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COE第3回
   国際シンポジウム


医学系研究科
21世紀COEプログラム



Tリンパ球分化の遺伝子制御
加齢医学研究所 免疫遺伝子制御研究分野 教授 佐竹 正延

 造血幹細胞は幾つかの段階を経て、最終的に機能しうるTリンパ球に分化するが、各段階は厳密な遺伝子制御の下にある。また他の系列の細胞分化と異なり、その遺伝子制御が免疫応答能の発生を目指して協調して行われることが、Tリンパ球分化の大きな特徴である。例えばシングル・ポジティブ(SP)のTリンパ球の分化においては、レセプターからのシグナルがその運命を左右する。即ち、胸腺においてはダブル・ポジティブ(DP)細胞に強い/長時間のTCRシグナルが作用するとCD4SPへ、弱い/短時間のシグナルが作用するとCD8SP細胞に分化する。また末梢のCD4SP細胞においては、TCRとIL-4Rからのシグナルが協調することにより、ヘルパー2(Th2)細胞に分化する。

 我々は細胞の自律性に注目し、Tリンパ球分化における転写因子機能を解析した。そしてRunx転写因子がその中心的プレイヤーの1つであることを見出し、世界に先駆けて報告してきた(図1)。例えば正の選択を受けた後のCD4SP細胞が胸腺内で増殖するのにRunx1が必須であること、末梢CD4SPのTh2分化にRunx1が抑制的に作用すること、またDPからCD8SP胸腺細胞への分化にはRunx3が関与することなどである。

 しかしながらレセプターからのシグナル(上流)、Runx転写因子の発現、その標的遺伝子(下流)の間のリンクについては未だ明らかではない。またRunxと相互作用する転写コゥファクターやRunx機能を修飾する分子の実態も不明である。本COEにおいては、Tリンパ球の幾つかの分化局面における遺伝子制御の分子実態を統合的に明らかにすることを目標とする。また以上の遺伝子制御が破綻すれば、癌や免疫疾患の発症にもつながると予想される(図2)。疾患との関連についても貢献したい。

図1:Tリンパ球分化の様々な局面における
   Runx1転写因子の機能。
図2:Runx1転写因子を過剰発現させた
   マウスで見られた胸腺腫(右図)
   のフローサイトメータ解析。
   左図は正常胸腺。