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7/20(金) セミナー


医学系研究科
21世紀COEプログラム





摂食行動と自律神経回路  
               医学系研究科 独立COEフェロー(分子代謝病態学分野) 野々垣勝則
                            

飽食の時代に急増している内臓脂肪蓄積症候群は、動脈硬化性疾患の発症を高め老化促進の原因となる。若い頃は、よく食べてよく動きスマートな体型であったのが加齢と共に何故、内臓脂肪が蓄積し、落ちにくくなるのか?  

摂食と自律神経系の中枢性制御機構は解離しており、末梢―脳の間には「自律神経回路」が存在する。その回路の破綻が内臓脂肪蓄積を引き起こすという説(Nature Medicine 1998,1999, Diabetologia 2000)を私は提唱した。この自律神経回路の破綻の第一原因は摂取エネルギーの過多である。慢性の過食は身体活動量が多くても加齢と共に内臓脂肪蓄積を促進する(Diabetes 2003)。従って、中年期発症の内臓脂肪蓄積の防御・治療には、1)過食の制御と2)自律神経回路の整調・修復が重要であると想定し、我々はこの2点から過食と肥満の新規治療法の開発に取り組んでいる。

1)セロトニンシグナル伝達障害による食欲変容
脳内セロトニン系はうつ、不安のような感情や自律神経系の制御だけでなく、摂食や身体活動のような行動の制御にも深く関わる。そのシグナル伝達障害は、うつ、不安障害、パニック障害、過食症、肥満、糖尿病、動脈硬化などの多彩な病態と関連している。抗うつ薬として用いられているセロトニン系薬剤は、食欲低下を来たす大うつ病に投与すると、食欲亢進が薬効となる反面、食欲が亢進する無茶食い障害や肥満に伴ううつに投与すると、食欲低下が薬効となる。このようにセロトニン系薬剤は、個体の病態に応じて食欲に対する薬効が変わり、また遺伝素因や環境因子により作用の変容が生じうる神秘な薬である。我々は食欲調節に関わるセロトニンシグナル伝達機構を解明することで既存のセロトニン系薬剤のテーラメイド処方、他剤との飲み合わせによる効果の変容、より選択的な抗過食薬創生の標的探索を研究している(図1)。
   その成果の1つとして2006年に摂食とエネルギー消費の制御に関わる新たな標的遺伝子の発見から「披検物質の食欲抑制効果をスクリーニングする方法」を発明した(特願2006-114578)。この発明は薬剤や健康食品の食欲抑制効果、脳内活性経路、毒性のスクリーニングに広く活用されることが期待される。

2)環境因子と自律神経回路のシグナル伝達障害 
肥満を誘発する環境因子として、高脂肪食が定番のように動物実験で用いられている。高ショ糖・高脂肪食は自律神経回路の伝道障害を誘発・促進する(図2)。我々は自律神経回路に影響を及ぼす新たな環境因子を同定し、内臓脂肪の燃焼・蓄積を来たす機序を解析している。新たな肥満防御薬への進展が期待される。






FIG. 2 Autonomic neural circuits vs feeding(Nonogaki K, Nat Med 1999)