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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム




ジーゼルエンジン廃棄物によるアトピー性疾患増加の原因の解析と予防法の開発
医学系研究科皮膚科学分野 教授 相場節也

 これまでの多くの疫学的研究、また、実験動物、ヒトにおけるin vivoの研究から、ジーゼルエンジン廃棄物 ( Diesel emission particultates (DEP))およびホルマリンとアレルギー性鼻炎、喘息の発症との関連性が明らかにされてきた。しかし、その反面、どのような機序によりDEP、ホルマリンがそれらの病態を誘導するか明らかにされていない。また、その薬理学的対策方法の検討もまったくなされていない。そこで、われわれは、健常人、末梢血T細胞をanti-CD3 Ab/anti-CD28 Abで刺激する培養系に、DEP、ホルマリンを加えて、T細胞のIFN-γ、IL-4、IL-5、IL-8、IL-10のmRNA発現(real-time PCR)、蛋白産生におよぼすDEP作用を検討した。また、同じく健常人より単球由来樹状細胞(MoDC)を誘導し、それらをagonistic anti-CD40 Ab、および、agonistic anti-CD40 Ab + IFN-?で刺激し、その系におけるDEPのIL-1?、 TNF-?、IL-10、IL-12p40、IL-12p35のmRNA発現 (real-time PCR)、蛋白産生におよぼす作用も調べた。また、T細胞に対する作用を検討する際には、DEP、ホルマリンの免疫調節作用の特徴を明らかにする目的で、すでに臨床的に用いられ、その人体に対する作用が明らかな免疫抑制剤であるDexamethasone(DEX)、Cyclosporine A(CyA)、Tacrolimus(FK506)、Methotrexate (MTX)を対照として比較した。DEPは、IL-4、IL-5のmRNA発現に関してはほとんど影響を及ぼさない反面、強力にIFN-?とIL-10のmRNA発現を抑制する点が特徴的であった。IFN-?とIL-10のmRNA発現の程度は、極めて高濃度のDEXの効果を遙かに凌駕し、同じく高濃度のCyA、FK506の作用に匹敵した。T細胞からのサイトカイン分泌に関しても、やはりDEPはIFN-?とIL-10の産生を強力に抑制した。一方、樹状細胞に対しては、mRNAの発現に関して、DEPは、TNF-?、IL-1?のmRNAの発現を増強し、IL-12p35、p40のmRNAの発現を抑制した。同様の結果が、サイトカインの分泌に関しても観察された。この所見は、DEPが樹状細胞の成熟を促進しアジュバント活性を賦与しながら、一方で、IL-12の産生を抑制することを意味し、Th2細胞の分化誘導に極めて有利な条件を提供することを示唆するものである。以上の所見は、これまでの疫学的観察やin vivoでの報告を細胞レベルで裏付けるとともに、in vitroでDEPの作用を解析することを可能にした。また、我々は、この実験系を用いて、DEPのリンパ球、樹状細胞に対する影響を抑制する薬剤の開発に着手する予定である。