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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



細胞骨格、細胞運動を制御するシグナル伝達機構
生命科学研究科情報伝達分子解析分野 教授 水野健作

  細胞骨格のリモデリングは細胞の運動、接着、極性、形態変化、分裂、分泌など細胞の基本活動を支える中心的な役割を果たしており、白血球の遊走、癌細胞の浸潤・転移、血管新生、神経回路形成、細胞分裂、器官形成など細胞の運動性や形態変化が関わる多くの生命現象の基盤となっている。多くの疾患やシグナル伝達病の病因を理解し、癌転移の阻止、血管新生、神経再生などの新たな治療法を開発するためにも、細胞骨格系を制御するシグナル伝達機構の解明が必要である。私たちの分野では、細胞の運動性と形態を制御する細胞内シグナル伝達機構とアクチン細胞骨格の再構築制御機構の解明を目的として研究を進めており、これまでに、アクチンフィラメントの脱重合・切断因子であるコフィリンをリン酸化、脱リン酸化する新規なプロテインキナーゼ(LIM-kinase, TESK)とホスファターゼ(Slingshot)を同定し、アクチン細胞骨格の再構築を制御する新しいシグナル経路の解明を進めてきた〔図1〕。コフィリンはアクチン骨格の再構築制御の中心的な役割を果たしており、これらの経路は、細胞外シグナルと細胞骨格、細胞運動の制御系をつなぐ最も重要な経路の一つであると考えられる。私たちの分野では、さらに新しいシグナル経路の解明を目指すとともに、癌細胞の浸潤・転移、白血球の遊走、血管新生、神経回路形成、細胞質分裂におけるこれらのシグナル経路の役割と分子機序の解明を目指している〔図2〕。現在進めている主な研究テーマは以下の通りである。1)細胞骨格、細胞運動、細胞極性を制御するシグナル伝達機構。コフィリン、LIMキナーゼ、Slingshotのシグナル経路を中心に、細胞運動、細胞極性の形成機構の解明を目指している。2)蛍光イメージングによる細胞骨格制御システムの時間的・空間的制御の可視化。3)癌細胞の浸潤・転移機構。癌細胞の運動能、接着性の変化、癌転移標的器官の選択性の獲得の分子機構の解明を目指している。4)神経回路形成と神経再生機構。神経ガイダンス分子や神経再生阻害因子の下流のシグナル伝達を明らかにし、神経ガイダンス及び神経再生を制御する分子機構の解明を目指している。5)細胞質分裂の制御機構。細胞分裂時の収縮環の形成、収縮、消失の機構について、コフィリンの活性制御を中心に、シグナル伝達、細胞周期、蛍光イメージングの観点から解析を進めている。


図1 LIMキナーゼとSlingshotによるコフィリンの活性制御機構
図2 アクチン細胞骨格の再構築は細胞の形態、運動性、接着、極性、分裂の基本であり、高次生命現象の理解に必須である