昆虫のみならず、脊椎動物のアフリカツメガエルなどにも観察され、一般的にモザイク卵あるいはモザイク胚の一特徴として分類されています。
ところが、哺乳類の始原生殖細胞は発生過程のほぼ中期、着床後の原腸形成に伴う中胚葉の一部として胚体外に初めて観察され、初期の卵割期の胚の段階ではどの割球が始原生殖細胞を生成するかは未決であるとされています。また、哺乳類の成熟卵や接合子には、極顆粒のような生殖質に特異的な細胞質内構造物は報告されていません。このような発生様式は調節卵あるいは調節胚と分類され、体軸形成や始原生殖細胞の細胞分化をふくむ発生運命は細胞間の相互作用によって調節的に決まると考えられています。
最近、ハエやカエルの生殖質の重要な構成要素であるミトコンドリアリボゾームRNAは、マウスの成熟卵でも動物極に局在することが報告されました。今回は、哺乳類の成熟卵や接合子にもモザイク的要素が存在する可能性について議論する予定です。