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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム




細胞増殖関連分子群の発がんへの関与についての研究
医学系研究科発生分化解析分野 教授 中山 啓子

 細胞が二つに分裂する際には、正確に一度だけ遺伝情報を複製し、それを娘細胞に分配する。この仕組みを司っているのが細胞周期関連遺伝子群である。われわれは細胞周期の進行を負に調節する因子であるサイクリン依存性キナーゼ阻害分子(CDK Inhibitors: CKI)の生理的な役割と発癌における関与に興味ををもち、研究を進めている。CKIの中でも最も分化と増殖制御に関連が高いp27Kip1という分子に注目し、その遺伝子を人工的に破壊したノックアウトマウスを作成した。その結果、マウスの体全体が大きくなり(図1参照)、特に免疫系、神経系、生殖器系が著しい過形成を示した(図2参照)。またこのマウスは下垂体に腫瘍を頻発し、死亡することから、p27Kip1は癌抑制遺伝子であることも明らかとなり、臨床的にもp27Kip1の発現が低い腫瘍は悪性度が高いことが判明した。ところが、p27Kip1遺伝子に変異を持つ腫瘍はみられず、むしろp27Kip1タンパク質の安定性が重要であることがわかり、発現制御の分子メカニズムの解明が次の目標となった。p27Kip1は、ユビキチン・プロテアソーム系によって分解されることが報告された。そこで、われわれはp27Kip1にユビキチンを付加するユビキチンリガーゼの基質認識サブユニットSkp2のノックアウトマウスを作製し、その生理的効果を調べた。Skp2ノックアウトマウスでは、p27Kip1の異常な蓄積が認められ、細胞核が巨大化し、中心体が過剰に存在することが明らかとなった(図3参照)。

 ところでp27Kip1は、細胞周期におけるG0-G1移行期において急速にユビキチンプロテアゾーム系によって分解されるが、Skp2ノックアウトマウスのリンパ球を用いた解析では、Skp2が欠失した細胞でも、増殖刺激によって細胞増殖を誘導するとG0-G1移行期にp27Kip1が速やかに分解された。一方S-G2期にかけて正常ではみられないp27Kip1の蓄積が見られ、最終的には細胞周期が停止する。このことから、G0-G1移行期における急速なp27Kip1の分解はSkp2以外の分解機構によって生じることが示唆され、逆にS-G2期におけるp27Kip1の分解にはSkp2が必須であり、S-G2期でのp27Kip1の蓄積がSkp2ノックアウトマウスにみられる細胞核の巨大化や中心体の過剰複製に関与すると考えられる。
またわれわれは、G0-G1移行期にp27Kip1は核から細胞質へ移行した後に分解されること、この核外移行は10番目のセリン残基のリン酸化に依存しているが、Skp2に依存しないことを見出した(図4参照)。現在、この核外移行が細胞が静止期から細胞増殖へむかう引き金であると考え、分子機構を明らかにしたいと考えている。